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「そうなる予感はあった。昏い目をしていたからな。危ういなと思ったが、何もできなかった。そして、数日後だ。スペンサーたちが死んだ。殺されたんだ」
「それは……」
「スペンサーたちが殺された事件の日の夜、俺は戦場で部下だったセスって男に領都で再会してな。そんで一緒に酒を飲もうって話になった。まあ部下と言っても同じ学校の生徒だったし、仲の良い友人でもあるんだけどな」
「ふむ」
「セスは攻撃魔法が得意じゃないから、学生時代は周囲の評価が低かった。だが、探知魔法の類が得意なセスのことを俺は高く評価していたんだ」
「その辺は地球の知識が有れば当然かもな」
「ああ。戦場でセスほど仲間に欲しい人材はいないと言って俺の小隊に入って貰ったよ。そんな俺に対して『凄く高く評価して貰ったうえに自分がどう生きればいいか教えて貰った』と言って、いかに自分が恩義に感じているかを酒を飲みながら長々と話してくれたこともある」
「良い関係だな」
「ああ。その日も宿泊先に招待してくれて、酒を飲みながら色んな話をした。その時に今も軍部所属だが事件捜査が主な仕事の部署に居ると聞いたんだ。まあ、刑事か探偵みたいな感じの部署で物語になったりもしてるから人気の部署だよ」
「へえ、そういう部署があるのか、面白いな」
「そうか? まあ他国は知らないが、この国では当たり前の部署だぜ」
「なるほど」
「国中に出張る仕事でな。その時はたまたま近場で事件が有って来ていたそうだ。もしかしたら会えるかもしれないと思っていたからと喜んでな。しこたま飲んだよ。そんで翌朝、セスの宿泊先の部屋のドアが激しくノックされた」
「飲んだ翌朝の激しいノックとか怠いな」
「本当、その通りさ。明け方まで飲んだからな。俺はノックを無視して眠ろうと思ったが、怠い身体を何とか動かしたセスがドアを開けた。すると、殺人事件があったってセスの部下が駆け込んできたんだ」
「増々セスには怠い状況だな」
「全くだ。だが、セスの魔法の特性が犯罪捜査には格段に役立つ。だから、上から捜査命令が出て部下が呼びに来た。すっかり目が覚めた俺は帰ろうかと思ったんだが、セスが意見が聞きたいので現場に一緒に行って欲しいって言ってきたんだ」
「そんなことが可能なのか?」
「そこらへんは意外と緩い。まあ、セスの階級が高いってのもあるがな」
「ほう」
「それに学生時代の話だが、とある事件があった時にセスの魔法と俺の推理で事件を解決したことがあってな。だから、また組んで解決したいとでも思ったのかもしれないな。謝礼を弾めよと冗談を言いながら現場に共に向かった」
「そこで、スペンサー達が殺されていた?」
「その通り。現場に到着し、その惨状を見た俺は感服したよ」
「ほう」
「本当に鮮やかな手並みだった。こんなことを言うのは不謹慎というやつだろうがな。俺が教えた通り、いやそれ以上に見事な手並みでサブリナが死ぬ理由になった奴らを殺していた。一目でクラウスの仕業だと分かったよ」
「さすが師匠だな」
「まあな。だが、その手並みが俺のやり方に似てるってことはセスも直ぐに分かった。セスは俺の部下だったから、俺のやり方をよく知っているしな。だから、疑惑の眼差しを向けて来たよ」
「その辺は職務に忠実なんだな」
「だが、セスの魔法を使って事件は前日の夜と分かったから疑いは直ぐに晴れた」
「前日の夜に一緒に飲んでいるから実行できないのは明らかという訳か」
「そうなる。ただ、俺の犯行でないにしろ、俺の教えを受けた者か関係者の仕業だと考えたんだろう。セスは犯人の心当たりがないか聞いてきた。俺はクラウスが犯人だと確信していたが、ないと答えた」
「なぜだ?」
「なぜ? そうだな……クラウスのやったことを否定できないからか。いや、この世界であっても人殺しが良いことだとは思っていない」
「ふむ」
「けどな、だからってクラウスを咎めたり断罪したりはできないと思ったんだ。きっとクラウスと同じ目に遭ったら、俺も同じことをするからな。いや、それも何か違うな」
「言語化するのは難しいか?」
「そうだな。……ああ、身内だからってのもあるかもしれない。それも違うか。日本人的感覚からすると肯定するのは間違っていると思わなくも無いが、俺にはクラウスを否定できないと思った。いや、結局のところ、なんで言わなかったかは明確には分からない」
「難しいな。セスの反応はどうだった?」
「セスは訝しげな顔をしたが、深くは追及してこなかったよ。犯人じゃないことは確かだし、俺が言わないと決めたら拷問されても言わないことを知っているから、きっと無駄だと判断したんだろうな。あるいは、所詮、マフィアが殺されただけだと考えたかもしれない」
「恩義を感じているからって線もあるんじゃないか?」
「かもな。なんにせよ、捜査線上に俺の名前が挙がることは無かった筈さ。マークされたりもしなかったしな」
「なるほどな」




