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夢見幾夜 京の周り  作者: 古月 うい
神は何にも祈れない
4/25

霊家の姫、常乙女

ひな乙女 うない遊びもなきままに 天つ乙女に 見いだされたり 常乙女 戻ることすら かなわずに  悲風惨雨も とどかぬままに


その長歌を見つけたのはどこだったか、掛詞も序言葉もない、ただ言葉を連ねた歌。


田舎の少女は子供らしい遊びもないままに天女に見いだされた。永遠を生きる少女は戻ることすらかなわなかった。悲しい風も悲惨な雨も届くことのないまま。


それを書いた人は、いつの人だったのだろう。こんな悲しい歌を書いたのは。


そしてそれが真実なのだと、私は知ってしまった。




「どうかしたの?ぼんやりして。」


冬火(とうか)がこちらをのぞき込んでくる。


私はただ混乱してしまう。あの日々が、あるはずがないのに。


「いいえ。冬火も元気そうね」


ああ、これは夢だ。寝たし。でもなんて素敵な夢。


「何言っているの?もう、しっかりしてよね。もう会えないかもなのだからね」


「そうだね。冬火、戻るとき気を付けてよね。」


二人で過ごす。


ああ、こんな日々が続けばいいのに。


冬火に何げなく手をふれる。


そのとたん、冬火の映像が流れてきた。火に焼かれる悲しい笑顔。私に好きだといった声。いかないで、いかないで…


「~^~?」


あれ、名前が聞こえない。私の名前、私の名前…


「ねえ冬火、私が遠くから見守るって言ったら、怒る?」


冬火かくすくすと笑った。


「なに言っているの、いいに決まっているじゃない。」


「ありがとう」


ああ、やはり冬火だ。




目が覚めるとそこはあの部屋で、香のにおいも消えていた。


明姫(あかるひめ)様」


作業をしていた明姫は振り返って笑った。


「明姫そのものが敬称よ。よく出てきたわね。霊姫」


あ、名前…


「神となった時点で名前は消滅するの。だからあなたはこれから霊姫よ。」


霊姫…昔から冬火に呼ばれていたっけ。


「ありがとうございます。」




~神無月~


それは神々が集会を行う時期。


私が神となる場。


「あの、ここは…」


「集会所に行く前に、烏姫(からすひめ)を迎えに行くの」


長い廊下を歩きながら明姫が説明してくれた。


「烏姫とは?」


天上(あまつかみの)大御神(おおみかみ)のことよ。烏姫がわたしの明姫で、天上大御神がわたしの明星神(あかるほしのかみ)のようなものよ」


なるほど…


明姫が入った部屋には几帳以外なかった。誰もいない。


すると明姫は几帳の裏側に躊躇なく入った。


「かくれんぼはやめてくださいませ…」


恐る恐る覗くと、中には先が紫になった黒い服を着た小さな女の子がいた。


「あの、この子は…」


「ああ、久しいの。霊姫。この服を着てくれ。」


それはやはり白かったが何枚か重ねる形だった。


「烏姫様、霊姫はあなたの大人の姿しか見たことがないのですよ…この女の子は烏姫です。天上大御神には必ずこの力があるのですよ。本来の姿はこっちなんです。」


何か事情がありそうだ。ともかく着替えて会場に向かった。




「あの方が…」


「やはり明姫では…」


ひそひそ話す人たちは、みんな明姫より白い髪をしていた。


「みな、久しいな」


いつの間にか大人の姿になった烏姫がみんなに向かって挨拶をする。


「この良き日を天上大御神さまと迎えられたことをうれしく思います。」


うむ、とうなずく大御神さま。


「今日は皆に報告があるのだ。」


振り向いてこちら匂いでと手招きする大御神さま。引かれるように上に上り天上大御神さまの隣に立つ。


「この子は霊姫という。明星神の後継ぎとなるものだ。」


そんな報告されると恥ずかしい…


「霊姫よ、神となる覚悟はあるか?」


「ええ、天上大御神さま。」


頭を下げた時、ふと下がってくる髪が白いことに気が付いた。


衣も、白ではない複雑な色になっていた。下は濃い水色、上は薄い水色で、白の糸で波のように模様があって、下は薄い紫だ。


「霊姫を夢見幾世(ゆめみいくよ)移儚夜(うつりはかなよ)泉神(いずみのかみ)として中上級神とする。それに伴い明星神の明姫を信仰神上級神とする。」


ほかの人々がざわざわと騒ぐが烏姫が段を降りたのでそれに続く。


「白いわね」


「どうかしたのですか」


明姫はかなしげにほほえんだ。


「いいえ。よかったわね」


にっこりとほほ笑む彼女は悲しそう。


「霊姫、部屋を見てくるか?」


また子供にもどった烏姫の提案にのって部屋に向かう。ほかの神たちは本題をせっせとこなしているので3人で抜け出した。



「ここだね」


そこは何も書かれていなくて、確かさっきはなかったはず…


「開けてみて。」


障子に手をかけて滑らせると、がらんとした部屋だった。


障子がすべて締め切られている。外はこれは…


「ほう、さすが泉神だの。泉のなかとは。」


やっぱり。


「この上に浮かんでいるのは人の祈りよ。これを込めるものを渡しておくわね。」


渡されたのは、宝石が咲く花。


星玉花(ほしたまのはな)よ。祈りに触れさせると明かりの燃料になるわ。」


みんな、次の部屋には進まない。


「次も部屋に進んだらどうですか…?」


「いいえ、私たちはそちらに行くと溺れるのよ。あなたは大丈夫だけれど」


にこにこして下がっていく二人。部屋には私1人になった。


岩の向こうとかを散策していると、白いポンポンのような花があった。


「ああ…」


あの庭に咲いていた花だ。


その隣に花を植えて、上に登ってみることにした。


とんと地面をけると、あの懐かしい家のところにいた。


「えっと、あの、すみません」


近くにいた人に声をかけたが、無視をされた。


「あの!」


肩をたたいても反応されない。


どうして…?



2日後に隣国の屋敷にたどり着いた。


奥から冬火(とうか)が出てきたのを見つけて駆け寄っても、認識してくれない。


「ねえ、どうして無視をするの?」


ああ、違う。


私がみんなに認識されていないんだ。


その時に思い浮かんだのは、孤独だった。


私はもう、何も望めないのだ…


私にはすがるものがないのだ。私は、一人だ。



泉に戻ってたまっている祈りに手を触れると、冬火のものだった。


「ねえ~^~、どこにいるの?」


それを理解したとき、私は泣いてしまった。




ああ、もう遠いな。


もう、思い出せない。


そう絶望しかけていた。


人の目には映らない。何もできない。死ぬこともできない。私は本当に生きているの?


私は、なんで信仰に関係する神なの?


その時、上からたくさんの祈りが降り注いできた。


聞いてください、救ってください。


そんな切実な願い。何かに縋らなくては壊れてしまいそうな人々の祈り。


ああ、私は聞くものでいいのだ。


何もしなくても、ただ拠り所として存在していれば。


「ひな乙女 うない遊びもなきままに 天つ乙女に 見いだされたり 常乙女 戻ることすら かなわずに 悲風惨雨も とどかぬままに」

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