わたしの話7
いつまで経っても春ちゃんは帰って来なかった。
仕事が始まり、春ちゃんの事を考え無いように仕事に没頭した。
美麻は警察官、恵吾は弁護士になるべく日夜頑張っている。
みんな忙しくなり最近会えていない。
仕事が早く終わった時はいつも洋子さんの店でご飯を食べるようにしていた。
家に帰ると一人になった事を実感する。
一人でいる時間がなるべく無いように生活するようになっていた。
洋子さんは私に気を遣ってか、春ちゃんの話をしなくなった。
そんな生活が慣れ何年か経ったある日、突然
「私、今日からここに住むから。近くの交番勤務になったの。」
そう言って美麻がキャリーケースと紙袋を持って現れた。
「必要なものあったら取りに帰ればいいし、布団とか余ってるでしょ。あ、これうちのママから。」
私が話す隙を与えないぐらい早口で喋った後紙袋をテーブルに置いた。
「いやいやいや…ちょっと待ってよ。家隣にあるのになんでここに…??」
「ほらさぁ…成人したしぃ…親に小言を言われるの正直辛いのよ…ぶっちゃけ自由になりたいのさ!」
「それ以上どう自由になるのよ。」
「掃除もするし、ご飯も作るから!」
「ご飯なんて作れるの?」
「直美よりは出来るよ。ママから聞いてるよ、店で食べるかコンビニでご飯買ってて作って無いことを…まぁ私も人様に自信を持って食べさせられるレベルじゃ無いけど…ちょっとは役に立つと思うから。ねぇーお願い一緒に住もう!」
「…私が許可する前にもう荷物持ってきてるじゃん。いいよ、もう。好きなだけここに居れば。」
「ありがとうー!直美大好き♡じゃあ荷物どこに持って行けばいい?」
1階に宗ちゃんと春ちゃんの部屋がある。
空いているがそこは誰にも使って欲しくなかった。
「2階に2つ空いてる部屋あるからどっちでも使っていいよ。布団は後で持ってくわ。」
私は咄嗟にそう言った。
「了解しました。荷物置いたらご飯にしよう。ママが作ったご飯持ってきたから。」
私はこの家で久しぶりに誰かとご飯を食べた。
洋子さんが用意してくれていたのはお弁当だった。
残らないように食べ切れるサイズで作ってくれていた。
タッパーに入ったおかずが冷蔵庫の中にある事を、私があの日から極端に嫌うようになったからだ。
あの日冷蔵庫に入ってたおかずを見るたびに嘔吐するか泣くかのどちらかだった。
それほど私は春ちゃんがいなくなった事を心も体も受け入れられなかった。
冷蔵庫に入ってたおかずは
「本当に食べなくていいの?こんな美味しいもの、私が全部食べちゃうからね。」
と美麻が全部食べてくれた。
残ったものは全部美麻の家に持って帰ってくれた。
「見てないと直美、ちゃんとご飯食べないかもしれないから、今日からママの店でご飯食べる事!これは決定だからね。」
―私が家に一人で居たくないことを分かっていたのかな…
美麻と洋子さんにはとても救われた。
―もしかして今回、急にここで暮らすと言ったのも何か意味があるかも知れない。
一瞬そんなことも考えたが…
「プハーッ!やっぱ仕事終わりのビールは最高ー!ダラダラしてても誰にも何も言われないって最高ー!」
と言いながらビール一気飲みしていた美麻をみて、真剣に考えるのは損だと思い考えるのを辞めた。