わたしの話5
宗ちゃんがいない我が家はなんだか別の家のようだった。
2人とも何も喋らない訳ではないし、春ちゃんもいつもの笑顔だったが何か違う感じだ。
宗ちゃんの話を避けているからかもしれない。
食事の時もいつも春ちゃんは3人分用意していた。
その度「あ…一つは後で僕が食べるから。」と言っていた。
春ちゃんは今後どうするつもりなのか。宗ちゃんと付き合っていたからここにいてくれたのに…
別の人と付き合う未来もあるかもしれない…
私が言い出さないと春ちゃんからは言い出しにくいかもしれない。
でも私は春ちゃんと暮らして行きたい。
意を決して春ちゃんと話し合おうと部屋まで行った。
ノックをして「春ちゃん話があるの、入るよ。」
と言うと少し遅れて「どうぞ」と返答があった。
春ちゃんはベットの上に座っていた。
ベットの上には開いたアルバムと宗ちゃんの服が広がっていた。
「どうしたのこれ?」
「宗ちゃんの服整理しようと思って…」
「捨てようとしてるの?」
「…捨てられないよ。一回は捨てようと思った…前向きに生きなくちゃって…その為には宗太のもの残ってたら忘れられないから…捨てなくちゃ…忘れなくちゃって…直美も頑張ってるのに…」
宗ちゃんは涙を流しながらそう言った。
春ちゃんを抱きしめながら
「宗ちゃんの物無理矢理捨てたって忘れられる訳ないじゃん。忘れなくていいんだよ。忘れなくても、忘れてもどっちでもいい。春ちゃんが幸せな方を選んでいいんだよ。」
そう言って私も気がついたら泣いていた。
宗ちゃんが亡くなって初めて泣いた。
泣いていなかったことに気づいた。
春ちゃんも私がいる手前、ちゃんと泣けていなかったんだと思う。
泣いて初めて宗ちゃんが亡くなったことを実感した。
全てを春ちゃんに任せていた事を後悔した。
春ちゃんだって悲しかったのに…ちゃんと悲しませてあげる事ができていなかった。
「私ばっかり悲しんでごめんなさい。全部春ちゃんに任せてごめんなさい。」
ちゃんと喋られないくらい泣いていた。
春ちゃんも嗚咽するくらい泣いていた。
春ちゃんの手元に開いたアルバムがあった。
宗ちゃんと春ちゃんが2人笑顔で写っている。
少し若い感じがした。
「それって昔の写真?」
私は涙を服で拭いながら尋ねた。
「これは宗太と出会ったころかな?2人で海に行った時の…」
「そういえば2人の馴れ初めとか聞いたことなかったな…ねぇ…聞いてもいい?」
私は春ちゃんの隣に座った。
「あんまり面白い話じゃないよ?」
「聞きたいの。私が知らない宗ちゃんと春ちゃんの話。」
警察署で事件の担当者と弁護士として2人は出会い、その時は何も無かったが、事件解決後に食事をしに行ったお店で偶然再会。
宗ちゃんは初めて会った時に一目惚れをしたが事件の関係者同士のためどうすることもできなかったと後で告白してきた。
2人は休みを合わせることも大変だったがよく一緒に出かけていっぱい写真をとっていた。
…と色々思い出を聞かせてくれた。
3人で出かけた時もいっぱい写真撮っていた事を思い出した。
「宗太はね、財布の中に3人の写真いつも入れてたんだ。毎年必ず直美の誕生日に3人で写真撮ってたやつ。」
「今年も撮らなきゃね。ワインも飲もうよ。」
春ちゃんは笑いながら
「そうだね。あと美麻と洋子さん、恵吾君も呼んでみんなでお祝いしよ。みんなに迷惑かけたし…呼んだら来てくれるかな?」
「みんな呼ばなくても来そうだけど。」
「張り切って料理作るから期待しといてよ。」
「春ちゃん。私オムライスが食べたいな。」
「…もちろん作るよ。」
春ちゃんの作るオムライスは私と宗ちゃんの大好物だ。
20歳の誕生日にみんな来てくれた。
みんなでワイン飲んで、最後にみんなで写真を撮った。