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「なんだかはっきりしないな?」
「いや、ウィルは孤軍奮闘で多くの敵を倒し、味方を守っていたんだよ。まさに英雄さ。助けなんて不要だったんじゃないかと思ったほどさ」
「頭抜けた能力を持っているんだな」
「そうなんだよ。しかも、そんな状態だったのに俺達が行った時にとびきりの笑顔で『来てくれると思ったよ』と言われてね。つくづく凄い男だと思ったし、助けに来た甲斐があったとも思ったね」
「能力だけでなく人間性も頭抜けてるんだな」
「全くその通りさ。今はくたびれたおっさんだけどな」
「そういうことを言えるくらいの仲の良さなんだな」
「そう言われると気恥ずかしいな。ああ、そういや、その時の戦闘がウィルの二つ名が広まる始まりになった。味方からは短杖速連の守護者、敵からは一人大隊と呼ばれていたな」
「守護者は分かるが短杖速連というのは?」
「この国の魔法兵団では強化杖が使われているんだが知ってるか?」
「いや、知らない。さすがに魔法を使う者の多くが杖を好むのは知っているが」
「この国の常識を言えば、魔法使いが杖を好むのは杖を使えば魔力を増幅し調整しやすくなるからだ。だが、杖はあくまでも魔法の素質が高い者にしか扱えないとされている」
「ほう」
「ただ、魔力はどんな者にでも一定量は有るからな、そんな者たちにも魔法を使えるようにできないかと開発されたのが強化杖だ」
「なるほど」
「強化杖は普通の杖よりも更に魔力を増幅し調整もしやすくなっていて、魔法の素質が高くない者でも魔法を使えるようになった」
「それは便利だな」
「ああ。だが、魔法の素質が高い者が使えばそれはもっと有用だったんだ」
「だろうな。なかなか便利そうだ」
「ただ、強化杖は魔術紋を刻む必要があるから、杖が大きくなってしまうんだ。魔術紋を刻むスペースが広ければ更に魔力を増幅し調整しやすくなるからな」
「ふむ」
「これは蛇足かもしれないが、杖の形が面白いんだ。長年研究され、追及し、決定した形と大きさが理由なんだろう。狙撃銃みたいに構える仕様になっている」
「ほう」
「だから俺としては杖というより狙撃銃みたいな感覚なんだよな。だが、転生してから銃を見たことがなければ話に聞いたこともない。それに、元地球人もあんたが初めてだ。銃みたいと言って理解してくれるのはあんただけかもしれないな」
「かもな」
「とはいえ、あくまでも杖だ。だから狙撃銃みたいに射程は長くない。まあ、人を殺すことができるって部分は同じだけどな。ただ、銃に詳しい訳じゃないから例えとして使うのに適切かどうかは実際のところ分からないけどな」
「俺も銃に関しては詳しくないから分からないな。だが、なんとなく言いたいことは分かる。ところで、その手に持っているのが強化杖か?」
「そうだ。見てみるか?」
「ああ」
「その不思議な紋様が魔術紋だ。強化杖の特徴だな。綺麗なもんだろ?」
「確かに不思議な魅力があるな。ありがとう。返すよ」
「ああ。ちなみに、この腰に差しているやつも強化杖だ」
「それは狙撃銃みたいな形じゃないんだな。ただの棒にすら見える」
「ああ、こいつは特殊な強化杖で、使い方も特殊なんだ。だからこんな形だし紋様も目立たない」
「なるほど。状況によって二つの杖を使い分ける感じか」
「ああ、そうだな。こっちの長い方は普通の強化杖と同じ使い方だ」
「それは標準的な大きさか?」
「この杖の使用方法はよくある普通の強化杖と一緒なんだが、普通の物より短い」
「それでも1メートルはあるな」
「ああ、1メートル強だな。1メートル半から2メートル弱の強化杖が多数派だろう。だが、2メートル以上なんてのもざらで、3メートル以上のものも見たことがある。大きければ威力は大きくなり易いからな」
「とはいえ、取り回しが悪くなりそうだな」
「その通りだ。そのうえ、大きければ大きい程、発射命令から発射まで時間差も大きくなる。ただでさえ強化杖は魔法の発動まで僅かに時間が掛かるから速射性は銃より低い。結果的に連射性も低いんだ」
「ふむ」
「そこでウィルの話だ。あいつは強化杖を30センチ程にし速射と連射も可能にしてしまったんだ」
「それは凄いな」
「短い杖、速射と連射、そこから短杖速連。そして、それを使って多くの人を守ったことから、短杖速連の守護者って通り名になった訳だ」
「なるほど」
「あ、この国の言葉で正確に言うなら短い杖で速射と連射を使う守護者だけどな」
「長いな」
「はは、そうだな。ちなみに一人大隊の方は」
「一人で大隊に匹敵するということだろう?」
「まあ、そんなとこだ。本人は過大評価だと言っていたが」
「あながち間違いではない?」
「まあ、少なくとも一人中隊ぐらいではあったと思うぜ」
「そうか」
「ただ、ウィルは強さだけじゃなく他の面でも評価されていた。短い杖を強化杖にしたことや速射や連射は今迄の強化杖の常識を覆し、強化杖の更なる発展を当時の強化杖開発者連中に期待させたからな」
「多才だな」
「そうだな。だが、杖自体の複製は可能だったが、同じ様に扱える人材は皆無というオチになっちまったんだ」
「ああ、頭抜けた能力を持つウィルだからこそできた芸当ということか」
「そういうことさ。でもまあとにかく、ウィルの強化杖は他の皆が使う通常の強化杖よりも連射と速射が段違いってことだな。しかも威力が落ちると言う訳でもない」
「ああ」
「言ってみれば、皆が持っているのは銃は銃でも火縄銃だが、ウィルだけはマガジン式の拳銃を持っているってとこだな。まあ、共に威力はマグナムだけどな。もしかして、これも例えが悪いか? まあ、何となく伝わればそれでいい」
「何となくは伝わったよ」
「それは良かった。まあとにかく、そんな特別製の強化杖を使える特別な能力を持っていたのと、判断力やリーダーシップが優れているのもあるだろう。戦争は一年ほど続いたが、様々な場面でウィルは活躍した」
「だろうな」
「ちなみに、エルヴィンや俺もそれなりに活躍したと言える」
「ほう」
「だが、ウィルには遠く及ばなかったよ。あ、そう言えば、意外なことにオーウェンもそれなりに活躍したんだ」
「自身のミスでウィルの命を危険にさらしたことが切欠か?」
「恐らくそうだろうな。オーウェンは貴族の子息だが我儘ボンボンじゃなくストイックな奴でな。ただでさえ自身に厳しかったのに、ウィルの件からもっと厳しくなったよ。凄く頑張ってたと思うぜ。だが活躍はそれなりだったけどな」
「厳しいな」
「はは、昔の恨みだな。あ、もちろん冗談だぞ?」
「分かってるさ」