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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
60/62

四日堂にて 1


 繁華街から少し離れた薄暗い路地裏。その雑居ビルが建ち並ぶ丁字路の中央に一台の車が止まった。

 運転席のドアが開き、降りてきた強面(コワモテ)の運転手が後部座席のドアを開く。


「ありがとうございます時蔵さん。助かりました」

「いえ、あんなことがあった後なんでさぁ。それに荷物の事も有りやすし、気にせんで下せぇ」

「悪りぃなおっさん。じゃあ悪りぃついでに、その荷物ってヤツを下ろすのも手伝って貰えるか?」

「お任せ下せぇ」


 先ず降りてきたのは、分かりやすく派手なギャルの服装に反して丁寧な態度をする少女、梓。

 運転手に礼を言ってから彼女が周囲を見回し、車内に手招きを送ると、次には清楚でありつつ動きやすい格好をした少女が、何やらおめでたそうな紅白の着物を羽織った女児と見紛う少女を抱き抱えて降りてきた。


 彼女らの正体は、言うまでもなくエンジたち一行である。

 ちなみに少女たち二人の一連の動きは、家で躾られた昔からの習慣になっている警戒動作であった。



 そうして車を降りた()()()()()清楚な少女であるところの五塔杢(ごとうもく)(ひいらぎ)が、丁寧なギャルであるところの五塔杢(あずさ)にグースカ寝ている慈円寺(じえんじ)エンジを背負わせる。そしてエンジを受け渡した本人は強面の運転手、時蔵に手伝いを依頼するとトランクまで向かった。


 運転席で操作しトランクの蓋を開けてからやって来た時蔵と共に、今回の依頼の原因であった人形が入ったキャビネットを引っ張り出していると、不意に新たな人物から話かけられる。


「柊、梓もお帰りなさい。あら、エンジは寝てるのね……。それで依頼はどうだったのかしら?」

「おう愛梨亜(ありあ)! 一応依頼は何とかなったぜ……一応な」

「その後が大変でしたけどね……。エンジさんのお陰でとりあえずみんな無事に帰れましたよ、愛梨亜さん」

「そう。まあ、無事ならそれで良いのよ。詳しい話は店で聞くわ」


 丁字路の奥、この近辺で唯一光を放つ店の方からやって来た空見(そらみ)愛梨亜(ありあ)は、皆に話かけると、次に梓へ「エンジは私が背負うわ」と言って寝ている少女を受けとり、その背に背負って店へと向かって行く。

 キャビネットを抱えた柊と手ぶらになった梓がその後ろをついていくと、愛梨亜がおもむろに振り返り時蔵へと声をかけた。


「わかっていると思うけれども、車はそこにでも適当に停めておけばいいわ。この辺りは私たちの私有地で他の車は通らないから」

「へい!愛梨亜の姉さん! 承知しておりやす! いつも通り、端に寄せたら直ぐに向かいやすんで!」

「そう。なら店で待っているわね」


 

 車を端に寄せている時蔵を置いて三人と寝ている一人は、暗闇にそこだけが浮き上がるようにライトアップされた店の扉を潜る。既に閉店していたようで、空調が効いて涼しい店内には客の姿は無かった。


「三人ともお帰りなさい。……エンジは寝てるみたいですけど、何かお食事を出しますからお二人はそこの広い席に座ってくださいね」

「おう、杏里沙ただいま。それで、この荷物なんだがよ……」

「ああ、()()から聞いてます。とりあえず適当にテーブルの上にでも置いておいてください。後で調べますから」

「……わかった。頼むな?」

「ええ、できる限りの事はしますよ。八巻君おしぼりをお願いします!」

 

 店内には客の代わりに二人の店員が待っていた。カウンターの中で作業をしつつ、柊たちに声をかけてきたのは陸井(りくい)杏里沙(ありさ)。この店の料理を担う実質的な店長である。


 杏里沙は柊と話すと店員として居残っていた八巻に後を任せて、労を(ねぎら)うための料理を作り始めた。その間に愛梨亜はエンジをベッドに寝かせるために、二人に一言断ってから自宅である雑居ビルの階段を上がり、住居スペースへと消えていく。


