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第5話


「妻ぁ!?」

「てか、凄いイケメンなんだけど……!?」


 皆、突然に現れたその人を見てめちゃくちゃ驚いている。

 腕を掴まれた彼はすぐにその手を振り払い、でもその長身に気圧されたのか後退っていく。

 そんな中、なぜか後輩だけが少し怒ったような顔をしていて……。


「コハル、大丈夫か?」


 こちらを振り向いた彼を見上げ、私は首を傾げる。

 ……一週間前に会った、あの俺様イケメンに見える。

 あのときとは違い、シャツ一枚というラフな格好だけれど。


「リュー……?」


 でも、まさか。

 だって彼がここにいるはずがない。こちらに来られるはずがない。

 これは、また夢なのだろうか。


「あぁ。わざわざこちらまで迎えに来てやったんだ。さぁ行くぞ、コハル」

「行くって……?」


 私が夢心地で訊くと、彼は呆れたような溜息をひとつ吐いて腰を落とした。そして。


「……っ!?」


 ぐるんと視界が回ったと思ったら、私は彼に抱き上げられていた。

 後輩の友人か誰かの黄色い声が上がる。


「なんだってこんなに呑んだんだ。まったく」

「だって……」

「まぁいい。ワケは後で訊く」

「ていうか! 本当にあなた、佐久良先輩のダンナ……?」


 疑わし気な声は後輩のものだった。やはり彼女はなんだか酷く悔しそうな顔をしていて。

 私が違うと口を開くよりも早く、彼が答える。

 

「まぁ、式はこれからだがな。コハルは、俺の大切な女性ひとだ」

「……っ」

「では、妻が世話になったな」


 呆然としている皆を置いて、彼は私を抱えその場を後にした。




「ごめんなさい」

「何がだ」

「7年前、簡単に“良いですよ”なんて言って、ごめんなさい」


 彼の腕の中で、私は泣きながら謝っていた。

 一度零れてしまった涙は、決壊したみたいに止まらなかった。


「なぜ謝る」

「だって、私なんて要領は悪いし、会社はあっさりクビになっちゃうし、いつも真面目ちゃんで年上ぶっててウザいし、男慣れはしてないし、こんな私がリュー皇子のお妃なんて無理に決まってます……」

「よくわからないが、男慣れなんてしてなくていい」

「だから、もう私のことなんて放って、誰か他の、もっと皇子に相応しい人と結婚してください」

「お前ほど俺に相応しい女性は他にいないと思うが?」

「そんなこと絶対にないです……っ」


 みっともなくべそべそと泣きながら首を振る。

 今はそんな優しい言葉をかけないで欲しい。うっかり縋ってしまいそうになる。

 と、彼は短く息を吐いた。


「お前も酒が入るとこんなふうになるんだな」

「だから、こんな酒乱さっさと放って帰ってください」

「こんな可愛い一面を知れて、得をしたという意味なんだが?」

「はぁ?」


 ちゅっと、そのとき額にキスが降ってきてびっくりする。


「早く城に戻って、もっとコハルのことを深く知りたい」

「!」


 熱を帯びた金の瞳に見つめられ、不覚にもどきりと胸が跳ねた。


「――そ、そういうのやめてください!」


 焦り顔を覆って言う。

 それでなくも酔っていて赤い顔が、更に熱くなったからだ。


「リュー皇子はそんなんじゃないです」

「そんなん?」

「皇子は、すごく可愛かったんです!」

「可愛いって……」

「それが、なんでこんな俺様イケメンになっちゃったんですか!」

「……褒めているのか?」

「褒めてません! あの頃のリュー皇子はいきなりキスするような子じゃありませんでした!」

「それは……あの頃はまだガキだったからな。したくても出来なかったんだ」

「そういうこと言うのやめてください! 皇子はそんな子じゃないです!」

「いや、俺なんだがな……」


 すると、彼は困ったように眉を下げた。


「この7年間、これでもお前に相応しい男になれるようずっと努力してきたんだが……こんな俺ではダメか?」

「ぅぐ……っ」


 まただ。

 ズキューンとか、また胸が妙な音を立てた。


「だ、ダメとかじゃなくて……その、慣れるまで待って欲しいというか」

「俺はこの日を7年待っていたんだが」

「ぐっ……そ、それは……本当に申し訳ないというか、なんというか……」

「まぁ、とりあえずは着いたようだぞ」

「……へ?」


 涙で霞んだ視界に映ったのは、あの薄暗い石造りの部屋だった。

 ティーアと怪しいローブを纏った人たちが目を丸くして魔法陣の上に立つ私たちを見ていて、恥ずかしさと混乱で一気に限界を迎えた私はそこで意識を手放したのだった……。



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