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第2話


「――ちょ、ちょっと待ってください。申し訳ないんですけど、何かの間違いじゃ……?」


 私はそう言って、彼からじりじりと後退りをした。

 すると彼は更に不機嫌そうに、いや、少しふてくされたような顔をした。

 それを見て一瞬何かを思い出しかけて。


「約束したではないか。俺が竜帝になったら妃として迎えると」


 ――竜帝になったら、妃に迎える……?



『 俺が竜帝になったら、お前を妃に迎えてやってもいいんだからな! 』



 そのとき唐突に耳によみがえったのは、そんな少年の声。

 でもあれは。あの声の主は……。


「も、もしかして、リュー皇子!?」


 私がその名を口にした途端、彼は満足げに口の端を上げた。


 リュー皇子。私はそう呼んでいたけれど、確か正式な名はリュークレウス皇子……だったはず。

 彼はこの世界に君臨する5人の王の中の一人『竜帝』と呼ばれる王の息子だった。

 7年前、彼の父である竜帝は魔王に洗脳され操られていた。それを知った私たちは協力し合い共に戦い、そして見事彼の父と国を魔王の手から救い出したのだ。

 一気にそこまで思い出して。 


「いやいやいや、でもリュー皇子は……っ」


 口にしかけて危うく止める。


 7年前の皇子は、まだ私より小さくて見た目小学生。

 とにかく偉そうで口が悪くて我儘で、最初出逢ったときの印象は悪ガキ。でも実は寂しがり屋という可愛いところもあって。――そんな、所謂ツンデレ皇子だったのだ。

 それが、7年でこんなにふてぶてしそうなイケメンに成長するなんて……!


 そういえば彼ら一族は竜の血を引いているとか……成長速度が私たち人間とは少し違うのかもしれない。


「俺が、なんだ?」

「いえ、その……」


 私が口ごもっていると、ティーアが私の横に来て小声で言った。


「コハル、本当にそんな約束をしたの?」

「え?」

「彼の、妃になるって……」


 そう訊かれ、私は必死に思い出す。


 ……あのとき、私はなんて答えただろう。

 

 そう、あのとき。

 私が彼の国を去るときだ。別れ際に彼は恥ずかしそうに顔を赤らめ、でも必死な様子で私に告げたのだ。


「俺が竜帝になったら、お前を妃に迎えてやってもいいんだからな!」

「あはは~。それまでリュー皇子が私のことを覚えていたら良いですよ~」


 ――あ。


「コハル?」

「……良いって言った」


 ぼそっと答えると、ティーアが耳を寄せた。


「え?」

「良いですよって、言っちゃった」


 少しの間があって。


「はぁ~~」

「コハルさまぁ~」


 ティーアが顔を覆い大きな溜息を吐いた。

 腕の中のメリーもがっくりと脱力するのがわかった。


「いや、だって……」


(まさか、そんな本気だなんて思わなかったし!)


 不敵な笑みを浮かべている彼を見上げながらそう心の中で叫んでいると、ティーアは溜息交じりに言った。


「彼は貴女とそういう約束をしたから早急に召喚しろと、それで今回貴女を召喚したのよ。彼、つい先日正式に『竜帝』の名を継いだのですって」


 それで先ほどティーアはあんなに言いにくそうだったのかと納得する。

 リュー皇子、いや、リュークレウス竜帝陛下がふんと鼻を鳴らした。


「話はまとまったようだな。こちらはもうとっくにお前を迎える準備は出来ているのだ。さぁ、行くぞ。コハル」


 そう言って、もう一度手を差し伸べこちらに足を進めた彼から私はまた一歩後退る。


「あの……ちょっとお聞きしたいのですが」

「なんだ?」

「もし私があなたのお妃になったら、元の世界には」

「たまの里帰りは許可するぞ? 俺は心が広いからな!」


 得意げに笑う彼。

 でも私はそれを聞いて思い切って頭を下げた。


「ごめんなさい! とりあえず一旦帰してください、お願いします!」

「……なぜだ」


 案の定、頗る低い声が返ってきた。

 怖くて顔が上げられない。

 でも、こちらも絶対に引けない理由があるのだ。


「明日、仕事で大事な会議があるんです!」


 そのためにここ数日寝食を削り頑張ってきた。

 それに無断欠席なんてしたら皆に多大な迷惑が掛かってしまう。


「そ、そうですよ。一生の問題ですもの。コハルにも色々準備があるはずですわ!」


 ティーアが助け船を出してくれる。


「そうだそうだ! まったく、これだから竜人族は。コハルさまの気持ちも少しは考えろってんだ!」


 続けて私の腕からすぽんと飛び立ち、急に性格が変わったように口悪く言ったのはメリーだ。

 そういえばメリーは7年前も彼のことをあまり良く思っていなかった気がする。

 ひやりとするが、彼からの反応がない。


「……?」


 恐る恐る見上げると、彼はまたあのふてくされたような顔をしていて。


「……俺の元に来るのは、嫌か?」


 ――うぐっ!


 ズキューンと胸が妙な痛み方をした。

 急に、7年前のあの少年を彷彿とさせるいじらしい台詞を口にするのは反則ではないだろうか。


 ……だから、つい言ってしまったのだ。あの頃のように。

 

「い、嫌ってわけじゃ」

「なら、」

「で、でも! やっぱり色々と準備する時間は、欲しいっていうか……」


 しどろもどろにそう答えると、彼は渋々というように頷いた。


「わかった。ではもう少し待つとしよう。準備にはどのくらい必要だ?」

「えーと、一年とか?」

「あ?」

「い、いえ! えっと、半年……いや、一ヶげ……一週間!?」

「わかった。では一週間後、また再びここに迎えに来よう」


 とりあえず明日の会議には出席できそうだとホっと胸を撫でおろしていると。


「コハル」


 急に距離を詰めてきた彼は、私の頬に優しく手を触れた。

 間近に迫ったその金の瞳は宝石のように綺麗で――。


(――え?)


 気付けば、私の唇に彼のそれが重なっていた。


「あぁーーっ!」


 メリーの甲高い怒声が響く中、ちゅっと軽い音を立てて彼は私から離れた。

 そうして極上の笑みを称え、言った。


「今日は久しぶりに逢えて嬉しかったぞ、コハル。――では、またな」


 くるりと背を向け、そして彼は来た時と同じように颯爽とこの部屋から出て行ってしまった。

 残された私はしばらく呆然としてから、ゆっくりとソファに腰を下ろす。


「……コハル、大丈夫?」

「ほんっとに、これだから竜人族はっ!」


 ティーアの心配そうな声と、メリーの憤慨したような声が聞こえる。


 ――ど、どうしよう……。


 全身が熱くて、頭が混乱して、そういえばこれが私のファーストキスだとか気付いてしまって、私はしばらくそのまま動くことが出来なかった。



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