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輪廻の輪の門の日常

作者: 愛賀綴

ふと思いついた単語から、どうしてこんな話となったのか書いた自分もよくわかりません。

とりあえず、投稿して残しておこう。

 みなさま、ごきげんよう。

 前も後ろも右も左も上も下もない、ここは天国と地獄の分かれ道。

 この岐路より先、これから次へ逝く道を選んでいただきます。

 生前の行いで選べる道の数は変わります。

 えんえんに一本道の方もいれば、幾千を超える岐路を選ぶ方もおられます。

 あなたの逝く道はどうなることやら。

 さあ、選ぶ旅にお逝きなさい。

 ごきげんよう、また会いましょう。


「おいこら、『また会いましょう』はなしって言ったよな?」

「だってまた会うじゃない。一秒後か百年後かは知らんけど」

「消せ。今すぐ」


 キロが記録石に吹き込んだ音声を再生したらブンキに怒られた。


 キロとブンキは魂の振り分け監視に二千八百三十八年勤める道案内のベテラン。ヒトの世界では鬼だったり死神だったり天使だったり、いろいろな名前で呼ばれる。


 キロとブンキはヒトの世界で言うところの相棒、(つがい)、伴侶と言われるような間柄を、七百五十三回やり直している。付き合っては別れ、告白して寄り添って付き合って別れ……を、訂正する、八百六十四回やり直しているかもしれない。正しい回数は覚えていない。


 そんなキロとブンキはここのところとても疲れている。

 キロとブンキの通常業務は、輪廻の輪に進めない魂の誘導。99.9%は迷いなく輪廻の輪に進んでいくが、僅かに迷走してしまう魂を捕まえて放り込むための道案内兼捕獲係だ。『(カイ)』を超えて迷子となるのが一番厄介で、それでもこれまではそう多くなかった。


 それがここのところ(カイ)違いを起こす魂の出張捕獲が多くなった。あまりの出張の多さにキロとブンキはイチャイチャセックスができずイライラして、「勝手に進め。アバヨ」という自動再生機能付きの音声案内記録石を輪廻の輪の門に置いてセックスしていたら、上司のエンマに怒られた。

 しかしエンマもキロとブンキの休みのない不満をわかってくれて、録音するなら真面目にしろと台本をくれた。その台本のアレンジで揉めているのが今である。

 エンマの台本をアレンジしなければ揉めないだけなのだが、突っ込み役で雷を落とすエンマがいなければこの有り様だ。


 ケロケロケー ケロケロケー ケロケロケー

 ゲゲゲー ゲゲゲー ゲゲゲー

 ゲゲゲー ゲゲゲー ゲゲゲー


 キロとブンキが魔改造した通知音と警報音が鳴る。魂の迷子発生を知らせる警告音だ。

 もともとは重低音でブーブーと鳴り響く警告音だったが、鳴り止まない重低音がストレスになり、穏やかな囀るホーホケキョ音に変えて、秒でエンマに怒られた。その後、まだ十二回の魔改造をして同回数分怒られているが、キロとブンキは懲りていない。


 今、鳴り響いた『ケロケロケー』は迷子になりそうな魂の異常を察知したが、自動案内で誘導に成功した通知。

 通知音が一回なら通常なのだが、三回連続は魂の拉致を回避したことを知らせる内容なので喜べない。


 ━━魂の拉致。


 これがキロとブンキの苛立ちの原因。

 そして、同時に鳴った『ゲゲゲー』は魂の拉致が発生してしまった警告音だ。


「またかよー!」


 ブンキがイライラしてキロが録音した記録石を、隣の道案内『三途の川』にぶん投げると、向こうの道案内担当、奪衣婆(だつえば)懸衣翁(けんえおう)の怒鳴り声が聞こえてきた。向こうも出張捕獲ばかりで留守だと思っていたが、いたのか。お詫びに菓子折り持っていかねば。

 

「どうしたら召喚は犯罪だってわかるんだ? オレよりアホなのか? アホなのか?」

「殲滅したい殲滅したい殲滅したい殲滅したい……」


 ブンキは怒鳴りながら、キロは焦点なくブツブツとつぶやきながら、捕獲に赴く(カイ)の文化に合わせて姿を変化する。


 ピンポンパンポーン

 ターゲットヲ確認シマシタ

 対応マニュアル『異世界聖女召喚(スタンダード)

 未成年誘拐拉致ト断定

 優先レベル『最優先』

 召喚ニヨル魂ノ歪ミ『無』

 速ヤカニ元の世界ニ魂ヲ還セ

 ナオ、生死ハ問ワナイ

 検討ヲ祈ル


「なぜ……なぜだ……。怨念込めて決議した召喚信仰撲滅委員会の制裁が、なぜ効かないのよー!」


 ピンポンパンポーン

 ターゲットヲ確認シマシタ

 対応マニュアル『魔女召喚(レガシー)

