2-7
「結婚したウィルとカロリーナは直ぐに子宝に恵まれた」
「そいつはめでたいな」
「そうだな。だが、カロリーナは妊娠する度に実家に戻っていてね。まあ、旦那でもない俺がとやかく言うことじゃないし、カロリーナの実家は大きな屋敷で使用人もたくさん居るうえに、助産婦さんや治癒魔法の使い手、医者や産婆やらまで居るらしくてな」
「安全な態勢ができているなら、悪くない選択なんじゃないか?」
「まあな。ただ、ウィルは少し寂しそうにしてたよ。ただ、子供が無事に産まれてから少し経つとカロリーナは戻って来ていたけどな。まあ、そんなこんなで三人の子供がそれぞれ二歳違いで産まれた。キース、クラウス、ケイトリン、男二人女一人の三人兄妹だ」
「子供か、苦手そうだな?」
「当たりだよ。前世じゃ自分の子供は居なかったし、そもそも子供なんて煩いし鬱陶しい生き物だと思ってたよ」
「自分も子供だった時がある癖に、そうなるのはある意味で不思議だよな」
「全くだ。けどな、そんな俺でも、産まれたばかりの頃から見続けていると、不思議と大事な存在になるんだよ」
「不思議なもんだな」
「しかも、自分の子供じゃなくて友人の子供となると責任がないだろ? だから馬鹿みたいに可愛がっちまったよ」
「意外だな」
「俺もそう思うよ。中でも末っ子のケイトリンは凄い懐くもんだから、そりゃあ可愛くてな」
「女の子だからじゃなくてか?」
「いやいや、まあ確かに俺は女好きな面もあるが、そうじゃないんだ。やたらと懐くのにも理由があったのさ」
「ほう」
「ケイトリンをこっちに連れてきて少しするとカロリーナはまた実家に戻った。四人目の誕生かと皆が喜んだんだが、そうならなかった。それから何年経ってもカロリーナは帰ってこなかったんだ」
「そいつは……」
「子供にとっては辛い状況だよな」
「ああ」
「長男のキースは、いつまでも母親の帰りを待っていた。次男のクラウスは、自分たちは母親に捨てられたんだと愛情の裏返しからだろうな、母親を憎んだ。そして、末っ娘のケイトリンはさ、母親を忘れちまったんだよ」
「そうか」
「だから、その代わりを求めるように俺にべったりになったのさ」
「なるほど」
「とはいえ、母親代わりなんてできないからな、ひたすら遊んでやっただけだ。そのうちケイトリンだけでなく、キースやクラウスも俺と行動を共にすることが多くなっていった。どうも俺は子供たちにとって気安い存在だったようだ」
「父親のウィルはどうだったんだ?」
「そうだな……子供たちから尊敬されているし愛されているが、俺みたいに気安い存在ではなかったようだ」
「家族関係は色々だな」
「そうだな。まあとにかく、子供たちを世話したり遊んだりするのは楽しかった。思い返すと感慨深い。だがある程度の年齢になると兵士になっても通用するようにと鍛え始めた。子供たちは三人とも魔法の素質が高いことは分かっていたからな」
「英雄である親譲りということか」
「ああ、その通りだ。母親であるカロリーナも魔法学校で優秀な成績を修めていたしな。魔法学校行きは確実だったから、もし戦争が起きて強制参加させられたとしても生き残れるようにって思いもあったんだ」
「英才教育だな」
「まあな。厳しい指導だったと思うが、三人ともよく頑張ったよ。中でもクラウスは俺の戦闘方法との相性が良くてな。教えられるものは全て教えたつもりだ」
「ほう」
「ウィルのやり方はどの子もできなかったが、ケイトリンが一番可能性があったな。キースはエルヴィンの戦闘方法と相性が良かった」
「学生時代に命を預け合ったエルヴィンか」
「そうそう、そのエルヴィンだよ。ああ、そう言えばエルヴィンは子供たちの母親であるカロリーナが実家に帰ったっきりになったのと同時期にウィルを頼って奥さんと共にやって来たんだ」
「へえ」
「ウィルは当然歓迎したし、エルヴィンと彼の奥さんであるコーデリアを自分の部下として雇うことにしたんだ」
「ん? エルヴィンは部下だとして」
「俺か? 俺は部下というよりは食客だな。居候と言っても差し支えない。というより居候の方がしっくりくるか」
「関係性が友人の色が濃いせいで上下関係がないからか?」
「そうだな。もしかしたらウィルも部下として扱うのに抵抗があるかもしれない。上下関係があるべきだった戦時下でも俺の小隊は遊撃隊扱いで行動は任されていたくらいだしな」
「ほう」
「とはいえ、ウィルが命令したとしたら、それは絶対だと思っていた。戦時下だしな。まあ、ウィルは俺に頼みごとはしても命令はしなかったけどな。俺の扱いを分かってたってことだろうな」
「ふむ」
「俺は前世の頃から誰かの部下になるのは向かなくてね」
「確かにそんなタイプだな」
「まあ、ウィルの仕事の手伝いをしていたから部下みたいなもんでもあるんだが、やっぱり居候の方がしっくりくるな。ただ、エルヴィンは相変わらずウィルに心酔していたからな。部下でいることの方が性に合うんだろう」
「面白いものだな」