 一方で愛梨亜達を見送ったテーブル席では、柊と梓、そして八巻の三人がテーブルの上に置かれたキャビネットをじっくりと観察していた。


「……ねえ柊さん、なんかヤバいくらいにドス黒くない、このキャビネット? 中に何が入ってるの?」

「ヤバい人形だ。中のソレが依頼の原因だった。倉庫の荷物を滅茶苦茶に振り回して大変だったぜ」

「へぇ~、向こうで言うゴレム的なヤツかな? ……あいたっ!」


 柊の話を聞いた八巻が好奇心からキャビネットの扉に手を伸ばすと、梓によって横からその手をペシリと叩き落とされる。


「分類するなら付喪神ですよ。しかも結構妖力をつけたのです。あと、折角中の子が寝ているんですから扉を開けないで」

「あ~、自分の意志があるタイプね。それじゃあゴレムとは違うな。それと、ごめんなさい」


 梓は柊の話を引き継ぎ、説明しながら八巻を注意した。手を叩かれた八巻はその手を擦りつつ申し訳なさそうに謝罪する。おおよそお互いにほぼ初対面でするとは思えないやり取りだった。

 まあまあ、などと言って柊がその場を取り成すと、三人はとりあえずキャビネットをそこに置いておいて別のテーブルへと移動した。

 


 席に着いた柊と梓に八巻がおしぼりと水を出していると、車を停めた時蔵が店に入って来る。店内を見回して見つけた杏里沙に挨拶すると、彼は八巻の案内でカウンター席へ通された。

 そしてテーブル席で話し込んでいる柊と梓を横目に眺めながら、時蔵と杏里沙は話をする。


「エンジたちの送迎までしていただいて、ありがとうございました。時蔵さんも巻き込まれてお疲れでしょう?」

「いえ、この通り五体満足ですんで大丈夫でさぁ。送迎も親父の指示ですんで、礼は親父にお願いしやす」

「そちらにも後日お礼はしますけど、それとは話が別です。いいですか時蔵さん? 何であろうと受けた恩には相応の礼を返さなくてはいけないんですよ」

「そらぁ魔の連中の理屈でしょうや、杏里沙の姐さん」


 料理を続けながら世間話のようにお礼を言う杏里沙。その礼を固辞しようとする時蔵は、彼女の言い分に苦笑いで異議を唱えた。

 すると杏里沙は料理の手を止め、首を横に振って続ける。


「いいえ、これはこの世界の原則で法則です。時蔵さんがどう考えるかは自由ですけど、法と付くものは蔑ろにしても良いことはあまりありませんよ? ……と、いうわけでコレがお礼第一弾のお茶です」

「そう言われちゃ仕方ねぇでさぁ。有り難く頂戴いたしやす」


 真剣な顔で忠告めいたことを告げたのち、パッと笑顔を咲かせて冗談めかしながらお茶を差し出す杏里沙に、時蔵は先ほどとは違い敵わないものを見た気分で苦笑いを浮かべ、冷たくひやされた茶を受けとる。

 受け取った茶を一口含むと、それはいつも彼が店に来たときに頼む緑茶なのだった。




 杏里沙と時蔵が問答をしている時、テーブル席では柊と梓が案内の終わった八巻と話していた。


「それじゃあ依頼の場所は音橋の港だったの?」

「はい。後で杏里沙さんたちにも話ますけど、色々と大変でした……」

「依頼以外にも、でけぇバケモンが出て来て死ぬかと思ったぜ。怪獣映画じゃねぇんだから勘弁してもらいてぇもんだ……」


 キャビネットの話から関連して、依頼やその後についての話へと話題が移り変わり、二人は簡単な概要を八巻へ話す。中でも柊がうんざりとしながら話す内容は彼には冗談にしか聞こえなかった。結果、少し茶化すような対応になってしまう。


「バケモンって、幾ら何でもねぇ? 俺、そんなのがいるなんて生まれてこのかた聞いたことないんですが……」

「冗談なんかじゃねぇよ……」

「嘘でもないですよ?」


 半笑いでそう言った八巻に対して、二人は疲れたようなため息を吐きながら返す。その反応に、彼もただ事ではなかったのだなと遅蒔きながらも察した。


「マジなの? この世界にもそんなモンスターでるの……? 折角帰って来れたのに、もう勘弁してくれよぉ……」

「ホントにな!」

「同じくですね!」


 柊と梓に確認を取ると無言で頷き、肯定された八巻は、思わず天を仰ぐ。

 次いで発された、異世界にてモンスターと呼ばれていた怪物、怪獣の類いと散々戦った彼の心底うんざりとした呟きに、二人は心から同意したのだった。



短いですし話は進んでませんが、書けた分だけ。

続きは書けたら更新します。


あと今の今まで気付かなかったのですが、感想をいただいていました。

本当に読んでる人が実在するのかと驚くと同時に、素直に嬉しいです。

ありがとうございます。


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