5.初テスト
これから、陽太にとって、地獄の時間が始まる。
「用紙ぃー、配ったなー?足りないとこー」
「せんせー、こっち足りないです」
「残ったとこどこだー……あ、霧島、渡せ。リレーで良いから」
キンコンカンコン、チャイムが鳴って、シャーペンの芯の、勢いよく弾き出される音が、一斉に響く。
そこからは皆、真剣だ。
カリカリカリカリ、という音が、教室のいたるところから上がって、俺は更に焦る。
(みんな頭良すぎない???)
数学の問題に目を通していき、小問集合を少しずつ解いていく。
(意っ味分かんない……)
元来頭は良くないのである。いくら事前に勉強をしていたとしても、地の出来が違うのだ__と、こっそり言い訳をしてみても、あまり意味を為さない。
時間は刻々と過ぎていく。
「はい、終了ー」
ハッと意識が戻って時計を見る。キンコンカンコン、明るいチャイムの音が、酷く重々しい、地獄の獄卒の声に聞こえた。
◇◇◇
「陽太、どだった」
「……最悪。終わったよ……」
放課後。図書室で2人、こそこそ話す。
最悪とは言葉の通り、テストの結果は散々だった。
「国語はさ、何とか出来たの。でもねー、数学と英語がなぁ」
「お前も文系だもんな」
真音は呆れたように頭をぽんぽんと軽く叩いた。
「なぁに、また解く順番考えないでやったの?」
「……うぅ、そう」
「やっぱお前馬鹿じゃないの」
「真音、現実を突きつけないで……」
たかが3教科、されど3教科、である。
「よりによって国語しか得意教科がないんだもん……」
「それは僕だって同じこと。まぁ今回はかなり解けたとは言えな。それに、お前は中学生ん時の復習、ちゃんとやってないからだろ」
「……やったよー」
「やってないな。間があるということは」
「……鬼!」
「鬼じゃない。お前の幼馴染だ」
不貞腐れた顔で机に突っ伏す俺を見て、真音はからからと笑う。
「次のテスト……つか前期中間テストだけど、それ全体の10分の9以下になったら勉強見てやんないから」
「鬼……」
「だったら真面目に勉強しろ。部活と勉強の両立は大変だろうけど、それでもやってる人はやってる」
「正論すぎて何も返せない……」
ぶーたれた俺に、真音は「ほら」とお慈悲をくれる。頬にひやりと冷たい感触が当たり、思わず「冷たっ」と声を上げる。
見ればそれは俺の好きなメーカーのサイダーで、彼はにやりと笑って差し出した。
「炭酸でも飲んで目ぇ覚ませ」
「神……」
「さっきと違うこと言ってっけど……もっと褒めろ」
どや、と胸を張る彼に、「天才。神。最高の親友」と思いつく限りの賛辞の言葉を贈る。
「何だかんだ言って数学は僕よりお前のほうが良いだろ」
「たかが1点の違いでしょ……」
「たかが1点、されど1点、だ。その1点が命取りなの」
パコン、と教科書で頭を叩かれ、それきり真音は黙り込む。
(勉強、誰か教えてくれないかなー……)
真音にあまり甘えすぎるのも良くないと思っている。甘えすぎが悪いのは百も承知だ。だが、甘えられるのは幼馴染の彼と、彼の兄くらいの為、やはり甘えるのは彼に対してとなってしまう。
(どうした、ものだろうか……)
空を見上げて思いつくことなどないというのに、今日も、いつもと同じように、空を見上げてしまう。
ただただ青くて、雲がちょっぴり、あるだけの空。
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。今回は、とても……とても、遅くなってしまい、本当に申し訳ありません。いろいろ、諸事情が重なったことにより、大分書くスピードが遅くなってしまいました。前回書いてからどのくらい経ったでしょう……すいません、7週間でした。7週間も経ってました……時が流れるのは早いですね……あはは……。
今回は、陽太と真音の初テストのお話です。高校に入ってすぐにある、実力を確認するためのテストですね。まぁ、真音は良いとして、陽太は散々な結果だったのですが……。皆さんはどうだったでしょうか?陽太と同じことをやらかしてなかったでしょうか?(笑)この後、陽太はどのような感じでテストの成績が上がるのか、楽しみですね。
では、また次回にて。