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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
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八巻賢壱 1


 俺、八巻賢壱(やまきけんいち)は、入学してから数ヶ月、自分の時間感覚では四年ぶりとなる学校生活を再開するための手続きをするために、自宅から紫檀(したん)高校へと向かってる。

 電車に乗り外の建物が立ち並ぶ景色を眺めてると、今まで忙しくて感じる暇がなかった、帰って来たという実感がやっと沸いてきた。


「懐かしいな」


 思わず口に出して呟いてしまったけど、体に染みついてしまったこの癖は早く直さないといけないな。

 なぜ現実と自分の時間感覚がこんなにもずれているのかと言えば、簡単に言えば異世界に行っていてこの世界では行方不明だったからだ。


 数ヶ月前、高校の入学式が終わった後、帰り道を歩いていると、突然自分の足元に大穴が空いて俺はその穴に落ちた。長いあいだ真っ暗な穴に落ち続けて気を失った俺は、目を覚ますと遺跡のような場所にいた。

 誰か居ないかとビビりながら辺りを調べるも、誰も居なかったあの絶望感は忘れようとしても忘れられない。


 そうして始まった異世界生活も数々のトラウマを植え付けられつつ、紆余曲折を経て得た魔法や能力を駆使して乗りきり、四年かけて晴れて元の世界に帰還できたのが先々週のこと。

 そこから俺がいなくなってから数ヶ月しか経っていないのに驚いたり、家族やら警察やら色々なところに迷惑をかけてお世話になり、やっと今日学校へと復帰できるんだ。

 異世界で色々あったせいで若干人間不信になっている自覚があるので、ここはもう異世界じゃないんだと自分に言い聞かせ治していこう。

 そして学校生活を楽しもうと思う。


「次は紫檀、紫檀です。お降りの際は……」

「おっと、もう着いたのか」


 今までのことを思い返していたら気づけば降りる駅に着いていた。

 そして、学校に着くと事前に聞いていた通り職員室へと向かった。

 職員室に入り直ぐ近くにいた先生に、事前に聞いていた自分の担任の名前を言ってどこにいるかを聞いて、聞いた先にいた先生に話しかけた。


「すみません、赤街先生ですよね? 今いいですか?」

「おっと。そうだけど、どうした?」


 何かの書類に集中していた様子の先生に話しかけると、驚いたようにこっちに振り向いて聞いてくる。


「八巻賢壱です、今日復学の。えっと、来たら赤街先生の所へ行くよ……」

「ああ! 君がそうか、八巻か! はじめまして、待ってたよ。早速で悪いんだが、この書類を読んで必要なところ書いてくれないか?」


 赤街先生に自己紹介すると、先生はテンション高く食い気味に勢いよく話しかけてきた。

 その勢いに押されつつ書類を受けとり読むと、内容は復学についての諸々だ。


「ここじゃ書きづらいだろう? こっちに部屋があるから着いてきてくれ」


 書類を読んでいると先生は俺に着いてくるように言って席を立った。

 二人で職員室の向かいの部屋に行くと、そこに座ってと言われソファーへと座った。


「ここで書いてくれればいいから」

「わかりました」

「あと、悪いんだがこれからホームルームがあるんだ。すぐ終わるし、色々な説明はそれが終わってからするから、ここで待っててもらえるか?」

「はい、大丈夫です」


 悪いなと言って先生は部屋を出ていき、俺一人が残された。

 若干不安だ。そうは言っても仕方ないので書類を読み書いていく。

 すると、しばらくして先生は戻って来た。


「すまん待たせたな。大丈夫だったか?」

「はい、特になにも無かったです」

「そうか、じゃあ早速だが復学についての確認をするな。この書類に書いてあるように……」


 先生の説明が始まり俺は真剣に聞いていく。   

 いくつか質問をして説明は終わり、授業への復帰は二限目からということで少し時間が余った俺たちは雑談をしていた。


「何があったのか聞かないけど、これからしばらくは復学ってことで色々目立つだろうから、何かあったら気軽に相談してくれよ?」

「わかりました。その時はお願いします」

「おお。すぐに俺に相談できなくても他の先生に言っといてくれれば聞くから。あとは、わかんないことは教室で隣の席になる海野と陸井に頼んであるから聞いてくれ」

「えっと、海野さんと陸井さんですか?」

「そうそう。まあ、二人とも女子だし初対面で難しいかもしれないが、二人とも人当たりはいいから頑張ってみてくれ。そろそろ時間だから行こうか」


 そう言って先生は戸惑う俺をつれて教室へと向かった。



 先生と一緒に教室への廊下を歩きながら校舎内を見ていると、多くの生徒が急いで教室移動していたり、楽しそうに話していたりするのが目に入る。

 あの時穴に落ちなきゃ、ああやって友達も出来て楽しく過ごせていたのかと思うと寂しい気持ちになるが、もうあの殺伐とした異世界じゃないんだし、これから頑張れば取り戻せるさと一人気合いを入れていく。

