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第6話


「俺が竜帝になったら、お前を妃に迎えてやってもいいんだからな!」


 別れ際、必死な顔でそう言ってくれた彼にびっくりして、でも嬉しくて。


「あはは~。それまでリュー皇子が私のことを覚えていたら良いですよ~」


 そう笑いながら答えると、彼はその金の瞳を大きくし更に顔を紅潮させた。


「本当か!?」

「はい」

「約束だからな!」

「はい。だからリュー皇子、お父さんみたいな立派な竜帝陛下になってくださいね」


 私がそう言うと、彼は任せろというふうに胸を張って見せたのだ。

 その姿が本当に可愛くて可愛くて……。



「コハル」



 ――え?


 いつの間にか、竜を思わせる金の瞳がすぐ傍にあった。

 可愛かった少年は、色気ダダ漏れの男の人に変わっていて。



「もっと、コハルのことを深く知りたい」



「~~~~っ!?」


 自分でもよくわからない悲鳴を上げながら私は飛び起きた。

 はぁはぁと肩を上下させながら、起き掛けで混乱した頭を必死に巡らせていく。


(ゆ、夢……? え、どこまでが夢……?)


 あの異世界にもう一度召喚されて、成長したリュー皇子にいきなり求婚されて、会社をクビになって、合コンで悪酔いして、なぜかリュー皇子がこちらの世界に現れて……。

 そこまで記憶を辿って、でもそこで今寝ているベッドが自分のものでないことに気付いた。

 顔を上げ周囲を見回すと、そこは狭いワンルームではなく、だだっ広く眩しい豪華絢爛な部屋で。

 大きな掃き出し窓に取り付けられたレースカーテンがふわりと揺れる度、なんとも良い花の香りが入ってくる。


「ここって……」

「あぁーー! コハルさま~お目覚めですか~~!?」

「メリー!?」


 その大きな窓からカーテンを押しのけるようにして中に入ってきたのは、もこもこの妖精メリーだった。

 メリーはそのまま私の胸にぼすんっと飛び込んできた。


「良かったです~! お身体はもう平気ですか? もう一度癒してさしあげますか?」

「え、えっと」


 今いち状況が掴めなかったけれど、とりあえずここがティーアの城であることはわかった。

 もう一度、ということは一度メリーが私に癒しの魔法をかけてくれたということだ。

 確かに昨夜あんなに呑んだのに頭もすっきりしているし胃も全然もたれていない。


(昨夜……?)


 そういえば、ここと日本とでは時差があったはずだ。


「え、私どのくらい寝てたの?」

「コハルさまがこちらに戻って来られたのが今朝で、今は昼過ぎです~」


 それを聞いて少しほっとする。思ったほど長くは寝ていなかったようだ。

 ベッド脇の椅子に私のトートバッグが置かれていて、でも会社から持ち帰ってきた荷物を駅のロッカーに預けたままなことを思い出す。


(追加料金、確実……)


