わたしの話1
冷蔵庫に詰め込まれた惣菜を見るのは今でも苦手だ。
出来れば空っぽがいい。
『ごめんね。』と書かれたメモと手書きのレシピ。
ゴミ出しの仕方、相続関係の書類を置いて居なくなった春ちゃんを思い出す。
私は大好きな縁側で3人で暮らしていた日々を思い出していた。
春ちゃんは叔父である宗ちゃんの彼氏で、物心ついた時から3人一緒にこの一軒家で暮らしていた。
宗ちゃんは警察官、春ちゃんは弁護士と言っていた。
定かではないのは春ちゃんはいつも私と一緒に居たので働いている所を見たことがない。
いつも笑顔で美味しい料理を作ってくれていた。
私の父、母のことは何も知らないがそんなのどうでもいいぐらい私は幸せだった。
親のことが気にならないくらい、私は2人に愛されていたし愛していた。
幼稚園で「変な家」「なぜパパとママがいないの?」と言われても私にとっては当たり前すぎて何に疑問を持っているのか理解できなかった。
他の家には宗ちゃんと春ちゃんは居ないのだ。
他の家にいるパパとママだって元は他人だ。
それと一緒。
中学生の時母親が宗ちゃんの妹であることを知った。
生後何カ月かで宗ちゃんの元に預けられたそうだ。
急にダイニングに呼び出されたから何事かと思った。
宗ちゃんと春ちゃんが真剣な顔をして並んで座っていた。
「まだ詳しくは説明出来ないけど俺と妹は年が離れていて、直美が産まれた時はまだ妹は未成年だった。育てるのが難しいから俺が預かったんだ。もし会いたいのなら会えるようにするから…いつでも言ってくれ。」
「…真剣な顔してるからもっと怖い話かと思ったよ。別に今は会いたいと思ってないから大丈夫!」
無理をしてるとかじゃなく本当に会いたいと思わなかった。
「こんなことを言うのは駄目かも知れないけれど…直美を産んでくれて宗に預けてくれたから僕と直美は家族になれたんだ。僕は直美のママにも感謝している。僕は一生家族が出来ないと思っていたんだ。直美…本当に…生まれて来てくれてありがとう。」
春ちゃんは泣きながらそう話した。
「直美だけじゃなく俺もいるだろ。」
宗ちゃんは少し怒りながら言った。
「そうだね。宗太にも感謝しているよ。僕と一緒にいてくれてありがとう。」
そう言いながら春ちゃんは私と宗ちゃんの二人をぎゅっと抱きしめた。
「私の方が春ちゃんに感謝してるし!だーいすきだし!」
「…いや俺が一番2人を愛してる♡」
「宗ちゃんは黙っててよ。」
「おー!なんだ直美中学生になったからって反抗期か?」
「ほんと宗ちゃんはデリカシーないな。」
この日の出来事はすごく覚える。
いつも笑ってた春ちゃんが泣いていたからだ。
ずっとみんなで一緒にいられると信じて疑わなかった。