 未成年誘拐拉致ト断定

 召喚ニヨル魂ノ歪ミ『特大』

 界ノ破滅トナル可能性『97%』

 速ヤカニ駆除セヨ

 ナオ、輪廻ニ戻ス必要ナシ

 検討ヲ祈ル


「嘘だろ? 破滅? 駆除しかないのか?」

「ちょっ! ちょっ! ブンキ見て! まだ数回しか輪廻してない若い魂だよ」

「……自暴自棄になる前に保護だ。キロ、そっちはお前に任せる」

「あっちの子、召喚記憶抹消だけで戻してあげて。彼氏とデートを楽しみにしてたんだ。一緒にピュアピュアな青春を眺め愛でたいって言ってたじゃない」

「任せろ。生きて還す」


 警告音とともにキロとブンキの前に浮かんだ映像で、界の超えて拉致られた魂を見る。別々の二つの界に召喚で転移した少女の姿。

 一人の魂に歪みはほとんどないが、あとの警告が知らせていた魂には界を超えた時に傷つき、歪みが出てしまっている。


 魂の歪みが大きいと輪廻の輪に戻せない。逝く道が途切れた魂は抹消、━━完全なる死だ。

 キロとブンキは魂の誕生も担っている。イチャイチャセックスから生まれる新しい魂。一つひとつ大事に育て、界に送り出す。逝く道に戻ってくる魂はすべて我が子なのだ。

 それが界の違う先の召喚などという拉致同然の方法で連れ攫われるなんて、怒らずにいられるか。

 

 どちらの界も自分たちでは問題解決する努力をせず、異なる界から問題を解決できる力を持つ魂を召喚という方法で拉致る。

 召喚は誘拐・拉致という犯罪であり、使わせないように召喚の方法を消し去るのだが、言い伝え程度に残る僅かな過去の歴史をほじくり返し、五十年から百年のスパンで繰り返しやがる。本当に学ばない。

 

「我が子を還せ!」


 筋骨隆々の勇者風の姿と清楚な神官風の姿となったブンキとキロは、それぞれ映像に飛び込む。

 ブンキは聖女召喚した界の進行をぶった切りに。

 キロは魂が自暴自棄となって消滅する前に界そのものを殲滅しようと荒くれに。


 キロとブンキが捕獲に消えた直後にエンマが来たが遅かった。


「……ああ、また十王会でなんて報告するかな」


 映像が見せる先には、魔物を従えて国を蹂躙する勇者(ブンキ)の姿と、高笑いして天変地異を呼び起こしている聖女(キロ)の姿。

 姿とやっていることのギャップが酷い。

 なぜその姿に変化したのか?

 しかし、ブンキとキロの胸にはスヤスヤと眠る魂。どうやら魂は無事に保護したようだが、保護したあとのブンキとキロの荒れ方が、うん、酷い。酷いと思うが、エンマも魂の拉致の多さに憤慨しているのは同じなので、帰還命令を出す気はない。


 魂の抹消はエンマの仕事だ。

 己の罪で歪みきった救いのない魂に鉄槌を下すのはいいが、異なる界に無理矢理拉致られて歪んだという理由の魂を抹消するのはつらいのだ。


「拉致犯罪はショコウの界か。ショコウ自身が召喚されてまだ還ってこないから、あそこ混乱してんだよな。ゴドウに任せるか……」


 十王の一人ショコウが不意討ちで召喚されて早何年か。ヒトのとある界のとある国で魔王として繋ぎ止められている。たまに「助けろー!」と聞こえてくるが、そもそも召喚などという、どう考えても犯罪行為になるモノを創造したのはショコウで、己の界で輪廻したくないとごねていた魂に子守唄のように自慢気にウンチクを語ったのが発端なのだ。いくつかの魂の記憶漂白をせずに逝かせてしまい、ヒトの界に広がってしまった。

 そうだった。だから、ショコウはしばらくヒトの界で反省させようと決めたんだった。

 エンマは悪くない。

 荒れろブンキ、暴れろキロ。


「おんやあ、エンマじゃねぇか。ブンキとキロはどこだ?」


 エンマが映像を見ていると、空間が揺れて懸衣翁がやってきた。

 懸衣翁の側頭部にデカいコブができていて、引き攣った笑いが非常に怖い。懸衣翁が片手で空中に軽く投げては手に戻して弄んでいる石には見覚えがある。


「こっちに投げてきやがってなあ」

「……帰ってきたら飽きるまでヤってくれ」

「そうさせてもらおう」


 ブンキとキロのどっちが投げたか知らんが、不法投棄も犯罪だ。あいつらめ。懸衣翁のことだ。終わりの見えない三途の川の石の整理の手伝いに連行されるだろうな。あれは終わらないぞ、頑張れよ。


「エンマはこんなもの許してんのか?」

「何をだ」


 懸衣翁が石をエンマに放り投げてくる。

 受け取った瞬間、石から再生されたキャピキャピとしたキロの声。


「……………あいつら……ッ!」


 ブンキー!

 キロー!

 保護シタナラ今スグ還レー!

 命令ダー!


 こうして輪廻の輪の門の日常は過ぎていくのだった。


この作品につけるタグがまったく思いつかなかった。まあ、いいか(笑)

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