言えない1 外の俺と3人の美女
この作品は今日中に全て投稿し終わる予定です。
いつのものように大学のキャンパス内を歩く。そんな時、
「……キャッ!?」
突然、前にいた女子が躓く。何も躓くような物は転がっていないというのに。
前のめりになる彼女は倒れ、その衝撃で、
「ちょっ!?澪!パンツ見えてる!」
「うぇ!?男子に見られてないよね!?」
見事なまでに下が丸見えに。その女子や友人は慌てて周りを見回し、俺の存在に気付いたようだ。ここで普通なら「変態!」やら、「み、見たでしょ!」みたいな台詞が飛んでくるのだと思う。
が、
「あっ。深川君かぁ」
「なんだぁ~。草食系じゃん。変な物見せてごめんねぇ」
俺にそんなことを言って、何もなかったように女子達とは歩き出す。
深川というのが俺の名字。本名は深川正幸だ。大学でのあだ名は草食系。こういうことがあっても特にがっついたりせずに苦笑を浮かべるのが由来である。
勿論見た目もそれっぽい。丸眼鏡を駆けて、少し長い前髪。目が隠れているわけではないが、普段浮かべている弱々しい表情とも相まって全体的に大人しそうに見える。
「おっ!深川じゃん!ちっす!」
「ああ。こんにちは」
「自作PC作ってきたか?」
「ああ。はい。作ってきましたよ。そちらはどうですか?」
俺の普段の話し方は草食系と言われるだけあって、敬語がスタンダード。同年代だろうと年下だろうと敬語だ。
一人称だって僕にしてある。
誰も大学の奴らは、俺が心の中の一人称を俺にしてることなど知らないだろう。逆に俺がこの素の口調を使って相手してる奴らは、俺の普段の話し方なんて知らない。
俺のこんな二面性を知っているのは、せいぜい家族と………
「……ただいま」
大学が終わり、俺は一人暮らしをしているマンションの部屋へ帰ってくる。一人暮らしなんだから、当然返事は返ってこない。
俺はいつも通りの動きで体を動かし、キッチンへ向かう。適当に数品作るが、その量は多めだ。あいつらはよく食べるからな。
「さて、下ごしらえはできた」
俺はテーブルに並んだ作りかけの物を見て、呟く。これからはあいつらが来てから作れば良い。
ということで手も空いたし、趣味の活動を行なうために自室へ。趣味をしていると次第に没頭していき……数時間後、
ピンポーン!
「っ!?」
俺は体をはねさせる。それから自室を出て、扉へ向かった。
ドアノブへ手をかけて体重を乗せると、ガチャリと音を立てて扉が開く。玄関の前には、
「「「こんばんは」」」
3人の女性が。
「ええ。こんばんは」
挨拶を返して俺は3人を部屋へ招き入れる。3人とも見た目は綺麗で、外見が草食系男子名折れには似つかわしくない。
が、いつものことなのでそこに違和感はない。俺たちは3人がテーブルに座って話をしているのを聞きながら、料理を作り始めた。
「聞いて聞いて!SNSに出してたやつが雑誌で連載できることになったの!!」
そう言って目を輝かせるのは黒髪のポニーテールで眼鏡をした人。大きめのT-シャツを着ており胸元がよく見えるが、それにオシャレな印象はあまり見受けられない。あくまでも部屋着といった印象を受ける格好をした人だ。
そんな彼女の名前は朝倉舞。IAMという名で活動している漫画家だ。それはもう人気で、書いた物は必ずSNSのトレンドに入って単行本化されると言われている。
「へぇ。凄いわね。私は今度ドラマのヒロインのメイクを担当することが決まったわ」
舞の話を聞いて、自身の決まった仕事を特に嬉しそうな様子を見せずに語る人。その人は長い茶髪ストレートにしており落ち着いたワンピースを着ているが、舞とは真逆でオシャレな印象を強く感じられる。
そんな彼女は田原くるみ。ミルクという名前でメイクアップアーティスト、所謂メイクさんをしている。彼女も人気で、世間で人気が出たドラマのメイクは必ず彼女が絡んでいるなんて噂もある。実際、そう言って良いほどの腕前と仕事の量があるぞ。
「……良いな。私、アメリカのソフトウェア会社が作ったVRゲームの案件しか来てない」
「「いや、充分良い仕事でしょ!!」」
不満そうに言って2人からツッコミを入れられる女性。青無い髪をツーサイドアップにしていて、その表情はどこか眠たそう。上に来ている服は寝間着っぽさもあるのだが見た目と相まって似合っている。が、残念ながらその下のズボンが究極にダサい。上半身だけ見ればオシャレだ。
そんな彼女は甲斐津久美。ツクツクという名前で配信者をしている。顔出しはしていないが、髪と上半身は写しているらしい。その上半身の2つの膨らみで登録者を掴んでいるのだとか。勿論彼女も人気があり、配信の同接は常に1万人を超えるとか。最近はTVのCMにもチラホラと出たりとかするぞ。
「皆さんお仕事が順調なようで羨ましいですね。……はい。できましたよ」
「「「ありがと~」」」
そんな3人の前に食事を並べる俺、深川正幸。俺の二面性は、この3人には知られている。
……だが、知られているのはそこまでだ。あくまでも性格や一人称だけ。3人には、そこから先は絶対に知られてはいけない。俺が、趣味の活動で3人と関わっているなんて。