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3.


 Dは、暗い森の闇の中へと消えた。

 トミーは、Dの消えた方を暫く見ていたが、風が頬に当たると彼に嵐が来ると言われたことを思い出し、急いでケイトリンを迎えに行く。


「約束と違うぞ」


 言葉ではケイトリンを叱りながらも、愛おしそうに笑うトミー。

 二人は手を繋ぎ、一緒にログハウスに戻る。


 暫くすると風が強さを増していき、Dの言った通りに嵐が訪れた。

 それは正に暴風であり、気候の荒れるこの地でも稀にみる激しさである。

 ログハウスごと吹き飛ばされそうな威力のため、二人は地下室に避難。

 だが建物自体に魔力強化が施されていたお陰か、吹き飛ばされずに済んだ。


 そんな強烈な嵐が過ぎ去った翌々日、トミーとケイトリンの暮らす森のログハウスに、ウィルが訪ねて来た。

 突然のことに驚きながらも、二人はウィルを歓迎する。

 ただ、急いで来たのか、ウィルは息も絶え絶えだった。

 そんなウィルに水を渡そうとするケイトリン。


「水ではなく酒を」


 ウィルの珍しい言葉に、トミーとケイトリンは互いの顔を見合わせ驚く。

 トミーは、ウィルを椅子に座らせ、酒を注いだグラスを手渡す。

 それをウィルは一気に飲み干し、深く一息つくと、黙り込む。

 緊張感のある静寂。


「なあウィル、どうした? まさか親馬鹿子爵がいきなり攻めて来たのか?」


 静寂を破ったのはトミーだ。

 だが、ウィルは質問に応えず、再び静寂が訪れる。

 その静寂をトミー更に破る気にはなれず、ウィルが口を開くのを待つ。


「なあトミー、お前はドラゴンを使役したりしないよな?」


「あん? 何を言ってるんだ?」


「あの子爵なんだが……」


「なんだ? まさかドラゴンを使役してるのか?」


 そんなものが来たら自分はまず助からない。

 それどころか、使役するドラゴンの等級にもよるが、下手をすれば自分だけではなくケイトリンも助からない。

 魔法の木箱はドラゴンの魔法を防げたとしてもブレスは防げないからだ。


『ああ、だからケイトリンだけでも連れて帰ろうということか』


 トミーはそう納得した。


『あるいはドラゴン並の魔力を持つDなら……』


 そんな考えも頭を過るが、前世が同郷という程度で、ドラゴンと対峙するのに付き合わせる訳にはいかない。


「違う、そうじゃないんだ」


 ウィルの言葉にトミーはイライラし始める。

 許容範囲が広いので余り怒らない男だが、要領を得ない話し方には耐性が低い。


 ただ、ウィルが的確にものを伝えることを知っている。

 そんなウィルが言い淀むほどのことが起きているのだと理解した。

 だからこそ、苛立ちながらもトミーは耐えた。

 それに報いる様にウィルが話し始める。


「子爵は、私兵百人と、ならず者がほとんどだが傭兵二百人を用意したそうだ」


「はあ!? たかが一人を殺すのに三百人だと!?」


「確実に仇を取る為に、様々な可能性を考えた結果だろう」


「だが、そんだけの数を動かせば辺境伯領への侵攻と解釈されそうなもんだが」


「義父殿とは揉めない様に分散させて領に入ったようだ」


「そいつはまた周到なこった」


「だが、私兵達は我が家に攻めて来ることはなかった。お前の予想通り、子爵が部下数人と共にクラウスの顔を確認しに来ただけだ」


「そこは狙い通りか」


「ああ、次男を殺したのはクラウスじゃないと知った子爵は、三男を殺したのもクラウスじゃないと思い込んでいたようだ」


「それは幸運だったな」


「かもしれん。子爵は、お前の人相書を私に見せた。お前に言われた通り、森の中に逃げ込んだと伝えたよ。気は進まなかったがな」


「そいつは悪いな。それで?」


「なぜ森へ? と聞かれ、ほとぼりが冷めるまで居るつもりだろうと伝えた」


「信じたか?」


「ああ、代官ごときが自分に逆らう筈がないと思ったのだろう」


「そうか。だが、なんでここに来た? まさか、お前まで俺と一緒に戦うとか言い出すつもりか?」


「いや、そうじゃない。もう戦わなくて良いんだ。ここに居る必要もない」


「どういうことだ?」


「子爵は死んだ。私兵や傭兵も大半が死んだ。確認できた生き残りは僅かだ。その生き残りも多くは重傷で五体満足でも心神耗弱状態になっている」


「なっ!? 一体、何があったんだ?」


「生き残りの証言と軍部の調査により、ドラゴンによる殲滅だと判明した。二日前の嵐もドラゴンの影響だろうとのことだ」


「ドラゴンだと? ああ、だから使役できるか聞いて来たのか。と言うか、嵐を起こせるドラゴンを使役できる人間なんて、おとぎ話の中にしかいないだろう」


「それは確かにそうだが、お前ならそれも有るかもしれないと思ってな。実際、直ぐ近くにドラゴンが来たのにこうして生きている」


「いくらなんでもドラゴンの使役はできないぜ…… それにしてもドラゴンか、生きているのは幸運だとしか言えないな…… と言うか、嵐もドラゴン…… いや、まさかな」


 トミーの脳裏にDの顔が浮かんだが、何も確信はない。

 彼に分かるのは、自分を狙う子爵はもういないということだ。


 ただ、結局のところ、トミーの英雄願望は叶えられなかった。

 自己犠牲による英雄的行為は、ドラゴンの襲来という天災によって不必要になったからだ。


 だがトミーは、それを嘆きはせずに、むしろ喜んでいる。

 英雄にはなれなかったが、愛する人達と日々を過ごす幸せ者にはなれたからだ。


以上で完結です。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

あくまでも実験的に書いてみたものですので、厳しいツッコミはご容赦ください。

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