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「魔法兵団というのは?」


「魔法が使える者のことを軍部では魔法兵というんだが、その魔法兵のみで編成された兵団のことだ。俺達の先輩達、学校を先に卒業した人たちな? 彼らは既に各兵団に加わっていて、魔法を使えない兵士との連携に慣れている。言ってしまえば、一般兵団に染まっている状態だった」


「ふむ」


「だから卒業した魔法兵で兵団を作るよりも、一般兵団に染まっていない学生で魔法兵団を作る方が適していると上層部が判断したそうだ。そんな判断は普通されないのかもしれないが、権力者の鶴の一声があった」


「なるほど」


「その権力者の息子が、俺を毛嫌いしていた貴族の子達の筆頭さ。オーウェンっていうんだが、そいつが当然の如く兵団長になった。公私を分ける男じゃないと思っていたから、嫌なことばかり考えたな」


「過酷な場所に行かされて使い潰されたり、後ろからやられるとかだろ?」


「ああ、その通りだ。だがウィルが強く主張してくれて俺は彼の部隊に入れた。お陰でオーウェンから害される心配はなくなたってわけさ」


「なんでだ?」


「オーウェンは『弱みでも握られているのか?』と多くの者が疑問に思うぐらいウィルの言いなりでな。男色を疑う下衆な奴すらいたぐらいさ」


「そいつは驚きだ」


「いや、絡繰りを言えば、オーウェンの妹であるカロリーナがウィルと恋人同士だったからなんだけどな」


「それ位のことで?」


「オーウェンは妹のカロリーナを溺愛していたんだ。だから、その彼氏であるウィルの言うことも妹から後押しされると聞いてしまっていたらしい。そうそう、そのカロリーナってのが美人と評判だったんだが、俺にはどうも美人には見えなくてな」


「そいつは返事に困るな」


「たぶん俺の中の美的感覚に合わなかったんだろうな。単純に好みの問題だとも思ったんだが、なんだかウィルに申し訳なくてな」


「それはそうだろう」


「だから、その話をウィルに素直にしてみることにしたんだ。喧嘩になる可能性や殴られる可能性も考えたんだが、あいつは『友と女の好みが合わないのは良いことだ』と言って笑ったんだよ。本当、格好のいい野郎だと思ったね」


「そうだな」


「だが、その話をオーウェンが偶々耳にしていてな」


「それはそれは」


「顔を真っ赤にして『カロリーナが美人でないとは何事だ』と激怒した訳さ」


「だろうな」


「その件も俺を嫌う理由の一つになったようだ」


「まあ、よっぽどの人格者でもない限り、悪い印象のある者に対しては悪い部分を探してしまいがちだしな」


「そうなんだよ。オーウェンも俺の悪い部分、と言っても奴が考える悪い部分に過ぎないんだがな。まあ、それを探して俺を増々嫌いになったようだ」


「なのに今は悪い関係じゃないのか?」


「オーウェンとは不思議と縁が続いてな。良い縁とは言えないが、悪くもないかと今では思っているよ。今となっては奴も俺を毛嫌いしていないだろうしな」


「それは幸いだ」


「まあな。おっと、話を戻そう。それでその戦争なんだが、俺にとって特別なことは数少なかった。ちなみに、人を殺すのは戦争前に経験している。魔法学校の授業の一環で盗賊を殲滅した時だ」


「この世界ならではだな」


「ああ。とはいえ、初めての人殺しも、元日本人の割には忌避感はそこまで強くなかった。それに、そこまで強く特別なことだと感じもしなかったんだ」


「繰り返しになるが、この世界ではそういうものとも考えられるな」


「厳しい世界だからな。ただ、忌避感の少なさに対する危機感みたいなもんは無くもなかった」


「前世が有ることが主な要因だろうが、日本人的懐疑とも言えるかもな」


「ああ。だが、この世界での十年の経験がある分、忌避感が軽減したのかもしれないと思うようにしたよ。ただ、戦争で人を殺し続けていると、自分の中の何かが摩耗していくような感覚はあったな」


「なるほど……そういうものかもしれないな」


「すまん、話がずれたな。ともかく、ちょっとした出来事は数え切れないほどあったが、特別なことは数少なかった。ただ、オーウェンのミスで孤立したウィルたちを助けに行ったのは印象深いし、特別なことだと言えるかもな」


「ほう」


「さっき言った、平民の子供の中で俺を嫌っていたエルヴィンと共に、それぞれの小隊を率いてウィルたちの救出に向かった」


「おお」


「エルヴィンはウィルに心酔していたからな。是が非でも助けるって勢いだったよ。俺は、ウィルにはそれまで何度も助けられていたからな。今度はこっちが助ける番だと思ったのさ」


「ふむ」


「当時のエルヴィンは、平民の中で最も俺を嫌っていた筈だが」


「助けに行く人数は、一人でも多い方が良いと判断した?」


「恐らくそうだろう。俺が参加することについて何も言わなかったしな。そんで助けに行く道中でエルヴィンとは互いに命を預け、互いを守りあったんだ」


「なるほど」


「そこが分岐点だったな。この時を切っ掛けに俺とエルヴィンは打ち解け、良い仲間になった。そうそう、結果としてウィルと他の連中は救出した。いや、救出したと言うか、合流したと言うか」


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