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2-9


「クラウスとシェリーは、毎日、甲斐甲斐しくケイトリンの世話をしていた。だが、自分の世話をしているせいで、せっかく婚約した二人が結婚できないとケイトリンは嘆いていた」


「気持ちは分からなくもない」


「そして彼女は二人を自分から引き離す為にとんでもないことを言い出したんだ」


「なんとなく予想できてしまうんだが」


「困ったことに俺と住むと言い出したんだよ」


「……」


「俺になら小さい頃からおしめを替えられたり一緒にお風呂に入ったりして裸も見られているし、何を見られてもどんな世話をされても平気だとか言ってな。いや、そりゃ赤ん坊の頃はおしめを替えたり一緒に風呂に入ったりしたさ」


「……」


「おいおい、何を訝しげに見てんだよ!? 違うぞ!! 俺はそういうんじゃないぞ!! 子育てだから!!」


「……」


「いや、確かに俺の子供って訳じゃないけど、子育てを手伝う一環だからな? 分かるよな? な?」


「分かった分かった。そんなに慌てなくても大丈夫だ」


「まあ、ともかくだ。なし崩し的にケイトリンは俺の家に転がり込んできた。俺は当時、ウィルの家の敷地内に住んでいたんだが、敷地内と言ってもなかなか広いからな。クラウスたちの住むウィルが居る母屋の近くの家から俺の家は離れていた」


「ああ、なるほどな」


「言い方は悪いが、そのおかげでクラウスとシェリーは目が見えなくて不自由に暮らさざるを得ないケイトリンの姿を見ずに済んだ。多少は罪悪感が薄れたんだろう。ケイトリンの強い後押しもあって二人は結婚することになったんだ」


「そいつは良かったじゃないか」


「ああ、当時はな。皆が二人を祝福した。勿論、俺もさ。二人が結婚したからケイトリンは母屋に戻ると思ったしな」


「ところが?」


「なんだよ? にやけやがって、くそ」


「居座られたんだろ?」


「そうだよ。その通りだよ。そんなに思ってることが顔に出るのか? まあ、良い。ケイトリンは『私が戻ったら二人は自分たちだけ幸せになってはいけないってまた思い込む』と言ってきたんだ」


「そして、帰れとは言えなくなった?」


「そういうことだ」


「本当は帰って欲しくなかったんじゃないか?」


「いや、そんな思いも無くはなかったが、居座られるのも勘弁と思っていたんだ」


「ああ、絆されるからか?」


「そう、その通りだよ。ただ、ケイトリンの想いを考えると帰れとは言えなかった」


「だろうな」


「だがな、そんなケイトリンの想いは残念ながら結婚した二人には届かなかった」


「そうなのか?」


「いや、少しは届いてはいたのかもしれない。結婚して幸せそうだったしな。ただ、二人の幸せな結婚は長く続かなかったんだ」


「どうしてだ?」


「別に嫌い合ったり憎み合って別れたんじゃない。ある日、クラウスが手紙を残して居なくなったんだ」


「突然だな」


「ケイトリンの目を治せるかもしれない方法を偶然耳にして旅立ったそうだ」


「なるほど、クラウスは幸せな結婚生活を送りつつも、ケイトリンの目のことをいつまでも忘れることができていなかったということか」


「だろうな。シェリーに対しては『帰りを待てないようなら自分のことは忘れて誰かと幸せになってくれ』と書かれた手紙が残されていたそうだ」


「それは……」


「馬鹿だろう? 何、格好つけてんだよって話だ。必ず戻ってくるから待ってろとでも書けば良かったんだよ」


「おいおい、まさか」


「クラウスが旅立ってから、一年二年と月日を重ね、丸四年経った頃だ。キースがシェリーと結婚すると言い出した」


「そうきたか……」


「なんとなく予感はあったけどな。キースにクラウスのことを聞くと『いつまで経っても帰ってこないし、もうシェリーも忘れていい頃だ』と言った」


「周囲の反応は?」


「ウィルは『シェリーが良いのならそれを認める』と渋々ながらも言ったが『もし結婚するならここを出て行け』とも言っていた。他はウィルがそう言うならって感じだな」


「シェリーは?」


「シェリーはどんな思いだったんだろうな? 本当のところは分からない。分かるのは事実だけで、ウィルが渋々認めてから一週間もしないうちに二人は出て行った」


「女心は分からないな」


「全くだ。その後、キースは母親であるカロリーナを頼ったそうだ」


「大いに頼りがいがありそうだ」


「まあな。彼女の実家は辺境伯家であり、この領の統治者の家だからな。実際、キースは辺境伯家の影響力を上手に使い、富と名声を手に入れた。だがそんな彼にも手に入れられなかったものが一つだけある」


「なんだ?」


「子宝だ」


「そういうことか……」


「シェリーはクラウスとの間にもできなかったから、もしかしたら子供ができにくい体質だったのかもしれないな。地球でも子供ができないことは大変なことだったろ? 医学が地球程には発展していないこの世界ではなおさらだ」


「だろうな」


「だが、そんなシェリーをカロリーナが慰めていたそうだ。実はカロリーナが実家から帰ってこなくなったのは流産してしまったからでな。子供ができない体になってしまったそうなんだ。それでウィルに申し訳ないと思って彼の元に帰れなかった」


「なるほど」


「カロリーナはシェリーに自分を重ねたんだろう。彼女を慰めた。シェリーはカロリーナに大いに慰められ、それを恩義に感じ、ウィルに手紙で事実を伝えた。それを知ったウィルは、直ぐにカロリーナを迎えに行き、彼女を連れ帰ったんだ」


「へえ」


「離れていた時間が長かったのに二人は仲睦まじくてな。見てるこっちが照れたもんさ。もしかしたら離れていた時間も互いを思っていたから、それが積み重なって、より愛が深まったのかもしれないな」


「……」


「なんだ? 柄にもないこと言ってるってか? まあそうかもしれないな」


「ソンナコトナイヨ」


「なんで片言なんだよ? まあいい。カロリーナはそれで良かった。だが、彼女が近くに居なくなったシェリーのメンタルは不安定になってしまったんだ。まあ、それは憶測だし、そう思ったのは随分と後のことなんだけどな」


「そうか」


「話が前後しちまうが、クラウスのことだ。あいつはシェリーがキースと出て行った一年後に帰ってきた。しかも、魔女が作った目の治療薬を手に入れて帰ってきたんだ」


「それは幸いだろうが、シェリーのことを聞いた時の気持ちは想像がつかないな」


「クラウスの表情はなんて表現すれば良いのか分からない。強いて言うならば様々な感情がせめぎ合っている様な表情だろうか」


「想像つかないな」


「そいつは語彙力が無くて悪かったな」


「いや、そういう意味じゃなく、クラウスの気持ちがな」


「ああ、そういうことか。まあ、当事者にしか気持ちは分からないだろう。だが、良いこともあった」


「クラウスの持って来た薬のお蔭でケイトリンの目が完治したのか?」


「その通りさ。それにな、クラウスは直ぐに幸せな結婚生活を送ることになった」


「へえ」


「相手はエルヴィンとコーデリアの娘、サブリナさ」


「ああ、子供の頃にクラウスのお嫁さんになるって言ってた子か」


「なんと言うか、女の強かさ、みたいなもんが垣間見えるよな」


「そうだな」


「二人の結婚は、そりゃあ幸せそうだった。それに子供も直ぐにできたんだ。クラウスはシェリーのことは思い出にしてたと思う。シェリーの方はどうだったか今となっては分からないけどな」


「……」

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