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京の周り  作者: 古月 うい
神は何にも祈れない
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琵琶弾きの娘、捨てた少女

その次の日も少女はやってきた。


今日も琵琶で弾き語ってくれる。


少し思ったのだが、この伝説は通常の琵琶法師が語るような内容ではない。


なんていうのか、リズムが淡々としすぎている。


物語ではなく、ただ過去の事象を説明したかのような。


まあ、内容自体は興味があるが。




「ある代の御泉水之社の巫女がおりました。


名をゆあといいました。


彼女は舞踊を得手とする才女であったそうです。


彼女の先代は若くして亡くなり、彼女は小さいころから社で巫女として過ごしておりました。


何年の歳月がたったのでしょう。


彼女は少女と呼べる歳ではなくなりました。


あるとき、彼女のいる社のもとに一人の壺装束の少女が訪ねてきました。


名は定かではありません。雪とも美和ともいわれております。


彼女は好いた人が自分の方を向いてくれるのかと尋ねにやってきました。


ゆあは彼女を助けたいと思い、先見鏡を使って未来を見ました。


ゆあは未来に彼女が想い人と結ばれると知り、それを伝えました。


彼女はとても喜び、やがて想い人と結婚し、子を設けました。それの感謝もあったのでしょうが、ゆあと彼女は友達となり、一緒に過ごしました。


彼女は本当に感謝し、そしてゆあに頼り切ってしまっていた。


代替わりがあり、新たな武王によってゆあは先見鏡の使用を王の要請があった場合のみに制限される。


しかし制限した武王、どんどん鏡を使わせ、人を従えてゆく。


人々は口をそろえます。


『巫女様がいれば安心だ』『巫女様に聞けば解決する』『巫女様、巫女様、巫女様!』


そうして時は過ぎました。


やがて人々は彼女に頼り切っていきました。


ある日、大きな乱がおきました。


地方の農民が一揆をおこし、都にたどり着いたのです。


彼女は未来を見ろと言われていなかったので見ていない。


すると彼女の信用は落ちる。


未来を見れないのか、重要な時に見られなければ意味がない、と散々に責められる。


どんどん周りから人がいなくなる。けれどゆあの友人は彼女のもとから離れて行こうとはしなかった。


そんな彼女にゆあはどんどん友情を感じ、禁止されている個人に対する鏡の使用も惜しまないと思うようになっていった。


彼女はずっと社で過ごしていた。だから外を知らなかった。そうして2人はどんどん閉じこもっていく。


やがてゆあの友人に娘が生まれた。


その友人のためにゆあは鏡を使って娘の未来を見た。


すると、ゆあはその娘はゆあの友人を殺すと出てしまった。


ゆあはすぐに伝える。しかし友人は信じてくれない。


友人が会いに来なくなってから十年がたった。


ゆあは友人がさされて亡くなったと知らされ、葬儀のために駆り出された。


得手とする舞踊で友を見送った後、彼女は泉をより人から隠す術をかけ、泉に鏡を沈めた。


もう、彼女にはそれは必要なかったのだ。」


そうして静かに語り終わって離れていくのかと思ったが、少しおろおろしてから冷たいだろうに泉に手を付けた。


「神様、私のことも聞いてください。」


そうして、琵琶を手放してぽつぽつと語ってくれた。


「私は昔は霊泉家の後身である京家の姫だったのです。


けれど盲目になり、京の才人の格下げされ、家を追い出されたのです。


私は盲目になったことにより、心眼という力に覚醒し、今も見えているのです。」


それは…盲目を隠すこともできたはずなのに。どうしてここを選んだのか…


「私は琵琶法師の師匠と出会い、琵琶法師となりました。もともと京の姫として楽器は仕込まれていたのですぐに独立いたしました。


私は12歳に見えますでしょう?これでも15、6歳なのですよ。名を名乗っていませんでしたね。茉莉といいます。


京家で伝えられていたことと琵琶法師に伝えれている伝説を合わせたりしているのです。」


それであんなに淡々としていたのか。


彼女は、本当に私の血縁なのね。


「京にいたかった…


雪色家のお姉さまはあんなに活躍したというのに…


神様の泉なのですよね、ここ。お姉さまがおられた、泉なのですよね。


あんなに活躍なさっていたお姉さまは、もういらっしゃらない…


神様、ここは後宮になるそうでございますよ。私に立ち退きを命じた人が言っていました。


なので、お別れです。神様」


茉莉はたったひとりで、京家に反していく。


その後ろ姿は、とても頼もしかった。

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