2-16
「ところで、なんで自分に矛先を向けさせたかったんだ?」
「なんで? なんでだろうな。そうだな……クラウスには家族が居るが、俺は一人だったからか。両親は死んでいたし兄弟も居ない。子爵に狙われて逃げ切れず、例え死んだとしても誰も困らない。そんな風に思ったのかもしれない」
「ふむ……」
「いや、本当は違う」
「ん?」
「英雄願望だよ」
「!?……ああ、そういうことか」
「そうだ。俺は英雄になれなかったからな。だからこそ誰かの為に英雄的行動をとりたかったんだと今では思ってるよ」
「馬鹿な奴だな」
「俺もそう思うよ。まあとにかく、一連のことを皆に報告したんだ。そしたら、嬉しいことに色んな奴らに怒られたよ」
「当たり前だ」
「ふっ、考えてみりゃあそうだよな。そんなのは当たり前だ。だけどな、怒られて嬉しかったんだ。怒られて嬉しいってのも変な話だけどな。でも本当に嬉しかったんだ。俺は色んな人に大事にされてんだなって思ってな」
「いい年してそんなことも分かってなかったのか?」
「本当だよな。前世と合わせりゃ、相当な人生経験積んでいるはずなんだが、そんなことも分かってなかったんだ。俺もちょっと前の俺を相当な馬鹿だと思うよ。まあ、今もそう変わらんけどな」
「だが、まあ、馬鹿は馬鹿だが良い馬鹿だよ」
「ありがとよ。まあ、なんにせよ、もうやっちまったことだから取り返しはつかない。それに子爵はきっと怒りの矛先を俺に向ける。そんな妙に確信めいた感覚は一向に消えなかった。だから皆の気持ちは嬉しかったが、俺は出て行くと言ったんだ」
「ああ」
「俺の意志が強いのを見て取れたのか、ウィルは認めてくれた。他の皆も思うところはあったようだが、最後は認めてくれたよ。でも一人だけ絶対に認めないって顔をして俺の前に立ちはだかったんだ」
「ケイトリンだろ?」
「正解だ。よく分かったな」
「いや、分からない方が不思議だろ」
「そうか? まあ、ともかく、ケイトリンは絶対に嫌だと言って強固な意志を見せていた。俺は困ったが助けてくれるやつはいない。とうとう、行くなら自分も一緒だと言われてな。物凄く困っちまった」
「だが、それでも良いかと思った?」
「その通りだ。それに、もし子爵が俺を殺しに来たとしたら、家の地下にケイトリンを隠しちまえばいいと思ったのさ。そんなに土魔法は得意じゃないが、人一人を隠せるスペースを作るくらいなら容易だ」
「そこに避難させた後に、それを隠蔽すれば見つからないと?」
「ああ、俺は外で戦えば、もし死んだとしてもケイトリンがどうこうされることは無いと思ってな。それに、もし死ぬんだとしても、その間際まで彼女と過ごせるのならそれは幸せなことだ。だから約束を守れるなら良いと伝えたんだ」
「それで?」
「ケイトリンは分かったと満面の笑みで言った。他の皆は呆れていた。ウィルは首を数回横に振ると諦めた様な顔をしていた」
「そりゃそうだ。考えが甘いぜ」
「どういうことだ?」
「俺はケイトリンのことを詳しくは知らない。だが、話を聞く限り、大人しく言うことを聞くような性格だとは思えない。今も地下に避難させてから来たんだろ? だけど追いかけて来た」
「え?」
「俺の察知能力はなかなか優れものでな。こっちに向かっている人間を察知してる。ケイトリンに間違いないだろう」
「そりゃあ、参ったな」
「そのなんとかって貴族が襲って来たら、彼女はきっとあんたと共に戦おうとするだろうよ。だからこれをやる」
「これは?」
「見た目はイヤーカフスだが魔力を通せば通信装置になる。もしどうしても対応できないことが有ったら連絡してくれ。同じ元日本人同士だしな、助けに来るよ。それなりに力になれる筈だ」
「あんたが助けに来るとしたら確かに心強い」
「それとこれもやる。今迄の人生を聞かせてくれた礼だ」
「虹色に光る鉱石でできた鳥の二つの指輪……これって、もしかしてツガイの指輪か? まさか、実在したとはな」
「へえ、よく知ってるな。その効果も知ってるかもしれないが、一応説明する。その指輪を持つ二人は互いが互いを愛してさえいれば互いを守る大きな力になる。ツガイの造った番の指輪だな。夫婦でお守りとして持ってな」
「ベ、別にまだ正式には夫婦って訳じゃあ」
「分かった分かった。良いから貰っとけ」
「分かったよ。ありがとな」
「俺はちょっと野暮用ができたから行くことにする。それと、嵐が来そうだからケイトリンと家に戻れ」
「嵐? そうか、分かった。だが、あんたは嵐の中でも大丈夫なのか?」
「俺は大丈夫だ」
「そうか。あ、そういやぁ名前を聞いてなかったな。うっかりしてたぜ」
「名前はD。アルファベットのDで覚えてくれ。元日本人だし分かるだろ?」
「Dだな。しっかり覚えた。俺の名前はトミーだ」
「トミーだな。俺もしっかりと覚えたよ」
「じゃあ、またなD」
「ああ、またな、トミー」




