3.部活見学
入学式が終わったあとは、ただただひたすら忙しい。
その一つとしては、そう。
部活見学だ。
◇◇◇
「……とーは言ってもなぁ」
周りがバタバタしている中、
俺はそもそも、偏差値が割と高いこの高校に入れたのはスポーツ推薦のお陰だし。
あんまり、関係ない。
「あとは兼部どこにすっか、ぐらいの感じだし」
運動部推薦で入ったからには責任__というか義務を果たさなくてはいけない。
ソフトテニスが好きだから、わざわざスポーツ推薦で入ったという理由があるとしても、だ。
中学校から始めたソフトテニス。最初は、ただただ部活に入ってみたかっただけ。それも、チーム競技が苦手だからと入った、ただそれだけだった。
……はずだったのに。
いつの間にか魅せられて、取り込まれて、離れがたくなっていた、そんな存在。
スポーツ推薦でここに入ったのは、真音がこの高校に入るから、というのもあるが、一番の理由はそれだ。
楽しくて、やめられなくて、やめ時を見誤って、ずぶずぶはまっていく。そんな存在。
ある意味、中毒とも似ているかもしれない。
でも、その選択が間違っていたとは全く思っていない。
だって……。
「おい、陽太」
「……んぇ?おぁ、真音か」
「寝惚けた顔してんな……数学の授業の時、また寝てたんだろどうせ」
「あー……そうだね」
「そうだねじゃねぇだろバカ野郎」
拳骨が降ってくる。
「痛っ……何すんのさ」
「バカに対する罰」
「それ、ひどくない?」
「寝てたやつが言えたことじゃないだろ」
「ってあぶな、」
再度殴りかかってくる拳を今度は避けつつ、少し距離を開ける。
そして、「ねぇねぇ」と質問する。
「結局、真音は何に入るのか決めたの?」
「決めてない。時間なんてたっぷりあるだろ。別に問題ない」
あまりにも淡白すぎると口を尖らせて問う。
「いや、そうだけどさ……俺が聞きたいの。駄目?」
それに対しても彼は素っ気ない。
「駄目とかそういう訳じゃなくて、ただただ決めてない。それだけ」
「う……真音のケチ」
「ケチとかそういう話じゃないんだってば……」
真音が半目でこちらを見遣る。
「何か今日お前しつこいぞ」
「だって聞きたいんだもん〜……」
「新しく友達でも作って聞けば良いだろ」
「真音ってば、なんか今日、ほんっと意地悪だ」
ちぇ、と舌打ちもどきを舌に乗せ、ふくれっ面をしてみせる。
と、そこへ声をかけてくる人が。
「お、いたいた。犬飼!」
「神山先輩?」
入学初日に「友よ!」と言って背中をぶっ叩いてきた、キャラの濃いソフトテニス部2年の先輩、それが神山哲平先輩だ。顔も濃いので圧も抜群である。
彼は快活に笑い、寝癖をぴょこぴょこさせつつ、こちらへ歩いてくる。
「今週の土曜日、大会あるからってのを伝え忘れてたからな!伝えておこうと思って探してたんだ!……ん?隣の子は」
目線を真音の方へとずらし、怪訝そうな顔をする。
「……斎賀真音、です」
真音が一瞬押し負けたような表情を浮かべ、それでも果敢に一歩踏み出して自己紹介をする。
「あぁ、犬飼の親友って子か!それと、刻弥の弟だな?」
「……兄を知ってるんですか?」
「当たり前だ!俺は2年男子と全員仲が良いからな!」
自慢げに言う彼の言葉に、大きな声で「自称な」と付け足す、勇気ある男がいた。
「酷いな刻弥。俺とお前の仲だろうに」
「誤解を生む言い方をするな!第一お前とは3、4回、話した程度だろうが」
刻弥だった。
真音が少しホッとしたような顔をして、その後不可解そうな表情をした。大方、なんでホッとしたのかが分からないのだろう、恐らく。
「ほら、真音。お前合唱とか文芸とか、色々見に行くんだろ。行くぞ」
「う、うん」
では、と礼儀正しく軽く頭を下げる真音を横目に、刻弥はさっさと歩き出している。その後ろ姿に神山先輩が、「つれないな」と笑う。
「で、大会でしたっけ」
「あぁ!今週土曜日の一般大会だな。個人戦で、ダブルス」
「俺の、ペアって誰なんです?」
「まぁ、そう急くな」
神山先輩は「驚くなよ」と小さく笑う。
「陽太、お前のペアはな……」
「ボクです」
横槍が入った。
2人して目を点にさせて、その人物を見る。
「種子田くん?」
「燈花?何でここに。待ってろって、言っただろ」
神山先輩が少し呆れたような声音で言った。
「だって、とても面白い話してたじゃないですか。わざわざボク抜きでするなんて、酷いなぁ。悲しくなっちゃいますよ、神山さん」
種子田燈花。
昨年の、中学校の高体連で優勝して、全国まで行ったペアの、片割れ。圧倒的な技術力を持つ__前衛。
「久しぶりだね、犬飼くん。高体連ぶりだけど、覚えててくれたんだ」
「……当たり前、だよ。種子田くん、敵の前衛にしたら、すごく戦いづらいから」
ふ、と彼は、「それは嬉しいな」と冗談交じりに笑った。
俺のそれは、心からの本音で。
本気で、頼もしいと感じたからこそ出てきた言葉だった。
一週間ちょいぶりの投稿です。私の書き方は結構効率悪いので、ゆっくりめのスピードで書いていくんですが、今回は割と早めに出せてよかったです。ほんと。
3話目にて初登場の新キャラ・種子田燈花くんです。
彼は、陽太が中学校最後の中体連で、準決勝に当たった相手です。背の低い前衛なんですが、いやはやとても俊敏でして、遅かろうと速かろうと、低いストローク(ボール)を打つと即座に取ってこようとする、とても厄介な相手なんです。陽太は長いラリーを続けるのが正直言ってあまり得意ではないので、焦ったことが原因で負けました。でも、陽太はスポーツマンシップを持って試合に臨む彼のことを、1人のソフトテニスプレーヤーとして尊敬しており、今後のこのペアに期待が高まる所存です。
ちなみに、燈花くんとペアを組んでいた後衛の方は、違う高校に行っています。そこの高校にソフトテニス部があるかどうかは……私と神のみぞ知る(笑)