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わたしたちのかみさま

リューからデュラン、及び坊ちゃんへの執着のおはなし

私達は、"イミゴ"、らしい。

ずうっとそう呼ばれてて、それが名前だと思っていたけれど、どうやらそうじゃないようで。


イミゴ、忌み子。

その言葉の意味が分かる頃には、私達は望まれて生まれてきたわけじゃなくて、不吉な存在で、だから守ってくれる人もいなくて、必死に自分達だけで生きていかなければならないのだと気づいた。


必死で2人で生きて、死にかけて、それでもなんとか生き抜いて、


坊ちゃんと、出会って。


そこからは清潔な服を着て、屋根のある暖かい部屋で過ごして、きちんとご飯があって、夜はベッドで寝れて。何より隣にデュランと、私達に手を差し伸べてくれた坊ちゃんがいたから。


今までの苦しさが嘘のように、取り巻く世界が平和になった。


なった、のだが。


泡沫の夢のような時間が過ぎる中、それでも、私達は今まで長い間抱いてきた不信感を拭えずにいた。


「………ねぇ、デュラン。今日も旦那様達の目、厳しかったね」


「………そうだな」


不信感を抱いてしまう理由。


大人達に向けられる、あの、目。


今まで散々見てきたから、知っているから、分かるのだ。


ーーーあれは、異端を。"忌み子"を、警戒し、忌避する目だ。


「…私達、やっぱりずっとはここには居られないのかなあ」


「…リュー……」


「せっかく、せっかく坊ちゃんが一緒に帰ろうって言ってくれたのに…」


「坊ちゃんも俺達同様まだ幼いんだ。…出来ない事も、防げない事もあるって、嫌ってほど分かってるだろ?」


「力が無いほど、幼いほど、無力。だもんね」


分かっているけれど、やっぱり惜しいなと思う。坊ちゃんの側は、私達がやっと見つけた、息がしやすい場所なのに。


「ずうっと、一緒にいたいね」


「…そうだな」


遠くないうちに、もしかしたら追い出されてしまうかもしれないけれど。そう願わずにはいられなかった。


ずうっと一緒にいたい。それが無理ならば、この恩を少しでも返せるよう尽くして、せめて坊ちゃんとは笑顔でお別れしたい。


願いはそれだけだったのに。


それすらも、この世界は望む事を赦してくれないらしい。








「…………ヴィル、少し、相談に乗ってはくれないか」


「ええ、旦那様。私で宜しければなんなりと」


「悪いな。ルカの希望で連れ帰って来た双子なんだが…どうにも、気味が悪いんだ」


ポツリ。

そう呟く旦那様に、生まれ一つで何をそんなに大袈裟な、と表情にはおくびにも出さずに心の中でため息をつく。


坊ちゃんの発案により、最近屋敷に受け入れた赤目の双子。人間は彼等を忌み子と呼び、恐れ迫害するが、所詮彼等双子も人間である。ましてや大した力も持たぬ幼子。


一方、旦那様は地位も力も持つ指輪の主人であるのに、何を恐れる事があるのだろう。ご自身で手を下すのが恐ろしいのであれば、いくらでも我々を手足として使えば良いのに…と、その手元に視線を移したところで、思わず目を見開く。


「旦那様、石が…!」


「気づいたか……そうなんだ。良くない予感があってな…」


旦那様の指で淡く光る石。確かにその石はいつだって輝いているように見えるが、今のソレは明らかに異様な光だった。


「嫌な感覚はずっとあったんだが…急にだ。急に、石が震えて光りだした…この嫌な予感は、あの双子に付随しているように思う。

ルカには悪いが、あの子達は……」


「ええ、旦那様。ルカ様を慮る御心は感銘を受けますが、危険があるというのであれば話は別でございましょう。追放…否…少しでも可能性がある以上、酷ではありますが…」


「…………そうだな、」


「頼めるか、ヴィル」と続いた言葉に、「直ぐにでも」と、そう返そうとして。


返事が空気を揺らす前に、別のナニカが、屋敷を大きく揺らした。










俺達のちっぽけな願いすら叶えてくれない、いるかどうかも分かんねぇようなカミサマヘ。


いらねーモンばっかり送って来るんなら、カミサマなんてやめちまえ。クソッタレ。


目の前に急に現れた人ならざるモノ。恐らく、悪魔。見覚えはないが、見れば見るほど腹が立つのは、ーーーかつて、面白半分に己の半身の命を軽んじたと聞いていた悪魔と、様相がそっくりだからだろう。


確かにいつかは"礼"を返そうと心に誓っていたが、あまりにも不利な状況に思わず舌打ちが出る。


動かした視線の先には、坊ちゃんの前に立ちはだかりつつ、杖を構えるリューの姿がある。…しかし、彼女がまだ十分戦えるだけの力が無いことも、そしてそれは己も同じであることも、

