17 姉はお前じゃないか!
その日の夜。
今日は色々あったからか、身体も普段より疲労を覚えていたらしい。ベッドに入ると直ぐに夢の中へ誘われそうになる。
それをさせてくれないのは、もちろん桜庭。
「タタラバさぁ~ん。寝ましたぁ~?」
ほら、来た。
今日は返事をしないに尽きる。
「私~重大な事に気づいたんですけどぉ~」
またか。どうせろくでもない事だ。
「この世界ってぇ~、なんと! 16か月もあるんですよ~」
「は!?」
思わず、桜庭の方をみて返事をしてしまった。
「あっ、やっぱり起きてたんですねぇ~」
「寝てるけど、その16か月ってなに!?」
「食堂のですねぇ~、壁のカレンダーあるじゃないですか? あっ! カレンダーってどんな絵があるんだろう~? って最後まで捲ってしまいません~? 私、しちゃうんですよねぇ~」
「いいから! 肝心な事を言え!」
「それで~、なんとなぁ~く捲ったら、16月までありましたぁ~!」
16か月!? なんでそーなるの!?
太陽はこの世界にもあるし、月もある。
暦の運行どうなってんの? 謎しかないんだけど……。
「1か月は……20日しかないとかそんな感じなの?」
「いいえ~。12月までは私たちの居た世界と同じで」
「……それなら普通じゃん」
「でもぉ、13月から16月には、31日ありませんでしたぁ」
「13月て……違和感、半端ないわ」
「それに~、16月1日生まれ~とか言いづらくないですかぁ? 私9月生まれなので、セーフです~」
おい。まて。
今、9月生まれって言ったな?
「桜庭が9月生まれなら、私10月生まれだし、姉はお前じゃないか!」
「で、1年が16か月なので~、計算したんですよぉ~」
この野郎!
大事なところをスルーしやがった!
「そうすると、なんと! 私たち20歳なんですよぉ~」
「なんで!?」
なんでそうなるの!? 20歳!?
めちゃくちゃ『若手』ではないか!
「それでですねぇ~、ここからが一番大事なところなんですぅ」
「まだあるの!?」
「私気づいたんですけどぉ」
気づいたこと、多いな! 一度に言えよ。
「なんだかお肌のツヤがこっちに来てから? いいんですよねぇ、若返った? ってゆぅかぁ~」
「若返り……!?」
「年相応? になったってゆーかぁ? タタラバさん、気づきませんでしたぁ?」
言われてみれば、そんな気もしないでもないような?
でも日々生きることに精一杯で、ろくに鏡も見てなかった気がする。
そんな中でも桜庭は、頂いたお給料で『基礎化粧は基本ですからねぇ』とか言って、この世界の化粧品らしきものを買い漁ってたな、と思い出す。
「この世界に来て、得しましたねぇ~」
「そういう問題なのか」
「はい~。あっ、次いでなんですけど~」
ちょっと! まとめて言えっての!
全然寝つけない! いつまで話す気なのよ。いや、桜庭は、自分が眠れないからと私を巻き込んでいるに過ぎない。
睡眠薬でも盛ってやろうか……。
そんな考えが頭を過ぎった。と同時に、桜庭、ここにきて
大事な事を話し始めた。
「この世界と似たゲーム、私、知ってる気がするんですよねぇ~。16か月って設定で、記憶がこう~」
「ちょっと! 一番大事な事じゃない!」
それを先に話すべきでしょうが!
なんで肝心な話が『次いで』なんだよ!
「なんてゲームなの!?」
「くーぅ……くーぅ」
嘘でしょ!? 私を起こしておいてまたこのオチ!?
「桜庭!! 起きろ!」
桜庭の腕を揺すってみるが、寝息を立てながら心地よさそうに寝ているだけ。
起きる気配ゼロ。
「桜庭ぁあ!」
こうして激動の一日は、最後の最後まで、桜庭に振り回されて終わった。
……もやもやだけが、しっかり残ったままで。天体とゲーム? の謎。
はぁ~と深くため息を吐くしかなく。それに呼応したかのように
――月が遠くで泣いてた。
気がする。
★
翌朝。
またしても、睡眠不足に陥った。原因はもちろん、桜庭だ。
朝起きてから、桜庭に思い出したゲームとやらのことを問い詰めたら
『そんな気がするだけでぇ~、私もよくわかんないんですよねぇ~』
とか、ふざけたことを言い放った。
思い出せよ! この世界の根幹にかかわる事じゃないか!
そしてこの世界の根幹と言えばもう一つ。
1年が16か月もあるという、ロングランな世界。
これはどういう理屈でそうなっているのか、謎が深すぎる。
ルークさんに聞いたとしてもきっと、そうなんだからそうなんだぞ。と言われかねないし、仮にこの世界共通事項であるならば、他国の人間と言う設定であっても『コイツ何言ってんだ?』と、思われかねない。
よって、意味不明な1年サイクル16か月の謎を解き明かすには、自分で調べるしかないのが現状だ。
……まぁ、多分。天体の進行がこの世界は、非常にゆっくりさんなのだろう。うん、そう言うことにしておこう。深く考えてはいけない。
「おはようございます」
食堂の厨房に入ると、既にベルンさんが朝の支度をしていた。
今日のベルンさんのファッションコーデは、白とブルーのストライプなバンダナと手ぬぐい。助かった。今日はベルンさんの顔の方を、ちゃんと見て話すことが出来る。
「昨日はお疲れさんやったの。んでば、森で友達にあったんかえ?」
ベルンさんにそう聞かれ、ノールさんのことかな? と思い至る。
「あー、とっても綺麗な男の人……ノールさん? の事ですか? まだ友達……とは違うかも。そうなればいいなーとは思います」
「んにゃ、牙の方だべ」
「牙?」
「んだべ。牙がすげぇて キーラがゆーとったがぁ」
「なぜそれが友達!?」
「森の動物は皆、連れなんださぁ。牙は、ビグベアちゅー名前じゃけん」
あんな連れ、怖すぎて無理でしょ! 食うか食われるかの刺激的な関係すぎて、嫌だ。そして。魔物熊の名前は『ビグベア』と言うらしい。
……『ビッグベアー』? そのまますぎる。
「まー、怪我がのうて、えがったわ。タタラが居なくなるとワシ、泣くじゃけんの」
友達設定どこいった。怪我を負わせる友達て。
でもベルンさんも、心配してくれてた事が嬉しい。
「はい。じゃあ! 今日も張り切って、準備しましょう!」
そう言うと、ベルンさんと私は二人で声を合わせて
「「おー!」」
と、拳を上げた。
寝不足の身体が少し重かったけれども、朝の多忙さにかき消されてゆくような気がして。これくらい忙しいほうが、私にはちょうどいいのかも知れない。




