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座敷牢

「ねえ春花宮宮(はるはなのみや)さま!こっちに行ってみましょう!」


そう楽しそうに笑う玉兎。


あの頃は本当に幸せだった。


玉兎はのちに結婚すると内定している兄上とも関係は良好で、将来にはなんの不満もなかった。


なのにどうして玉兎はあんなことをしたのだろう?




玉兎がいなくなった座敷牢に行ってみた。




玉兎が座敷牢に入れられると知ったのは確か双葉がまだ二つか三つの頃だった。


罪状は、密通と詐欺罪。それにより玉兎は身分剥奪のうえ幽閉、その子供である佑は幽宮送りとなったと。


東宮さまの次の男児を産み、姫巫女を産み、幸せであったはずなのにどうしてと思った。


誰と密通したのか、なぜ姫巫女さまはそのままなのかという疑問はのちに後宮の水宮(みずのみや)を完全に引き継ぎ後宮に出入りするようになってから知った。


曰く、実の弟の桜の子と密通し子をなしたと。


聞いた時に驚きはしたが納得もした。


そりゃあ隠されるか、と。




座敷牢の中は殺風景で、けれど昨日まで人がいたと言われても納得する程には人のいた感じが残っていた。


なんとなく真ん中のいちばん窪んだところに座ってみた。


上を見上げると、そこから外の景色が見える。


綺麗に晴れて,青葉が窓を覆い尽くしている。


ここは座敷牢だということを再確認させられた。




あの後、姫巫女さまはないものとして扱われるようになり、桜の子はもともと決まっていた縁談は破棄され、下級の六家から椿という妻を迎えて三子を設けた。


佑さまはどうなられたのかは知らない。多分今も幽宮にいるのだろう。


そうして一生飼い殺しにされるのだろう。


姫巫女さまを想う風宮さまによって。




ふと奥を見ると、人形が転がっていた。


昔二人で作った人形だ。


つぎはぎだらけでくたびれてもう元が人型だったなんて信じられない。




「姫さまー。この色を使いたいのにこれはこうむきなんだよー。」


頭にあの日の玉兎が浮かぶ。


「ならこれとこれをいれかえたら?」


そう提案するとそっかと明るくなってせっせと作っていた。


茶色い髪が揺れて、縫ってしまいそうだったから髪をかきあげて持ってあげた。


「ありがとうございます!」


幼くて、かわいくて、でも誰よりも物事を考える優しい子。本当に大好きだった。




わたくしはその人形を見ていると何かが溢れそうで、その人形を握り潰してしまった。


ただ後悔とかそういう感情を止めるのに必死だった。


「どうして…」


どうしてあなたは姫巫女さまを守れなかったの?




一度だけ、姉弟が一緒にいるのをみたことがある。


その時は確か朝議があるとかで来ていた桜の子にわたくしを紹介したがったとかで、中に入る許可をわたくしから兄上を伝って華の方からいただいて会ったのだ。


「ほら、こっちよ」


二人のやりとりは姉弟に留まるものであったと記憶している。


ただ少し引っかかったのが玉兎の方が桜の子に執着していたことだ。


「もっとここにいて」


と、何度も引き留めていた。


でも、そういう感情があったと知ったからそういう風に見えているだけかもしれない。


少し違和感はあったけれど、入内する姫とその弟だ。多少の何かはあるかと甘くみていたのだ。




外に出てみようと思って、姫巫女、繭姫に会いに行った。


「あら、春花宮さま。いかがなさいましたか?」


完璧な皇女。


どこで身につけたのかと思ったが、そういえば彼女の養育者は京家当主の小夜と同じ人だ。


二人は確かにどこか似た雰囲気を纏っていた。


「あなたは、寂しくなかったのですか?」


緋々がぴいと鳴いて窓にやってくる。


「さあ、わからないわ。周りには退屈させてくださらない人たちが多かったし」


風宮からの求愛を避け、姫巫女として振る舞い、桜家のものとしても振る舞う。


そんな彼女は、何十の仮面があるのだろうか。


「双葉は、どうでしたか?」


姫巫女さまは裾を口に当ててくすくす笑う。


「ええ、良い子でしたよ。」


姫巫女さまは、多分寂しがっている。


「これからもおりをみて参上いたします」


しかしそれは首を振られた。


「いいえ。こなくていいわ。」


「なぜでしょう」


姫巫女さまは手を伸ばして緋々を外に放つ。


「あなたはここの人ではないもの」


孤独。決して理解されない、隣に立つものも決して現れない孤独。


それを孤独と感じることすらないまま、ここまで来たのだろう。


それを孤独だと教えてくれたのは玉兎だった。なら、いまのわたくしにはなにができるのだろうか。


「お母様について教えていただけませんか?わたくし、お母様のことはほとんど存じませんの」


姫巫女さまの見せた歩み寄りに、思わず笑みがこぼれた。


「ええ、お望みならどんなことでも」


ずっと外にいた緋々が大きな羽を広げて飛び去って行った。




玉兎は、思えば寂しい子であったのかもしれない。


幼い頃から入内するために育てられ、外のことなんて知る由もなく、ただ兄上に仕えるためだけに育てられて。


わたくしが気付けばよかったのだ。


でもわたくしはどうしようもなく皇女で、彼女に寄り添うことをしようとしなかった。


していてもきっと理解はできなかっただろう。


「お母様!」


双葉が駆けてくる。


東宮妃の双葉。わたくしはあの子に寂しくない教育を行えたかしら?


「そんなに走ってはみっともないわよ?」





華宮(はなみや)おばさま、私の娘の双葉を姫巫女付きの侍女にしたいのだけれど、いい?」


そう頼んだのは、ただ単に双葉に後宮というものを知ってほしかったから。


それを双葉がどうとらえたのかはわからないが、今でも姫巫女さまとの交流は続いているらしい。


本来なら母と築くはずの信頼関係。


それを築けなかった姫巫女さまがはじめてであった同年代の女の子。


それ以降は華宮の御方の娘である六花姫とも交流するようになったと聞いている。



ねえ、これでよかったのよね。


長い間閉じこめられていた後宮をこの間出て桜家の別邸にて過ごしている玉兎。


最後にあった時にはもう昔のような無邪気さはなかった。


みんな変わっていく。


それでも、変わらない思いというのはきっとあるから。


だからこそ私はここに来たのだ。


わたくしの鳩が久々に飛んできた。

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