表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/18

2-2


「この国では、十歳になる年に誰もが教会で魔法の素質があるか確認される。素質審判の儀式ってやつで、俺も十歳になる年に受けた」


「それは、国が主体で?」


「そうだ。国としても魔法が使える人材の情報を把握しておきたいんだろう」


「なるほど。それで儀式の結果はどうだったんだ?」


「高い魔力を有しているうえに属性資質も万能であること、つまりは魔法の素質が高いと神父は言った。驚くべき才能だとも言ってたな」


「へえ、それは嬉しかったんじゃないか? 喜んだろう?」


「そうだな、両親は涙を流して喜んでいたよ。俺も大喜びしていたが、それは魔法の素質が高かったからだけじゃない」


「他にも理由が?」


「ああ。何が引き金になったのかは分からないが、その時に自分に前世があり異世界に転生したと知ることができたんだ」


「ほう」


「その時、十歳までの過去の記憶が自分の経験及び記憶として流れ込んできた。逆に何十年分もある前世の記憶が、自分の経験及び記憶として流れ込んできたとも言えるな」


「そいつは多くの人が想像もつかないような感覚だろうな」


「ああ、そうだろうな。あれは経験してみないと分からない不思議な感覚だ。前世と現世の自我が混ざり合う様な感じ、とでも言えば良いのか。とにかく記憶が融合し、新たな自我となったんだ」


「ふむ」


「ただ、前世での人生の方が長いからなのか、明らかに前世の影響の方が強い」


「まあ、そうなるだろうな」


「だが、かと言って、現世の自我を消し去った訳ではないんだ。この体の本来の持ち主から体を奪い取った訳でもないし、他の魂を消したりもしていない。繰り返しになるが、前世と現世の記憶が融合して今の俺になったんだ」


「だろうな。他の魂を犠牲にして転生者に肉体を乗っ取らせるなんてことを、この世界の神々が良しとするなんてまず有り得ない」


「そう言って貰えると救われた気分になるよ。ありがとな」


「ああ、どういたしまして。礼は良いから話の続きを聞かせてくれ」


「ははっ、分かったよ。じゃあ、話を戻そう。俺は公爵領の領都で生まれ育った。王の次に権力のある公爵様のお膝元だからな。この国では王都に次いで栄えていたんじゃないかな」


「ほう」


「そんな領都で両親はまあまあ有名な細工職人でな。金持ちとまではいかなかったが、暮らしぶりを考えると平民の中では頑張って稼いでくれていた方だと思う。さて、そんな両親が俺の魔法の素質が高いだけで物凄く喜んだのはなぜだと思う?」


「優遇措置でもあるのか?」


「あっさり正解したな」


「まあ、魔法の素質チェックを国主体で国民にやらせる位だからな」


「なるほど、自らヒントを出していたって訳か。こいつは参った。さて、あんたの思った通り、この国では魔法の素質が高いと優遇される」


「ああ」


「しかもその優遇措置を受け、人生の選択肢でサイコロが上手く転がれば、大きく出世したり、歴史に名を残すことすらある」


「そいつは良いね」


「大して出世できなかったとしても、魔法が使えれば、早死にしない限り、細工職人である両親の何倍も稼げる。そんな明るい未来に、子供が進むことを喜ばない親はそうはいないだろう?」


「まあそうだろうな」


「ただ、優遇されるには、それなりに理由がある。まあ、それは一先ず置いておく」


「分かった」


「先に、どんな優遇措置をされるかを話す。そうだな、簡単に言えば、素質審判の儀式により魔法の素質が高いことが認められると学校に行くことができる」


「ふむ」


「いや、正しく言うなら『学校に行く権利を手に入れることができる』か。学校ってのは国立魔法学校のことで、魔法の素質が高くなければ貴族様の子でも入学できない」


「へえ」


「だが、入学するには少なくない金を出す義務がある。矛盾した言い方になるが、とても平等だがとても不平等でもある学校だ」


「確かに矛盾しているが、なんとなく言いたいことは分かる」


「分かってくれて良かったよ。まあそれはともかく、我が家は特別に裕福という訳ではなかったが、俺が生まれてから両親は子供の将来の為にと必死に働いた金を少しずつ貯めてくれていた」


「良い御両親だな」


「ああ、ありがたいことだと思ったし、今でも感謝している。ただ、そこまでしてくれても入学に必要な金額にしかならなかった」


「それは……厳しいな」


「当時の入学金はそんだけ高額だったってことさ。とはいえ、入学金さえ払えば卒業までは基本的に金は掛からないんだ」


「ほう」


「まあ、子供を少しでも優遇させたい貴族や大商人なんかは寄付金を繰り返すけどな。俺のような平民の子供は無事に学校生活を送り、卒業さえできれば将来は明るいとされていたから、学校内でまで優遇される必要はないし寄付金はいらない」


「なるほど」


「学校生活は、嫌な事も少なくなかったが良い事の方が多かった。素晴らしい人々と出会い、多くの思い出を作ったしな」


「そいつは良かったな」


「ああ、中でも特にウィルという男に出会えたことは一番の幸運だったよ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