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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
8/62

八巻賢壱 2

 授業は所々わからない内容もあったが、異世界で得た記憶力を上げる能力で教科書を丸暗記したおかげで、概ね問題なく理解することができた。

 なんとかやっていけそうだとほっとしていると、昼休みになる。

 すると陸井さんが話しかけてきた。


「八巻君は今日は購買ですか? 行くなら案内しますけど」

「本当? じゃあ案内してもらっていいかな?」

「ええ、構いませんよ」

「ありがとう。助かります」


 陸井さんが購買へ案内してくれるようだ。購買の場所はまだわからないので一緒に行くことにする。

 一緒に教室を出ると廊下は生徒で賑わっている。


「では、行きましょうか。購買はこっちです」


 そう言って先を歩き出す陸井さんの隣に並び歩き出す。


 こうして歩きながら彼女の横顔を見るが、見れば見るほど美少女だな。普通に緊張してきた。

 よく考えれば、俺は女子とあまり話したことがない。こんなときはどうすればいいんだ?



「どこか気になることがありましたか?」

「いや、大丈夫だよ。なんでもないです」

「そうですか?」



 マズい、考え事してて陸井さんをずっと見てしまっていたみたいだ。



 声をかけられハッとした俺は、慌ててなんでもないと返す。

 彼女はクスリと笑いそのまま続ける。


「八巻さんの食べ物の好物はなんですか?」

「俺の好物はハンバーグですかね。陸井さんは?」

「わたしは今は時期ではないんですけど、お鍋が好きですね」


 そうやって和やかに雑談をしながら歩いていると、そこそこ大きい売店が見えてきた。


「ここが購買です。ここで買うものを選んで、あちらにいる店員さんに頼めば買うことができます。わたしは決まっていますから先に買いますけど、八巻さんはゆっくり選んでかまいませんよ」


 そう言って彼女は店員に注文しに行く。

 この学校には学食とこの購買があるらしく、殆どの学生は学食に行くせいで購買は混んでいない。

 おかげで余裕をもって買うものを選べる。

 さて、何にしようか。しばらく考えて、無難におにぎりとお茶を買うことにした。

 買ってから辺りを見回して陸井さんを探すと、少し離れた所に大きな袋を持った彼女が待っていた。


「無事に買えましたか?」

「買えましたよ。ほらこれ」

「良かったです。では、戻りましょうか」


 俺が買ったものを見せると、彼女は微笑んで帰り道を一緒に歩き出す。

 クラスに着くと、海野さんと空見さんが話をしながら待っていた。


「買ってきましたよ。はい、これが愛梨亜でこれが有夏、こっちがエンジのですよ」


 そう言って陸井さんは海野さんと空見さんの前に買ってきた物を並べていくが、空見さんの前に置かれる量が明らかに海野さんの数倍はある。

 いくらなんでも多すぎないか? そう思い陸井さんに聞く。


「何か量、多くないですか?」





 陸井さんが答えようと口を開こうとすると、空見さんの方から二人のどちらとも違う声がした。





「いつもどおり。あと、慈円寺エンジ」




 空見さんの方を見ると彼女の膝の上に座った、小学生くらいの身長の髪が真ん中で白と黒に別れ、右目に眼帯をして、右腕をアームホルダーで吊り、そこに目をつぶった赤いクマの人形を乗せた少女が自己紹介をして来た。


「えっ? えっと、八巻賢壱です。よ、よろしくお願いします」


 とりあえず取り繕うように挨拶をするが、俺はひどく混乱していた。



 いったい何時からそこにいたんだ!? 

 なぜ気付かなかった、こんなに目立つ存在に! 

 おかしい。何なんだコイツは!?

 それにこのクマ、この気配はまるで″アレ″じゃないか! 




 まさかあの違和感の正体は……




「こういう子だから気にしないで頂戴、昔に色々あって食事量が多くないと体調を維持出来ないのよ」

「あっ、はい、そ、そうなんですか。わかりました」




 ……そうか、慈円寺さんも大変なんだな。

 とても同い年には見えないし、よく食べて大きくなってほしい。

 そう思いながら慈円寺さんを見ると、モグモグ言いながら口いっぱいにコロッケパンを頬張っていた。



 今日の授業も終わり、帰る支度をしていると空見さんの声がしてきた。


「じゃあ私とエンジは委員会に行ってくるわ。さあ、エンジ起きて、委員会に行くわよ」


 声がした方を見ると寝ている慈円寺さんの肩を空見さんが揺すっているところだった。

 よく寝ているようでなかなか起きる気配がしない。

 少しのあいだ揺すぶられていた慈円寺さんがようやく頭を上げたけど、あれは寝ぼけているな。

 クマの人形も体に挟まれていたようで少し頭がへこんでる。


「このまま行ってくるわ。終わったら連絡するから、二人は好きにしながら待っていて」

「まってて~」


 業を煮やしたのか空見さんが慈円寺さんを抱えた。


 しかし、こうやって見ると本当に慈円寺さんが高校生なのか疑問だ。

 若い母親とその子供にしか見えない。これで四人とも同い年の幼馴染みだって言うんだから不思議だ。

 もしかして彼女は異世界にいた小人族なんじゃないか?


 そんな益体もない事を考えていると、空見さんと慈円寺さんは教室を出て行った。


「さて。じゃあ、あたしらはここで待ってますかね。それでいいでしょ?」

「そうですね。帰りにスーパーで何を買って帰るかでも決めましょう」


 海野さんと陸井さんはここに残るみたいだ。

 今日二人にはお世話になったし、あいさつしてから帰ろう。


「海野さん、陸井さん、今日はありがとうございました。お陰で助かりました」

「いいよ、気にしないで。お隣さんなんだし助け合い精神ってやつだよ」

「そうですよ。今後も何か困った事があったら聞いて下さい」

「ありがとう、そのときはそうさせてもらいます」


 彼女達にお礼を言うと笑顔で優しい言葉をかけてくれる。

 こっちに帰ってきてから人の優しさが心に染みると同時に、そうしてもらっても人を信じきれない自分が嫌になる。


「じゃあ俺はもう帰るので、あのお二人にもよろしくお願いします」

「わかりました。さようなら」

「じゃあねー、また来週」

「はい。お二人ともさようなら。また来週」


 気が滅入ってくるが、それを表に出さないようにして挨拶をする。

 こんな時はさっさと帰るに限る。幸い、明日からは休みだ、気分も入れ替わるだろう。

 そうして、俺は学校を出て家に帰った。


「ただいま」


 そう言って、家に帰ると両親は仕事でまだ帰ってきていない。中学二年生の妹は部活で校庭を元気に走り回ってる頃だろう。


「あぁ~疲れたなぁ」


 自分の部屋のベッドに横になって唸る。

 本当に疲れた。四年ぶりの学校はそれだけ緊張したってことかな。


 ……本当にそうか? 

 何かおかしい気がする。

 考えろ、こういうとき俺はいつもどうしてた?

 そうだ、まずは魔法を使って自分の体をチェックして異常がないか調べて……異常無しか。

 次は能力で記憶をチェックと……

 なんだ? なんで昼休み慈円寺さんと自己紹介した記憶は問題ないはずなのに、こんなに違和感があるんだ?


 何かがおかしいと思った俺は、休日の二日かけてこの違和感の原因を探し、そして昼休みの本当の出来事を思い出して恐怖した。



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