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2-6


「そうか。まあなんにせよ、俺たち魔法兵団は戦局を変えるほどの活躍をした。そしてウィルは英雄と称えられた」


「だが?」


「もしかして顔に出てたか?」


「ああ」


「あんたの予想通りだ。英雄と称えられたウィルだが、本人に喜びは無かった。結局のところ、あいつは誰よりも敵を殺すことに長けていたが、その行為が好きではなかった」


「むしろ負担になっていたということか」


「ああ、そうだと思う。だからたぶん、人を殺すことに疲れちまったんだろう。まあ、殺しを好きになってしまったら、人として困ったもんだと思うけどな」


「そうだな」


「ただ、本人じゃないから本当の理由は分からない。確かなことは一つで、ウィルが軍をあっさり辞めたことだ」


「上層部から引き留められたんじゃないか?」


「ああ、引き留め攻勢は凄かったそうだ。だが、魔法兵団の団長として戦功を上げ、発言力が大きくなったオーウェンが防波堤になったんだ」


「へえ、やるな」


「だな。そんなとこもあるから、俺はどうもあいつが嫌いになれなくてね。そうそう、俺も軍を辞めた。エルヴィンもだ。それらを手助けしてくれたのもオーウェンなんだよ」


「ほう」


「それにオーウェンは、軍を辞めたウィルの世話をしてくれた」


「英雄に世話が必要だったのか?」


「ああ、その英雄になったことが問題でな。三男坊だが戦争で大活躍したウィルは、実家で跡目争いの神輿になりかねない状態でね」


「そういうことか」


「危険を察知したオーウェンが、自分の親父さんの治める辺境伯領の片隅に、ウィルを匿ったんだ。まあ、ここがそうなんだがな」


「なるほど」


「ウィルは、辺境のド田舎の代官になった。英雄には似合わないド田舎だと思うが、あいつには良い場所だったみたいだ。心穏やかに暮らし、やがて根を張ったんだよ」


「そうか」


「俺の方はと言えば、故郷に戻って冒険者をやりながら両親の世話をしていた。軍に居れば給金は安定していたし、立身出世の可能性もあった。だから、もしかしたら両親は惜しんでいたかもしれない」


「残念そうにしてたのか?」


「いや、そんなことはおくびにも出さず、軍を辞めたことも責めてこなかった。親父もお袋も俺の気持ちを汲んでくれたのかもしれないな」


「ありがたいことだな」


「本当にそうだな。だが、そんな両親も流行り病で早くに死んじまったんだ。軍を辞めて一年ぐらいだったな。親孝行はあんまりできなかったよ」


「そいつは残念だったな」


「ああ。両親が死んで他に家族もいない俺は、独りきりになっちまったなと思っていたよ。そんな時に田舎で静かに暮らしてるウィルから手紙が来てね」


「ふむ」


「人が足りないから助けてくれってことだった。特に何かやりたいことがある訳でもなかったからな。懐かしい顔でも見に行くかと辺境のド田舎に向かったのさ」


「都会を捨てて田舎へか」


「まあ、そんなところだ。なかなかの長旅だったが、楽しかったよ。一期一会、色んな人に会えたしな」


「ほう? そりゃあ、女関係もか?」


「え? 女関係か? 突然だな」


「そんなことを思い出している顔だったからな」


「え、本当かよ。そりゃ参ったな。まあ、女関係は、それなりだったよ」


「だが、その時は恋人は作らなかったんじゃないか?」


「確かに、当時はそういうのは面倒だから作らなかった。え? そんなことまで顔に出てるのか? よく分かるな?」


「まあ、なんとなくな。きっと、若い時は結婚なんて考えられないってタイプだったろ?」


「おいおい本当かよ? なんだ? そういう能力まで持ってるのか? 確かにその通りだ。だが前世では結婚したぞ。まあ、したくもないのに結婚して、結果、失敗したけどな」


「そんな能力がどんなもんか分からんが、なんとなく聞いてみただけだ」


「本当か? まあ、信じるとしよう。ああ、そうそう、結婚と言えば、ウィルは俺があいつの所に着いたのと同時期にオーウェンの妹のカロリーナと結婚したんだよ。もしかしたら結婚式に呼びたかったのかもしれないな」


「意外にそうかもな。花嫁自慢ということか?」


「どうかな? ただ、カロリーナは相変わらず俺には美人だとは思えなかったが、流石に花嫁姿は綺麗だったと言うべきなんだろうな」


「そりゃ、そうだろうよ。ところで、そのカロリーナという女性は辺境伯令嬢な訳だろう? 政略結婚の話は無かったのか?」


「俺も同じことを思って、ウィルに聞いたよ。あいつが言うには、オーウェンと同様に親御さんもカロリーナを溺愛していたらしくてな。彼女が何か言えば皆が賛成するって言ってたな。内情は知らないが、まあ不思議な家族関係だよ」


「確かに不思議だ」


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