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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
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魂の狭間 夢の中

 エンジが気がつくと、そこは雲一つない透き通った青空に星がいくつも(きら)めき、大地は地平線の果てまで何もない平らな草原が続く、よく見通せる場所だった。


 目の前には真っ白な円卓と人の座っていない背もたれの長い豪奢な椅子があり、他には三人の人影があった。


 一人は古ぼけた木製の椅子に座った180cm位の大男で、歳は三十代後半、体は鎧のような筋肉で覆われ、髪は黒の短髪、顔には幾つかの古傷がある。

 その厳つい顔に反して表情は優しげでにこやかにテーブルに肘を付きながらエンジをみていた。


 二人目は、座面と背もたれが赤いビロード張りの金色の椅子に座った150cm位の中性的な雰囲気の女子で、歳は十六歳程。

 髪は青色のショート、気だるげな金色の目をした、少し疲れた表情の美人が、きらびやかなロングドレスを身に纏ってテーブルの上のお茶を飲んでいる。


 最後の一人は、背もたれのない緑の水晶のようなものでできている丸椅子に座っていた。

 その人物は身長160cmくらいの人型でローブを羽織り、そこからチラリと見える肌は固そうな甲殻に覆われ、頭はカマキリに似ている性別のわからない蟲人(むしびと)で、背中には虹色の蝶の様な羽を背負っており、傍らには身長より大きな木製の杖を携えていた。


 そんな三人を前にしてエンジは動揺することもなく目の前の席に座ると、大男が話しかけてきた。


「今日は悪かったなオレ、俺達を代表して謝るぜ」

「いい、気にしてない」

「そうか! わかってたけど良かったぜ!」


 謝罪した大男にエンジが答えると、それを聞いた大男がガハハと笑い出す。

 そんな彼をじっとりとした目で見た女子が続ける。


「僕達も浄化に処理能力を割いております(ゆえ)、予想外に力が活性化しますと対処が出来ませんの」


 そう言って彼女はふうと疲れた顔でため息をく。

 エンジはコクコクと頷いた。

 カマキリ頭の蟲人はゆっくりと羽を動かしながらキーキーと声を発し、同時に頭に直接響くテレパシーで伝える。


『愛梨亜達が力をくれたお陰で処理に余裕ができて対処できたわい。目覚めたなら三人に儂らが感謝しておったと伝えてくれぬか、ワシよ』

「いい、伝えておく」


 頭に響く声は耳から聞こえる高い音とは違い、渋くしわがれた老人の声であった。

 エンジが良いと言うと、カマキリに似た顔の表情は全く変わらないが全身から嬉しそうな雰囲気が溢れ出す。


「他の僕達は今は浄化に集中しております故、此方には来られませんが、皆ボクを心配しておりましてよ」

「そうなの?」

「そうさ! いつも言ってるが、俺達はあくまでオレの転生する前の記憶でしかないからな。もう苦痛は感じないが、主体のオレは苦痛を感じるだろ?」

「うん」

『儂らも皆、生きている時にはその苦痛を感じとったからの。今のその華奢な体で耐えられるのかと、いつも心配なのじゃよ』

「それに今の体は僕達の体のときよりも影響が色濃く出ております(ゆえ)、僕達より不自由なのは不憫なのでしてよ」


 三人は憂いた顔でエンジを見た。そんな彼らにエンジは微笑んで言う。


「問題、色々ある」

「そうですわよね……」

「でも、皆が心配してくれる」

『それはのう……しかし……』

「愛梨亜達も家族も皆、優しい」

「そうだな!」

「だから今、幸せ」


 そう言って嬉しそうな雰囲気のエンジに、彼らも万感の想いを乗せて、そうかと言った。


「それならいいんだ! そろそろ時間だな」

「今日は僕達だけでしたが、今度は余裕も出来ますでしょうから、他の僕達も来ることが出来ますでしょう」

「楽しみ」

『そうじゃのう、儂らも皆いまのワシと話すのが楽しみじゃて』

「うん」



 大男がこの時間の終わりに気付き、女子と蟲人は次回への期待を口にするとエンジの意識は徐々に薄くなっていく。


『またのう、ワシよ。一人ではどうにもならなくなった時は、儂らを頼るのじゃそ』

「ごきげんよう、ボク。僕達はボクをいつも見守っていますわ」

「じゃあ、またなオレ!」

「…………また……ね……」


 彼らが口々に笑顔で別れを告げ、エンジも目を擦りなが挨拶をすると彼女の意識は完全に無くなり、彼女はその場から姿を消したのだった。




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