わたしの話3
高校生の時ぐらいから、宗ちゃんは出世したのかあまり家に居ない日々が続くようになった。
けれど家にいる日はずっと春ちゃんと私の話を聞いてくれたり、みんなで出かけたりしている。
家に居てくれないのは寂しいが働いて養ってくれているので仕方がないことだともわかっていた。
私も力になりたいと思いバイトをしようとしたが
「学業と両立できるのか?出来ないならダメだ。」
と宗ちゃんに反対されてしまった。
「大学生になったらしてみても良いんじゃない?社会に出る前の勉強にもなると思うし…」
「春ちゃんも反対なんだね。」
「反対というか…何のためにバイトしたいかにもよるかな。働く事が悪い訳でもないし。ただ…シンプルに直美の学校バイトしちゃダメじゃなかったっけ?」
「あ。」
「だからバイトの話は一先ず大学に受かってから話し合いしよう。」
「大学か…直美はもうそんなに大きくなったんだな。」
「宗ちゃんは私のこといくつだと思ってるの?」
「遊園地が大好きでピーマン食べられなかった直美が…」
そう言いながら宗ちゃんが泣き出してしまった。
「さっきまで娘の意見も聞かない頑固ジジイみたいだったのに。ほら鼻水拭いて。」
春ちゃんがそっとテーブルにあったティッシュを差し出した。
「頑固ジジイってなんだよ!ただ俺はバイトと勉強両方なんて無理してほしく無かっただけだよ。別に働かなくても良い環境なのに。」
「…私は何か2人の力になりたいと思って」
春ちゃんが私の手をそっと握りながら
「僕は直美がやりたいことをすれば良い。自分のために働いて欲しいし、自分の好きな事をして欲しい。けど、未成年の間は必ず僕らに相談して欲しい。大人になったら自分で判断して自分で決めることが嫌でもあるから。これは僕の我儘だけど…もう少しだけでも直美のこと見守らせて欲しいんだ。」
「約束する。バイトは大学生になってからにする…」
「未成年の間なんて…成人しても1人で抱え込むな。俺たちがいるんだからな。20歳になったら晩酌付き合えよ。」
「お酒の強要は駄目だよ。宗太。」
「えー私ワイン飲んでみたいなぁ。」
「じゃあ直美の20歳の誕生日はワイン飲もうぜ!いいやつ買ってくるから。グラスも3脚買ってくるわ。」
「まだまだ先の話に盛り上がってないで、2人とも早く寝ないと。」
「はーい」と宗ちゃんと声を合わせて返事をし2階に上がった。
バイトは反対されたがそれ以上に20歳の誕生日という楽しみができ少し浮かれていた。
その後大学に受かり、バイトをしている。
洋子さんの定食屋さんで働く許可を2人から得たのだ。働いたお金を2人に渡そうとしたが「今後の為に貯めておきなさい。」と1円足りとも受け取ってくれなかった。
それでは私の気が収まらないので一カ月に1回みんなで外食することにした。
私の奢りで。
残ったお金は今後の為に残しておくことにした。
大学卒業までに一人で暮らせるお金を貯めようと思っているからだ。
早くこの家を出たい…という気持ちではなくそのタイミングで出なければ私は一生家を出ることはできないと思う。私のことだけを考えればどちらでもいいかも知らないがやはり宗ちゃんと春ちゃんの事が気になる。
私を預かったせいで2人で過ごす時間があまり無かったのではないかということだ。
今でもお互いを思い合っていることは一目瞭然。
けど新婚さんのように2人でキャッキャしていたことなんてあるのか…もしかすると私に隠れてキャッキャしてたのかもしれない。
それでも今後はのんびり2人で過ごして欲しいと思っている。
…が私も寂しいのですぐに家に行ける距離に住むことを検討中だ。
このことを知っているのは洋子さんだけだ。
宗ちゃんと春ちゃんにはどう伝えていいのか分からないので直前まで黙っていようと思う。
大学生になっても私の生活は変わらなかった。
ちょっと変わった事と言えば休みの日に遊ぶ友達が一人増えたことだ。
高校で知り合った恵吾。
よく我が家に来て春ちゃんと喋っている。
私の友達というより春ちゃんの友達みたいだ。
恵吾は将来弁護士になりたいらしく春ちゃんに聞きたいことが沢山あるそうだ。
昼食の準備をしている春ちゃんの横にピッタリくっついている。
私と春ちゃんの時間を奪う存在になりつつある。
正直言って少し遠慮していただきたい。
私はリビングのソファーから思わず睨んでしまった。
「春ちゃーん、お腹すいたぁー」
床で寝ていた美麻がやっと起きた。
開口一番にこれだ。
休みがあると我が家に来て自由にしている。
家にいると小言を言われるのでうちに避難しているそうだ。
みんなが集まると春ちゃんが嬉しそうなのでまぁ2人の行為を許してやろうと思う。