1.初恋に再会する春
四時間目の授業終了を知らせるチャイムが鳴って、数学の先生の癖にやたらと遅い山上先生の挨拶を終え、俺は一目散に飛んでいった。目的地は言わずもがな、食堂である。
とは言え、俺の目的地は食堂だが、目的は昼ご飯が優先ではない。
「白萩先輩っ!」
さらさらの髪、切れ長の瞳。俺よりもだいぶちっちゃくて可愛くて、だけどすごく頼りになる、大好きな先輩。
白萩美琴。高校二年生の先輩。綺麗で可愛い、「男」の先輩である。
先輩は反射のようにこちらを見ると、げ、と言わんばかりに顔を歪ませる。
俺が焦って手をブンブン振るも、その顔は変わらない。
素早く手を合わせ、お盆を下げると反対側の扉から出て行ってしまった。
切ない気持ちになって肩を落としていると、頭を叩かれた。後ろを振り向くと、我が親友、斎賀真音の姿が。じっとりとした視線を受ける理由、それが意味するのは何か、最近は何となく分かってきた。
でも、思わず愚痴ってしまうのは仕方がないだろう。
「なんで逃げるの……」
「馬鹿かお前」
我が親友、斎賀真音が深い深いため息を吐いて言う。
「食堂で叫ぶな馬鹿。迷惑だろ大馬鹿め」
真音は再度ため息を吐いて、「そありゃ逃げるに決まってんだろ」と呟いた。
「誰が自分よりもでかい後輩に威圧感を感じねーんだよ。今お前何センチ?」
「178……」
「思ってたよかデカ……そんなお前がでかい声出して突っ込んでったら、白萩さんだって怖いだろ」
「えぇ……」
「つーか僕でも逃げるよ。お前が友達じゃなきゃな。だってお前といると自尊心がごりごり削られるもん」
「えぇ……」
しょぼーんと肩をわざとらしく落として見せると、彼は少しだけ慌てたように笑って言った。
「ほら、飯食いに行くぞ。お前にかまけて食い逃すのは嫌だし」
「真音ぉ~!」
「やめろ暑苦しい!」
酷い。
◇◇◇
「白萩先輩っ!」
馬鹿でかい声に、体がびくっと反応する。反射的に振り向くと、案の定、やはりアイツがいた。
内心真っ青になりつつ、にやにやしている刻弥を軽く小突いてから「ごちそうさまでした」と手を合わせ、手早くお盆を下げる。
後は全力で早歩き。後ろで刻弥の忍び笑いが聞こえた気がしたが無視して全速力で逃げる。
「おいおい、親友を置いて逃げるたぁ、随分ひでぇじゃねぇか」
「どうせ追い付くんだから置いてっても良いかと思ったけど?」
「……そりゃそうだ」
何が面白いのか含み笑いをする刻弥に、呆れた視線を送って、目的地__屋上の扉の鍵を開ける。
「いつもいつも、どこから鍵を取ってくるのやら」
「普通に借りてるだけだよ、お前と違って。針金使うくらいなら普通に借りて開ければ良いのに」
「針金でやるから楽しいんじゃねぇの。スリルとスパイ感してさぁ」
「僕には分かんない感覚だ」
嘆息して、彼が出てくるのを待って後ろ手に扉を閉める。
空は青く、清々しい涼風が頬を撫でる。雲がのんびりと空を浮かんで、泳いでるのを見るのが好きだった。
「つかなんでいつも、お前って真音がいることに気付かないん?大体無反応じゃん」
「……居たっけ」
「居た居た。やっぱ気付いてなかったかー。どうせ、あちらも……陽太も、俺が居ることに気付いてないと思うぜ?」
俺、幼馴染みなのにな、と呟く彼を見て無言で頭を抱えると、刻弥が声を上げて笑う。
「何で笑うの」
「後悔してるお前の顔が面白いか……ってぇ」
いてぇよ、と刻弥が口を尖らせた。
僕はつんとそっぽを向いて拗ねたフリをする。
「天誅」
「そんなん天誅じゃねぇだろ!私刑っつうんだそう言うのは!」
刻弥が怒ったように声を荒らげるのを聞いて、さっきとは逆に僕が声を上げて笑う。
彼は唖然としていたけれど、僕を見ているうちに溜飲が下がったのか、はぁ、とため息を吐いた。
「お前さぁ……陽太から逃げんのやめたら?」
「やだ。あいつでかいし」
「俺は?」
「友達だから良いよ」
「美琴の馬鹿野郎」
「え、なんで今の流れで僕、罵倒されたの?」
「知るか。自分で考えろ馬鹿」
「ひど」
「酷かねぇ」
その時、刻弥はこう思っていた。
ふざけんなよ……人たらしめ……っ、と。
私は生活スタイル上、更新が遅めになるかと思われます。出来るだけ早く更新したいとは思っていますが、早くて1週間、遅くて3週間かかるかと思われます。読んでくださる皆様、本当にすいません。それでも読んでいただけると幸いです。






