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「よお、こんなところで会うなんて奇遇だな」
「ああそうだな。良かったら座ってくれ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて座らせてもらうぜ。しかし、こんな森の奥に人が来るとは思わなかったよ。しかも、一人きりだなんて驚きだ。この森には何をしに来たんだ? もしかして俺を殺しに来たのか?」
「は? いやいや、そんな訳ないだろ。と言うか、誰かが殺しに来る心当たりがあるのか?」
「ああ、無くはない」
「それは興味深いな。だが、殺しに来た訳じゃないから安心してくれ。と言っても殺しに来る奴の心当たりがあるのなら安心はできないか。まあどうせ、違う意味で安心はできないだろうけどな」
「おいおい、どういうことだよ? 驚かすのは、無しで頼むぜ」
「ああ、と言いたいところだが、きっと驚くだろうな」
「え? 勘弁してくれよ」
「俺の目的は元地球人の話を聞くことだ」
「なっ!? 本当かよっ!? 元地球人だって? あんた一体?」
「俺の前世は地球人だ。元地球人というやつだな。そして、元地球人の居場所が分かる能力を持っている。それは距離が近いほど精度が増し、元地球人が誰かまで明確に分かるものだ」
「なるほど、誤魔化しは効かないって訳か」
「確かにそうだが、元地球人じゃないと言いたいのなら、それでも構わない。無理強いするつもりはないんだ。だができれば、あんたの今迄の人生を聞かせて欲しい」
「俺の今迄の人生を聞かせて欲しいときたか。随分と曖昧な頼み事だな。理由を聞きたいところだが……」
「すまん、それは言えない」
「そうか。でもまあ、こんなところまで来てくれたんだ。大した話じゃないが、聞かせない方が野暮ってもんだよな。よしよし、聞かせてやろうじゃないか」
「そいつはありがたい。では謹んで聞かせて貰おう」
「いやいや謹む必要なんてないない。まあ、適当に聞いてくれ。さて、何から話すべきか……あ、ちなみに俺の前世は日本人なんだが」
「奇遇だな。俺も前世は日本人だ」
「じゃあ、日本人的感覚は共感して貰えそうだな」
「たぶんな」
「まあ、何か分からないことが有ったら聞いてくれ」
「ああ、よろしく頼む」
「あ、それと、今から日本語で話しても良いか? 久し振りに話してみたい」
「ああ、構わない」
「おお、少し緊張するな。さて、じゃあ、何から話すか…… そうだな、前世の俺は『人間なんて死んだらただの肉の塊に過ぎない』そんな風に思っていた」
「ほう」
「だが逆に、だからこそ異世界転生に強い憧れがあった」
「なるほど」
「振り返れば、様々な創作物にある異世界転生を自分だったらと妄想して現実逃避していたのを思い出せるよ。まあ、かと言って、そんなことが起こり得る筈がないとも思っていた」
「あり得ないと思っていたからこそ憧れるというのは分からなくもない」
「だろ? それなのに異世界転生を本当に経験したんだ。それを認識した時には本当に歓喜したよ」
「だろうな」
「この世界は俺の知る限り、そのての創作物でよくある剣と魔法のファンタジー世界だ。中世と言うよりは近代よりだけどな。まあ、なんにせよ、この世界は俺の中にあった英雄願望を刺激するには十分だった」
「英雄願望?」
「ああ、自分が特別な人間だと他人に思われたい願望と言い変えたっていい」
「ああ、そういう」
「だが、残念なことに俺の物語はそのての創作物の様な英雄譚にはならなかったんだよ。そもそも、ああいう創作物の主人公は知識が有り過ぎだと思わないか?」
「かもな」
「いや、まあ、本音を言えば単純に俺に知識が足りないだけなんだろうがな」
「俺も正直、大した知識を持ってない」
「でもよ、知識が大したことなくても、身体能力や魔力、闘気なんかが異常に高かったり、世界に一つしかない様なスキルを持っていたりするだろう? あんたもそうなんじゃないのか?」
「どうだろうな」
「そりゃあ、当然、秘密だよな。まあ、何はともあれ、そういうもんが俺には無かった。勿論、そういうもんが無くても特別な知恵や勇気で英雄になるなんて物語があるのは知ってる」
「ああ」
「けど残念ながら知恵も勇気も特別じゃなくてな」
「その確率が低いからこその特別だからな」
「まあな。そんな訳で、俺も多くの人と同じ様に英雄にはなれなかった。前世と同じで、この世界でも特別な者に憧れる凡人に過ぎなかったのさ。だから俺の人生なんて大した話じゃないから期待しないでくれよ?」
「だとしても聞きたいんだ」
「そうか、まあ、凡人とは言っても前世の経験がある分だけ、俺と同じ様な他の凡人達と比べれば色々と有利ではあったと思うし、物事が上手く運んだ回数も多い。それに自分で言うのもなんだが能力だってなかなかのもんだと思うぜ」
「へえ」
「ははっ、まあ、あんた程じゃないだろうがな」
「そうでもないさ」
「そうでもないねえ……まあ、いいか。さて、それじゃあ生まれ変わってから今迄の人生を振り返るとしよう。その前にあんた、この辺の人じゃないよな?」
「ああ違う。この大陸ですらない」
「なるほど、じゃあそれを踏まえて話を進めるべきだな」
「ああ、宜しく頼む」