痛いほど分かっていた。


そんな此方の様子を嘲笑うかのように、目の前の悪魔は口元を歪めて語り出す。


「良〜い匂いがしたから来たんだが…あれェ、いつかのオジョウサン達じゃねえか!」


「…ビンゴかよ、クソが」


「オイオイ、命の恩人に対してひでぇ口の利き方だなァ?貴方様のおかげですぅって、泣いて礼を言ってくれたって良いんだぜ?」


「黙れ。俺の命を救ったのはリューの覚悟と勇気だ。オマエじゃない。殺すぞ」


「やってみろよガキ!本命は違うがここで会ったのも何かの縁だ、殺してやるよッ」


嗚呼、頭のスジが焼き切れそうなほどの怒りを感じる。実力が足りない事は分かっているが、それでも、悪魔の煽りにのらない選択肢は俺にはなかった。


悪魔と対峙し、今自分が持ちうる限りの力を奮う。


そんな中で、執事の1人が坊ちゃんの元へ駆けつけたのが横目に入った。


…ソイツが、近くにいたリューに一瞬だけ視

線を投げ、その存在に気づいていたにも関わらず坊ちゃんだけをこの場から遠ざけようとしたのも、見えた。見えてしまった。


あーあ、俺達、こんなのばっかりだ。


なぁ、夢のようだった幸せな時間がここで終わったって構わない。俺も、リューも、幸せに"永遠"なんてないことは、痛いほど分かってんだから。


でも。それでも。


「せめて笑って別れたい」って小さく溢した、可愛い半身の小さな小さな願い事くらい、叶えさせてくれよ。










これで終わりかあ、と。そう思った。


なにが目的かは知らないけれど、突然お屋敷を襲ってきた悪魔。その姿は、嫌というほど記憶にこびりついていたもので、思わず顔を顰めながら坊ちゃんを守る体制に入る。


同じく嫌な顔をしながら応戦しているデュランも、私の話から相手が"あの"悪魔だと気づいているのだろう。


嫌な縁。もう2度と会うつもりなんて無かったのに。会うとしても、もう少し力を付けて、余裕で葬り去れるようになってからが良かったなと、冷や汗が伝う。


どうするのが正解だ。このまま坊ちゃんを守りつつ、デュランを援助?いや、そんなあっちもこっちもなんて甘い考えが通用する程、私はまだ強くない。坊ちゃんは守らなきゃ。でもこのまま1人で戦い続けてたらデュランが。どうしよう。


考えろ。考えろ。嗚呼、せめて。

せめて誰か、助けに来てくれたら。



「坊ちゃん!!!」



私の願いに応えるように鋭く飛んできた声。

ハッとして背後を見ると、一瞬のうちに執事長が坊ちゃんに駆け寄っていた。


助かった、



と安堵の息を吐くのも待たず。


執事長は、坊ちゃんを抱えて、私を見て、



ーーー視線を逸らして、立ち去ろうとした。



「(あーあ、私達、こんなのばっかり)」


期待する事を諦めるようになっていたはずなのに、律儀にも胸がズキリと痛む。


執事長なら、きっとこんな悪魔なんてすぐに殺せるんだろう。でもそうしないのは。私達をこの悪魔と共に置いていこうとするのは。無感情な目で私から目を逸らしたのは。それ即ち。


私達を殺したいって事と、同義だ。


「待ってヴィル」「双子も、2人も、一緒に助けて!」とうっすら聞こえる坊ちゃんの声に被るように、「リューッ!!!」と己の半身の悲鳴のような声が届き。


戻した目線の先には、私に迫ってくる悪魔がいて、気が逸れすぎていたことに遅れて気づく。


でも、もう、今から何かを唱えたって間に合いそうにない。


私が油断しなければ、私にもっと力があれば、私が…私達が、忌み子でなければ。


もっと生きれたのかな。


こんな思いしなくてよかったのかな。


願い事も、叶ったのかなあ。


走馬灯のように想いが迫り上がってくる反面、ここで終わりかという諦めも湧いてきて。


私は、迫り来る運命に、瞳を、閉じー…


「リュー!!!!」





「ぇ……………」


それは、あっという間の出来事だった。


執事長が坊ちゃんを助け出そうとした時よりも、もっともっと短い。瞬きの刹那。


「ぼっちゃん、?」


私の目の前には、坊ちゃんが倒れ込んでいて。


その先の悪魔も、いつの間にか地に伏していてぴくりとも動かない。


ざわざわと少しずつ辺りが騒がしくなっても、私は何が起こったのか分からなくて。




結局、私がこの日の出来事をきちんと理解できたのは、目を覚ました坊ちゃんの「リュー、大丈夫だった?」って優しい声を聞いて、ようやくぼろぼろと泣くことができた後だった。








あの時、こちら側で起こった全てをきちんと見ていたデュラン曰く。


私が悪魔から攻撃を食らうその寸前に、坊ちゃんが私を庇うように、私の前に躍り出て。


それに気づいた執事長が攻撃を逸らそうと悪魔を瞬時に手にかけたが、逸らしきれなかったものが坊ちゃんの額に当たり、坊ちゃんは気絶。すぐに手当が施されたものの、その際についた傷跡は残ってしまう。らしい。


慌ててその場にやって来た旦那様と執事長が「…わがもう光ってな…」「…の原因…子ではなく…」とよく分からないことをぼそぼそと話していたそうだが、もはや坊ちゃん以外の存在など、何も気にならなかった。


己の力不足への憤りは消せないが、それよりも圧倒的に多幸感に包まれる。


嗚呼、嗚呼!


坊ちゃんは、あの地獄から私達に救いの手を差し伸べてくれた坊ちゃんは、決して私達を見捨てたりなんかしない。


周りの奴らは私達を見殺しにしようとしたのに、坊ちゃんは、その身を挺して怪我を負ってでも助けようとしてくれた!!!


この幸せを、喜びを、私は、この人に返さなきゃいけない。


ねえ、坊ちゃん。私、坊ちゃんのことは信じたい。信じられるよ。


もう二度と坊ちゃんが傷つくことが無いように、もっと、もっと、強くなってみせる。


ずうっと一緒にいたいって願いを、命をかけて叶えてくれてくれようとしたあなたを、私だって命をかけて守りたいし、私だってあなたの願いを叶えたい。


坊ちゃん、坊ちゃん、私達の、神様。


私、坊ちゃんのためなら、なんだってやってみせるわ。




お話の流れ上、坊ちゃんと、坊ちゃんのお父様である前旦那様、執事長であるヴィリディス(ヴィル)さんにもご登場いただいております。感謝。

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