2-15
「そんなある日、五人の屈強な男たちを引き連れた身形の良い男が、ウィルの家へと続く道を歩いていた。そこに俺が偶々遭遇したって訳だ。そして、その偶然が今の俺の状況の切欠になった」
「ほう」
「身形の良い男は別として、屈強な男たちから魔力はさほど感じなかった。まあ、最新の強化杖を使えば魔力の少なさはカバーしてくれるからな。警戒は必要だったし、実際警戒していたが、正直舐めていたかもしれないな」
「強者にありがちな傲慢だな」
「かもな。身形の良い男は『クラウスという男はいるか?』と、俺に聞いて来た。こいつらクラウスがどんな男か知らずに来ているのかと不思議に思ったのと同時にちょっとした悪戯心が湧いてな」
「ほう」
「薄笑いを浮かべながら『俺がクラウスだが何か用か?』と返したんだ。そしたらそいつは、そうかと言うと振り返り後ろに歩いて行った」
「意外とあっさりだな」
「ところがその瞬間、五人の屈強な男たちが俺に襲い掛かって来たんだ」
「おお」
「こっちを殺しに来る動きではなく捕らえる動きで、随分と手慣れていたな。だが、こっちは殺す気で反撃できる。俺は腰紐に差した強化杖を抜き、魔法ではなく武器として使い、反撃した」
「はは、杖を近接で使ったのか? 良いね」
「ああ。さっきも言ったが、この腰に差している強化杖は特別仕様でね。普通の強化杖よりも頑強に作ってあるうえに強化コーティングもしてあるから剣と打ち合うことも出来る」
「近接も得意なのか?」
「学生の時に魔法だけでなく体術や武術なんかも学んだが、その先生たちに随分と気に入られてね。先生たちのコネで様々な達人から色々と教えて貰ったんだ。お陰で近接戦闘はそれなりに得意だよ。だから強化杖を他の奴らとは違った意味でも強化してある訳だ」
「なるほど」
「五人のうち二人を気絶させ戦闘不能にすると、俺の予想以上の反撃に身形の良い男は焦ったみたいでな。苛立たし気に『もういい! 加減するな! 殺せ!』と怒鳴りやがった。そう言われた戦闘可能な残りの三人は剣を抜き、俺を殺しに来たんだが」
「そうするのが少しばかり遅かった?」
「その通り。俺は近接戦闘で反撃しながらも強化杖を媒体にせずに設置魔法を展開していた。強化杖を媒体にすると魔術紋が光るから相手も警戒するしな。近接戦闘しながら、ぶつくさと呪文を唱えていた訳だ。意外と俺もやるもんだろ?」
「ああ、素晴らしいね」
「まあ、異世界転生者や転移者の定番である無詠唱じゃないところが格好つかなくはあるがな」
「大丈夫だ。そこは見逃そう」
「ふっ、ありがとよ。まあ、ともかく。設置魔法で三人に攻撃して、奴らが怯んだところで隙をついて近接攻撃すると追加で二人が気絶して戦闘不能になった」
「屈強な男の残りは一人か」
「ああ、一対一ならそこらの奴らには負ける俺じゃない。例えそれが貴族の手練れの私兵であってもだ」
「やはり、身形の良い男は貴族か」
「ああ、子爵の息子さ。確か二男で、名前はチャールズとか言ったな。私兵の最後の一人を動けなくした俺を見ると顔色を悪くしていたが、貴族としての矜持なのか逃げるのは堪えていた。俺はそこで迷った」
「何をだ?」
「チャールズという男を、殺してしまうかどうかをだ」
「なぜ殺す?」
「俺がチャールズを殺せば、子爵の怒りの矛先はクラウスから俺に向かうかもしれないと考えたんだ。それは咄嗟に思い付いたもので、些か短絡的な思考だったかもしれない。だが、その時は妙案に思えた」
「ほう」
「私兵は戦闘不能になったが死んだ訳じゃない」
「チャールズを殺したところを見せれば、自動的に証人になるということか」
「ああそうだ。だが、護衛対象を殺された私兵が子爵に報告せずに姿をくらます可能性もあると思ってもいてな。その場合、やってもいないことまでクラウスのせいにされる可能性がある。だからどうすべきか、迷った訳だ」
「なるほど」
「その迷いは一瞬だったんだが、隙ではあったかもしれない。好機と見たんだろうな。チャールズが剣を抜いて襲い掛かって来た。俺は咄嗟に反応することはできたが、手を抜く余裕は無かった」
「結果としてチャールズは死んだ?」
「ああ、結局な。まあ、殺してしまったものはしょうがない。生き返らせることなんてできやしないからな。気持ちを切り替えて私兵に近付き、彼らを起こした。そして表情を見たんだ」
「ふむ」
「死を覚悟した表情をする奴、命乞いを始める奴、怨嗟の声を上げる奴。どいつもこいつも自分が殺されることを疑ってなかったな。奴らの思う通り、殺してやってもよかったんだが、する理由は無かった」
「むしろ殺さないでおく理由がある」
「そうだ。子爵の怒りの矛先を変える為の報告係になって貰わないとな」
「そうだな」
「そして俺がクラウスではないことも伝えた。戯れにクラウスだと言ったら、こんなことになるとはね。なんて、挑発するのも忘れなかったよ」
「ついでに、ソロモンのことも伝えた?」
「そう言えば、前も似たようなことがあったな。最新式の強化杖をぶっ放した馬鹿がいたから懲らしめてやった。そういや、あいつ死んだみたいだな。と言ってやったよ」
「子爵に疑念を持たせるのが狙いか」
「ああ。引っ掛かってくれる可能性は少ないかもしれないと思ったが、やる価値はあるとも思ったんだ。それに上手くいきそうな妙な予感もあった。すると、私兵たちがチャールズの死体を担いで帰っていった。それを見て、妙な予感は妙な確信へと変わった。きっと子爵は俺に矛先を向けるってな」




