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21 タコサンの次はパンダ

「まずはこれ、道具から揃えないとな?」


 ルークさんがぽつっと呟いた。誰にと言う訳じゃなく、話の流れに落としたような声だったけれど、他の二人もその言葉に頷いた。桜庭が放り込んできた「夏至祭案」という謎企画。

 

 ――たこ焼き、かき氷、法被。


 どれもこの世界には存在しない。つまり、全部一から作るしかない。


 なのにここに居る彼らは、桜庭の謎案を具現化しようとしてくれている。否定することなく。一言「出来ない」と言えばいいものを、前向きに考えている姿になんだかジーンとするやら、呆気にとられるやらで。


「本当にこの案を採用するんですか……?」


 不安でしかないんだけど。

 私は確認するように、ルークさんに聞いてみる。


「まぁ、ダメなときはダメな時だ。やってみなきゃわかんないだろ?」


 そう言って、ニッっと笑うルークさん。


「そうそう。祭ってのは、準備も含めて楽しむもんだって、相場は決まっている。なぁ?ノール」


 ヴィンセントさんもルークさんの言葉に続き、それをノールさんに振った。


「あぁ」


「それだけかよ!」


 ノールさんの短くも淡々とした返答に、少しずっこけるような仕草をしつつも笑うヴィンセントさん。

 見てる私もほんわかとした気持ちになって、顔が緩む。


「そうですね。じゃあ……やれるだけやってみましょう!」


 私も気合を入れるように、胸元で拳を握った。


「わぁ~! 皆さん気合が十分ですね~! タコサン祭楽しみです~!」


「タコサン祭じゃないし! ネーミングセンス、疑うわ!」


 謎の決意表明後、桜庭は「タコサン」を全面的に推すつもりらしい。


「じゃあ、まずは道具だな。それなら俺、思い当たる職人がいるぜ」  


 ヴィンセントさんが言った。

 既に椅子を立ち扉に向かい始めた彼は、背中越しに振り返る笑みは軽かったけれど、足取りには迷いがない。

 

 こうして、ヴィンセントさんに案内されながら、私・桜庭・ノールさんの四人は職人さんの所へ。ルークさんとチャーチャは、ルーメン亭で留守番となった。



 煉瓦敷きの裏通りを歩く。昼の陽射しが強すぎて、赤茶けた道がジリジリと音を立てそうに見える。  

 軒先には布が干されていて、その影が地面にひらひら揺れている。


「この店。道具仕事なら間違いない。変な依頼も、まともに受けてくれるタイプ」


 ヴィンセントさんが指さしたのは、鉄板の看板がぶら下がる店だった。文字は焼け跡の残る打ち込み。扉の向こうからは、金属が静かに組まれる音がしていた。

 

 店の扉は、金具がきちんと馴染んでいて、開けた瞬間に『熱が落ち着いた後の匂い』がする。焼けた鉄の残り香と、油の澄んだ匂い。空気の重さはなくて、工具の並びも、意外と整理されていた。


 ヴィンセントさんが中に入るなり、手を上げて声をかける。


「よう、ロイス。生きてたか?」


「生きてたし、火を使ってる。そっちはまた変な仕事持ち込んできたのか?」


「変っちゃ、変かもな。でもきっと面白いぜ?」


 ロイスさんが笑って、脇にある大きな木の欠片を椅子代わりにして腰を下ろした。ヴィンセントさんも工具棚の端を指で弾いて「今日は道具だ。焼き物と氷の話」と一言だけ。


 二人のやり取りは馴染みすぎてて、会話というより、雑談の延長で作業が始まっていくみたい。


 ロイスさんは、二十代半ばくらいの青年。

 袖に焦げ跡、手は見てわかる程ごつごつしてた。  

 ヴィンセントさんからの依頼を聞くと、私たちが持ち込んだ図面に目を落としてすぐに言った。


「たこ? 焼きの鉄板……この図なら鋳造。三日見てくれれば仕上げられる。窪みの数はこのまま? 熱通りも調整する」


「焼きムラが出ないように、均一な熱で。持ち運ぶので、そこまで重くないようにして頂けますと有難いです」


「どれくらいの重さまでなら、許容できる?」


「成人男性が二人で持ち運べるくらいかな?」


 私はなるべく自分の知識内ではあるが、詳細に伝える。


「底を逃がせば、厚みと熱は両立できる。高さは?」


「立って焼ける感じで、下に火種があるような……」


「理解した。これならできるな。了解」


 会話というより、設計が進んでいく感覚だ。


「氷機? と言うのか? こっちの方は……まだ描ききれてないな。刃の支点、固定部、これは……氷を削る? ってことでいいのか? 具体的じゃないから、想像がつかんな」


「すみません。描き直してみます」


 私は紙を広げる。思い浮かんだのは、幼少期、台所の棚の上にいた白黒のパンダ型かき氷機。  

 笑ってる顔。耳。頭に氷を入れて、帽子型ハンドルを回す。胸元に器があって、ふわっと落ちてくる。構造に無駄なくて、でもどこか優しくて、懐かしいアレ。


 私はその図を起こす。


 ハンドル:上部回転。氷と連動


 押さえ刃:氷に刺して固定


 円盤刃:固定。氷が回って削れる


 器:胸元に配置。受け皿


 顔:描かないつもりだったのに、勝手に笑っていた。


 横からひょっこりと顔を出し、私の書いた図案をみた桜庭が


「これですぅ~! 完璧です! パンダちゃんです!」  


 なぜか拍手喝采してくれた。でも桜庭の言ってる『完璧』は、パンダの事な予感がする。


「この顔はぁ! 夏ですぅ。触ってなくても、冷たい気がします~!」


 やっぱりかよ。


「この顔が夏……」


 ノールさんが図面の端を押さえながら呟いた。


 ロイスさんは苦笑し、図面をもう一度見直した。


「構造としては成立してる。挑戦してみるよ。三日後、ルーメン亭に持っていく。代金は……そうだな。材料費だけでいい。俺も初挑戦だし、試作っつーことで。それに、すげぇ面白そうだからな。こういう依頼があるから職人やめられねぇんだよなぁ」


 そう言ってロイスさんは、興味深そうに図面を見ては何かをメモしつつ、嬉しそうに笑ってくれた。


「じゃ、そういうことで! ロイス頼んだぜ」

「よろしくお願いします」

「パンダちゃんの顔も、楽しみにしてますぅ~」

「よろしく頼む……」


「おう! 任せとけ!」


 ロイスさんの笑顔が、なぜかとっても眩しかった。

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