四日堂にて 2
柊達三人がため息をついているとエンジを寝かせ終えた愛梨亜が降りて来る。彼女はそのまま店へと入ると杏里沙と話していた時蔵に軽く声をかけてから、三人して気分がくさくさしている柊達のテーブルに行き話しかけた。
「三人ともなにそんな顔してるのかしら? そんなしょぼくれた顔をしていると幸せが逃げるわよ?」
「愛梨亜……いや、この世は不条理だって感じてたとこだ」
「貴女ねえ……。その不条理相手の仕事をしているのに何を言っているのかしら」
「お前、もうちょいこっちを慮ったりしないわけ? ……まあその通りだからいいけどよ」
気弱なことをいう柊を愛梨亜は呆れた表情と共に鼻で笑う。その少々傲慢な態度に柊もまた呆れた様子を見せた。
しかし、決して間違った事を言っている訳ではないので、愛梨亜にやんわりとした不満を表明するに留まる。
つまるところ、これは友人同士のちょっとしたじゃれ合いであった。
そうやってジャブを打ち合い一段落したところで愛梨亜は依頼について尋ねる。
「それで今、絶賛後始末を頑張っている有夏から大まかな話は聞いているのだけれど、実際の所はどうだったのかしら?」
「やっぱここに有夏が居ないのはそういうことか」
「ええ。流石にこのまま放置はできないと言っていたわ」
柊と愛梨亜が話していると、杏里沙とカウンター席でそれを聞いていた時蔵が会話に入ってくる。
「有夏の姐さんがやらなくても、ウチの者がやりやすのに」
「情報収集も兼ねているから、逆に有夏でないと困るのよ。それに私もここで詳しく事情を聞いた後に応援に行くわ」
愛梨亜が時蔵の座っているカウンターの方を向いてそう言うと、それまで黙って会話を聞いていた梓が不安げに言った。
「やっぱりそんなに危険だったんですね」
「有夏の話を聞くに、妖精の方は危険というよりも面倒と言った所かしらね」
「面倒って?」
「後始末の事よ。戦闘に関してはまあ、大したことはないわ。この国の辺りには居ないからあなた達は詳しくないでしょうけど、妖精というのは基本的にちゃらんぽらんで何をされても遊びと勘違いするの。けれども一度怒らせると自然環境を揺るがすのよ」
「妖精は自然を司っているんですか?」
「いいえ、それは精霊の方。妖精はただ力が強くて似た存在なだけ。けれども妖精が怒って環境を滅茶苦茶にすると、連動して荒らされた地域を管理している精霊もキレるわ」
「うわっ、マジかよ。精霊ってこっちで言うところの土地神に当たんのか。妖精に加えてそれまでキレるって……ヤバいな」
愛梨亜は二人の質問に答える形で次々と知らない情報を開示していく。
柊と梓は祓い屋でも有力な五塔杢家の娘とはいえ、国内は兎も角として国外のそういった事情を把握する前に当主夫妻が隠棲せざる負えなくなり、二人は突貫仕上げの当主代理と補佐として忙しくなった。
その為に西洋の術はもちろんの事、向こうの神霊や妖精、精霊などの知識を知る機会にも乏しく、愛梨亜からもたらされた初耳の情報に驚きの声をあげる事になったのだった。
「今回は幸いにも怒っていないようだけれどね。妖精というのは素の状態でも加減がわからないのに、色々弄られていたのなら余計アクセルを踏んで遊んでいたんでしょう。まあ、弄られた復讐なんて考えるような真面目な存在ではないから、そこは気にしなくていいわ」
柊の驚きの声を受け愛梨亜が更に補足を入れる。復讐はないと断言する彼女の言を聞いた柊と梓は、脳裏に妖精が消える際の事を思い返し、確かにそうかもしれないと思う。
ひとまず愛梨亜による妖精の解説が終わった所で、黙って聞いていた八巻が疑問を投げ掛けた。
「じゃあ、あのキャビネットの中身の方はどうなの? って言うか、先ずどんな人形なんだろ?」
「そっちの方はあまり聞いていないわ。二人とも説明して貰えるかしら?」
「ああ、アタシらもそこまで詳しくはわかんねぇんだけどよ――」
そうして柊と梓は杏里沙の料理が出されるまでの間、依頼の説明を受けた所から妖精を撃退するまでの一連の状況を自身が理解出来ている限り全て伝えたのだった。
