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「ほお、どんな人物なんだ?」
「男爵家の三男坊で、家督は兄貴が継ぐからと自由奔放にやっていたんだが、素質審判で魔法の素質が高いと分かると魔法学校に無理矢理入学させられたそうだ」
「貴族にしては珍しいタイプの様だな」
「ああ、その通りだよ。今はどうか分からないが、当時の魔法学校は全寮制でな。平民の子たちは基本的に四人部屋に詰め込まれた。それに対して、貴族の子や平民でも特別に裕福な家の子には個室が用意された」
「もしかして、ウィルは平民と同じ様に四人部屋か?」
「ああ、その通りだよ。よく分かったな。それは彼の親父さんが魔法学校への寄付を最低限にしたからなんだが、それはウィルが望んだことだそうだ」
「ウィルという人物も面白いが、その意思を尊重した父親の方も面白いな」
「そうだな。そんなウィルの親父さんには感謝しているよ」
「そのお陰でウィルと知り合うことが出来たからか?」
「正解だ。ウィルと俺は同室でな。最初は貴族様の子息と同室なんて色々と面倒だから勘弁してくれと思っていた」
「だが、良い奴だった?」
「ああ、気さくな性格だったから直ぐに仲良くなったよ。それは他のルームメイトも同じなんだが、他のルームメイトと俺とじゃウィルとの仲の良さの種類が違ったんだ」
「種類が違う?」
「平民は貴族の子に対して畏まるだろう? 身分の差を気にする」
「ああ」
「だが、俺の場合は前世の記憶があったからか、身分の差はあっても同じ人間同士だと思えた。だから友人として普通に接することができたんだ。あいつがそう望んだからって言い訳もあったしな」
「貴族の子同士はどうだったんだ?」
「貴族の子同士であっても気安い友人関係というのは難しかったみたいだ」
「もしかして立場の問題か」
「正解だ。単純に考えても、互いの親の爵位は考えなければならないし、同じ爵位でも政治的な利害関係は絡んでくる。加えて、背景に色々と小難しい事情があったりするみたいでな。互いに気安くはなれないみたいだ。そういう難しいことを考えずに付き合えるのは平民の子だが……」
「普通の平民の子は、貴族の子に対して畏まってしまう?」
「そういうことになる。だからなのか、ウィルは俺に対等であることを強く望んでいた。そして実際、貴族と平民とは思えない気安い関係だったと思う」
「良い関係じゃないか」
「そうだな。とはいえ、一応貴族様の子息だからな。対外的には最低限のことは弁えているように見せていたんだ。だが、それでも俺の態度が気に入らないという奴はいてね」
「まあ、世の中というのは、そういうものだよな。どう行動しようと万人に認められることはない」
「そうなんだよ。貴族、あるいは優れた者に対する態度ではないと憤慨する連中がいたんだ」
「そういう連中は、貴族だけではなく平民にも居たんじゃないか?」
「正解。さすがだな。当時は、多くの連中に睨まれていたよ。その中でも貴族と平民それぞれに一人ずつ強烈に俺を毛嫌いしていた奴がいたんだ。おまけに、二人ともそれなりに影響力が大きくてな。当時は少し参ったよ。まあ、今となっては懐かしい過去だ」
「遺恨になるほどではなかったということか?」
「そうだな、結局そいつらとも今となっては悪い関係じゃないからな。例えば平民の方の俺を毛嫌いしていたのはエルヴィンという奴なんだが、ウィルに心酔していてな。まるで神の様に崇めていた」
「そんなウィルに軽口を叩いていたから気に入らなかったということか?」
「だな。まあ、その気持ちは分からなくはない。ただ、何かと因縁をつけて来るから俺もむかついて何度も衝突した。だが、ある切っ掛けで良い仲間になったんだ。まあ、互いに命を預け合ったんだから当然かもしれないな」
「ほう、命を預け合ったか」
「日本人的常識、特に平和ボケしていた前世の俺だったら考えられない話さ」
「だろうな。物騒な場所に住んでいたり、運悪く危険なことに巻き込まれたり、あるいは命懸けの仕事に就いていたりとかじゃなければ、そんな経験はなかなか無い。おっと、話の腰を折ってしまったな。すまない。続きを聞かせてくれ」
「ああ。あれは学校の卒業まで半年、入学して四年半が経とうとしていた頃だ。隣国との戦争が始まっちまった。学校の生徒は有事の際に国の為に働くことを義務付けられている。魔法を使える者は色々と有用だからな」
「だろうな」
「だからこそ魔法の素質がある者は学校に入れるし優遇されるんだ」
「なるほど」
「とはいえ、大抵の者は強力ではあるが経験不足だ。だから一兵卒扱いで各兵団の各隊にばらばらに配置されるのが常だった」
「だが、そうはならなかった?」
「ああ、今では軍部で当たり前になっている魔法兵団の構想が練られ始めた時期でな。実験的に俺達は魔法兵団という一つの兵団として運用されることになった」