 と、そのときトントンとノックの音が聞こえた。


「あ、はい」

「コハル、良かった。目が覚めたのね」

「ティーア」


 入ってきたのはほっとしたような表情を浮かべたティーアだった。


「ごめんね、なんか迷惑かけちゃって」

「いいえ、気分はどう? 今水を……」


 すると部屋に入ってきたメイドさんが水を持ってきてくれた。

 有難く受け取って、すぐに飲み干す。

 冷たい水が胃に落ちていくのがわかった。

 はぁと息を吐いて、私はお礼を言う。


「ありがとう。それで、えっと、今ってどういう状況? ……あの彼は?」


 訊くと、ティーアは苦笑しながら説明してくれた。


「今朝、コハルを召喚しようとしたんだけど、魔法石の反応がなくて」

「あ……そう、実は色々あって、あの魔法石壊れちゃって……」

「そうだったのね。私はコハルが召喚を拒否したのだと思って、仕方ない、そう思っていたら彼が現れてね……」


 彼は自分の膨大な魔力を使い、自ら私の世界に飛び、そして私を連れてこちらに戻ってきたのだそう。

 皆、彼の規格外の魔力に驚いたそうだ。


「でもコハルは抱えられているし、泣いているし、そのまま気を失ってしまったでしょう?」

「うっ」


 小さく呻く。

 ……やっぱりあれは夢ではなかったのだ。

 ティーアや皆の前であんな醜態を晒してしまった。

 何より彼に対し、酔いに任せて失礼なことをたくさん言ってしまった気がする。


「彼に、一体何をされたの?」

「え?」


 ティーアが少し怒ったような真剣な顔をしていた。


「もし、彼に無理やりこちらに連れてこられたのだとしたら、私はコハルの友人として彼を許さないわ」

「メリーもです! あんな竜人族に無遠慮に触れられてさぞ気分が悪かったでしょう! お察しいたします~~」

「あ、えっと……それで、彼は今どこに?」

「別の部屋で待機してもらっているわ。この部屋でコハルが起きるのを待っていると言っていたけれど、コハルから話を聞くまではと思って」

「それで! 一体なにがあったのですか!? 話によってはメリーがあいつをぶっ倒してやります!」


 ふたりにじっと見つめられ、彼の名誉のためにも私は自分の恥を晒すことにした。


「――だからね、彼は何も悪くないの。むしろ彼が来てくれて助かったというか……結局は全部自分が悪いの」

「大変だったのね、コハル……理不尽過ぎるわ」

「コハルさまは何も悪くないです~~メリーは今すぐコハルさまの世界に飛んで、そのカチョーとかいうクズをぐっちゃぐちゃに捻りつぶしてやりたいです~~」


 そんな私の話を、ふたりは呆れるどころか涙ながらに聞いてくれて(メリーの発言はちょっと怖いけれど)私までまた涙が出そうになってしまった。

 それだけで、これまでの頑張りが報われた気がした。


「ありがとう、ふたりとも」

「――で、俺への疑いは無事晴れたようだな」

「!?」


 ノックもせずに部屋に入ってきたのは、リュー皇子、いや、リュークレウス竜帝陛下だった。

 彼に見せてしまった自分の醜態を思い出して一気に顔に熱が集まる。


「お前えぇ~! レディーの寝室にズカズカと入ってくんな~~!」


 憤慨したように私の腕から飛び立ったメリーが彼に突撃していく。

 が、彼はなんなくそれを避けこちらにやってくる。


「気分はどうだ、コハル」


 私は慌ててベッドを下り、頭を下げた。


「だ、大丈夫です。昨日は、や、今朝? は、本当にご迷惑をお掛けしました。助かりました」

「大丈夫ならいい。もう行くぞコハル。流石に待ちくたびれた」

「え……っ!?」


 顔を上げた瞬間、私は再び彼に抱き上げられた。

 間近で金の瞳に見下ろされ、どきりと胸が跳ねる。


「さっきも思ったが、お前軽すぎないか?」

「だから気安くコハルさまに触れるなぁ~~!」


 彼は再び突っ込んできたメリーを軽くかわすと、私を抱えたまま窓の方へと向かった。


「え、え?」


 私が困惑していると、彼はティーアたちの方を振り向き言った。


「式の日取りが決まったら連絡を寄越す。では、世話になったな」

「えっ、ちょっと待っ――」


 ティーアが焦った声を上げるのと同時、間近でバサリと妙な音が聞こえた。

 見れば、彼の背中にドラゴンを思わせる大きな黒い翼が生えていて――!?


「しっかり掴まっていろ、コハル」

「えっ!?」


 優しく言われて、私は慌てて目の前にある彼のシャツを強く掴んだ。

 開いていた窓からバルコニーに出た彼は、トンっと軽く足元を蹴った。


(――え?)


 バサリとまたあの音がして、気が付けば私たちは空に舞い上がっていた。


(うそおおおおおぉ~~!?)


 メリーのよくわからない絶叫が聞こえてきた気がしたけれど、私は落とされないよう無我夢中で彼の首にしがみついたのだった。



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