「う~ん。こんなもんでいいかな」
「お疲れさま、有夏」
「ありがと愛梨亜」
夜中の音橋港の倉庫街。一時は怪物と化した妖精と星使いの戦闘で荒廃したそこも、今は綺麗に直され元の様子を取り戻していた。
その作業を一人でこなした有夏が背筋をパキポキと鳴らして伸ばしながら呟いていると、五塔杢の二人から事情聴取を終えた愛梨亜がやってきて飲み物の缶を渡す。それに礼を言って受け取り、飲み始めた有夏に彼女が尋ねた。
「何か掴めたのかしら?」
「まあね。帰ってったのは西洋圏、でも弄ったのは向こうの奴じゃなさそう」
「この国の術師なのかしら?」
「わかんない。痕跡は丁寧に消されてたし。そもそもさ、妖精を改造する目的がよく分かんないよね」
「そうね、妖精は研究しても得られる物もないのよね」
「精霊が使う端末みたいな子たちだしねぇ。強いて言うなら価値があるのは端末の操作法くらい? う~ん、でもな~」
聞かれた有夏が自身の所感を答えて、それを元に二人で下手人の推理をする。しかし少ない痕跡からそこへたどり着くのは難しい。
有夏は顎に手を当てて、首を捻りながら考え込んだ。
実のところ愛梨亜が柊たちにした妖精の説明は、表向きとして出回っている情報であり、神霊たちの認識では妖精とは精霊が扱うラジコン以外の何者でもない。
では、何故その事実を公にしないのかと言えば、精霊たちのストレスが溜まって暴れたい時に自身の評判を傷つけること無く暴れる為だったりする。神霊たちも皆、似たり寄ったりな手段でストレス解消をしていたりするので、誰も妖精の事実について漏らすことはなく、そのため表向きの説明が世間に定着した。
このことを知っていた愛梨亜たちも当然それを漏らさず、四日堂で柊たちにカバーストーリーを話す事となったのだ。
そんな愛梨亜がうんうんと考え込んでいる有夏を眺めつつ、内心で妖精について説明の面倒臭さに思いを馳せていると、ふと思い浮かぶことがあった。
「ねえ、妖精は相当改造されていたんでしょう? なら、やりそうなヤツに心当たりはあるわ」
「あー、あたしも今思い付いた。多分同じヤツでしょ」
「長老衆に一人、人形使いがいたわね」
「名前なんつったっけアイツ」
「あ……あま……。なんだったかしら? 天までは覚えているのだけど」
「あたしは忘れた。まあ、多分ソイツじゃない? きっと面白半分で改造したんだ」
「この国の周辺でそんな事出来る者は、そこそこの人数が居るけれど、実行に移す者はアレぐらいだろうから決まりでしょうね。ちょうど長老衆も戻って来ているようだし」
愛梨亜も有夏も犯人に心当たりがあれども、正確な名前を覚えていなかった。しかし共通の認識を得たことで、一旦それ以上の推理を止める。
二人は顔を見合わせると、同時に深くため息を吐いて家路につく。
「面倒だね。あたしらで探すにしても手が足りないし」
「いっそのこと、燕おば様にお願いしようかしら」
「いいんじゃない? ちょうど娘として打ち解けたし、おねだりしてみる?」
歩き出すと直ぐに、頭の後ろで両手を組んだ有夏が少し困ったように呟いた。隣を歩く愛梨亜がそれを聞いて投げやりに言うと、すかさず食いついた有夏が彼女の顔を覗き込み、からかい交じりに提案する。すると愛梨亜は少し顔を赤くして、そっぽを向きながら言った。
「……まあ、柊たちのことが終わったら杏里沙とも話して考えましょ」
「……そだね。あー、エンジ明日起きれるかなぁ~」
照れながらそう言った愛梨亜に対し、同じく提案しておきながら恥ずかしくなった有夏は、深く踏み込まずに流し、エンジとそのエンジに柊たちの話をしないといけない明日の自分の心配をするのだった。
妖精だの精霊だの長老衆だの説明してますが、適当に考えたので多分重要じゃないです。
今後、話に使えそうなら出そうかなくらい。
まあ話なんて、なんとなくしか考えてないので思い付くかどうかですね!