 そうして多くの教室の前を通りすぎ、表札に1-6と書かれた教室の前に着いた。


「ここが八巻のクラスの一年六組だ。大丈夫そうか?」

「はい。覚えました」

「よし。じゃあ今から紹介するから一緒に入ってきてくれ」


 先生がドアを開けて入っていくのに続いて俺も教室に入る。



 ……何だ? 何か違和感がする。



「おーい、注目! 彼が今朝言った復学してきた八巻だ。じゃあ自己紹介して」


 先生がクラス中の注目を集めて俺にそう促した。

 俺は今はもう感じないさっきの一瞬の違和感に警戒しつつ、冷静になれと内心で言い聞かせて一歩前に踏み出す。


「はい。今日から復学しました八巻賢壱です。よろしく」


 普通の自己紹介なんて久しぶりだからわからないけど、こんなで良かったか? なんて思っていると。


「はい、というわけでこれから同じクラスの一員だから仲良くするようにな。八巻、席は後ろのあそこの席だから、困った事があれば隣の海野とその前の陸井に聞けばいいぞ。面倒見るように頼んであるからな」


 特に何か言われるでもなく話が進む。問題なかったようだ。

 そうして、先生は俺の席を指差してさっき聞いた二人の名前を言ったので、そこを見たら二人の女子が座っている。

 あの人たちにわからない事は聞けば良いのか。

 そうして席に向かって行くのだけど、二人はその隣のもう一人の女子と何かを喋っていた。

 席に着き、三人が何を話していたかは気になるけど、気にしないようにして話しかける。


「初めまして、八巻です。海野さんでよかったですか?」

「そうだよ! 初めまして、あたしが海野有夏(うみのありか)だよ。で、こっちが陸井杏里沙(りくいありさ)

「初めまして陸井杏里沙です。困ったことがあれば何でも聞いて下さい」


 一息ついてから隣の女子に挨拶をする。

 彼女は笑顔で自己紹介をしてきて、前の席に座っている女子のことも紹介してくれる。

 どうやって話しかけようかと思っていたのでありがたい。


 少し話をした感じ、どうやら海野さんは元気なキャラで、陸井さんはしっかりとした性格のようだ。

 二人ともとても仲が良さそうに見えるし、よく見ると奥の女子も含めて三人はとてもよく似ている。

 体格も顔立ちもほぼ一緒の美少女で、違うところは髪の色と声くらいじゃないかと思う。

 三つ子だろうか? けど名字は違うからよく似てる親戚? もしかして感じた違和感はこれか? そう疑問に思いながら二人に学校についての質問をして、説明を聞いていく。

 二人の説明はとても分かりやすく、細かいルールやちょっとした学校の噂まで教えてくれた。

 そうして海野さんが、もう聞きたいことはない? と聞いてきたので思いきって聞いてみることにした。


「あの、初対面でこんなこと聞いていいのかわからないんですけど」

「ん? いいよ、何でも聞いてみ?」

「ありがとうございます。じゃあ聞くんですけど、二人と奥の(かた)の三人は凄くよく外見が似てますけど親戚なんですか?」

「あぁ~やっぱりそれ気になるよね」

「いえ、良く聞かれるんですけど、似ているだけで親戚ではないんですよ」

「そう、愛梨亜(ありあ)も杏里沙も小さい頃からの幼馴染ってだけで、血は繋がってないんだ」


 それを聞いて俺は困惑した。

 なんだって? 血縁ですらない? そんなことありえるのか? やはりさっきの違和感はここか? 何か裏があるんじゃ……等と俺の中で様々な疑問が飛び交う。


「愛梨亜? さんも含めて、そんなに瓜二つなのに血縁じゃないんですか? 凄い珍しいですね。初めて見ました」

「そうなんだよ。最初に会った時あたしも驚いたわ。自分が三人いるって」

「わたしもそうでしたね。愛梨亜はどうですか?」

「私も驚いたわ。でも、驚いたお陰で仲良くなれたから良かったわ」

「そうなんですか。あと、初めまして八巻です」

「初めまして、空見愛梨亜(そらみありあ)です。どうぞよろしく」


 二人は笑いながらあっけらかんとしてそう答えていく。

 陸井さんがその流れで奥の女子に話を振り、その女子も随分とあっさりとした回答をする。それを聞いて、ついでなので挨拶を交わす。

 混乱はしたが三人があまりにも当然の事のように話すので、そういうこともあるのかと思うようになった。

 そして、いつしか俺は違和感を感じていたことも忘れていた。




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