わたしの話6
私は大学4年になって企業から内定をもらった。
春ちゃんに伝えると「ご馳走作って待ってるね。」と言ってくれた。
自分が就職出来たことが嬉しいのと同時にこれからは春ちゃんの事を支える事ができる、やっと恩を返せることが嬉しかった。
「おかえり直美、おめでとう。」
春ちゃんは笑顔で出迎えてくれた。
「ありがとう春ちゃん。ただいま。」
食卓にはオムライス、茶碗蒸し、焼肉…私の好物のオンパレードだった。
「なんか種類がぐちゃぐちゃでごめんね。」
「何言ってんの春ちゃん!夢のようだよ!毎日これでもいい!」
「毎日は無理だからね。手を洗っておいで。」
「マッハで洗ってくる!」
私は素早く手を洗って席に着いた。
「じゃあ改めて。直美就職おめでとう!」
「ありがとう。次は無事に卒業できるように祈ってて。」
「直美なら大丈夫。」
2人笑いながらご飯を食べた。
ご飯を食べ終わった後に
「直美これ…」
春ちゃんから紙袋を渡された。
中には時計が入っていた。
「これって…」
宗ちゃんがいつもつけていた時計と同じ物が入っていた。
「僕も同じ時計買っちゃった。直美も子供の時から欲しいって言ってたから…」
「…ありがとう春ちゃん…ほんとありがとう大事にするから。」
春ちゃんに私は何も返せてないのに。
貰ってばかりで…
「何が出来るか分からないけど…今後絶対に春ちゃんに恩返しするから。」
「僕がしたくてしてることだから直美はだだ自分らしく生きてくれたらそれでいい。幸せだと思えるように生きて欲しいな。」
「時計付けて写真撮ろう!宗ちゃんの写真も一緒に。」
写真の前に宗ちゃんが使ってた時計を置き、私と春ちゃんは時計を付けて写真を撮った。
「次は私の卒業式に一緒に写真撮ろうね。」
それから数カ月…私は無事に卒業出来た。
今日は卒業式だったが春ちゃんの姿はなかった。
―ご飯を作って待ってくれてるのかな?
そう思い足早に家に帰ったが誰もいなかった。
走って帰って来たので何か冷たい飲み物を飲もうと冷蔵庫を開けるとタッパーのなかに入ったおかずがぎっしり詰まっていた。
パッと見ただけでも私の好物ばかりだ。
リビングの机の上にはメモがあり「ごめんね」の一言のみ。
一緒にノートや書類っぽいものが置かれていたが私の頭は真っ白になり何も考えられなかった。
―買い物に言ってるのかな?
春ちゃんに電話してみたが繋がらなかった。
とりあえず洋子さんの所に駆け込んだ。
―もしかしたら何か急ぎの用事があって洋子さんには伝えてるかもしれない。
洋子さんのお店に走った。家から5分くらいの場所にある。
「洋子さん春ちゃんから何か聞いてない?なんでもいいから!」
「…どうしたの?そんなに慌てて…春ちゃんから?直美の事これからもよろしくお願いしますって連絡あったけど…」
「春ちゃんが家にいないの。なんかメモが置いてあって…冷蔵庫の中にもおかずがいっぱい…今まで私に黙っていなくなるなんてなかったのに…」
私は泣きそうだったがグッと堪えた。
泣くとほんとに春ちゃんが戻って来ない気がしたからだ。
「他にも何か変わったことなかった?」
「何か分からない書類が一緒に置いてあったけど…」
「とりあえず直美の家に行きましょう。もしかしたら春ちゃんもう家にいるかも。」
家に戻ったが誰もいなかった。
「書類ってこれ?中確認してもいい?」
机の上にある書類を指差し洋子さんが言った。
「お願い。私にはよく分からないから…」
書類を全て確認した洋子さんは
「春ちゃん…もう戻って来ないかも。」と言いながら書類の説明を始めた。
中には宗ちゃんが亡くなった時の遺産相続のこと、この家の名義は私になっていること、分からない事があれば弁護士に相談するよう弁護士の電話番号が記載されていた。
私の好きなもののレシピ、ゴミの出し方など生活に困らないように記してあるものもあった。
家を出るためにずっと準備をしていたのかもしれない。
宗ちゃんが亡くなったあと春ちゃんの今後を話し合おうとしなかった私が悪い。
春ちゃんにも未来はあるのだ。
もしかしたら新しい恋人が出来て一緒に暮らすことになったのかも。
そうだったら私にはなかなか言えないだろう。
急な別れにパニックになったがゆくゆく別れはあったのだ。
それが早かっただけだ。
私は自分にそう言い聞かせた。
春ちゃんの幸せの為だ。
そう強く言い聞かせないと立っていられない状態だった。
「直美。大丈夫?今日はうちに泊まる?」
「…もしかして春ちゃんから何か連絡くるかもしれないし。大丈夫だから。大学卒業後は1人暮らししようと思ってたから、それと同じだしね。ごめんね、大騒ぎして…春ちゃんから連絡あったらまた伝えるから!」
私は今できる精一杯の笑顔で洋子さんを見送った。