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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
6/62

「ない。杏里沙におまかせ」

 エンジは杏里沙に連れられ四階の衣装室へと来た。

 衣装室にはクローゼットとハンガーラックが幾つも並んでおり、そこには四人の服が大量に収納されている。種類も多種多様でカジュアルな服から礼服、果てはコスプレの衣装のようなものまで揃っていた。


 そのクローゼットの森を抜けると装飾品を納めた棚があり、やはり多くの宝飾品がある。これだけでもひと財産であり手入れもされているのだが、あまり四人に活用されることはない。

 さらにその奥には扉で仕切られた部屋があり、そこには依頼を受けた時に身に付ける仕事着と装備品が仕舞ってあった。

 その並んでいる普段着用のクローゼットの一つの前で杏里沙がエンジに聞く。


「エンジ、何か着る服のリクエストはありますか?」

「ない。杏里沙におまかせ」

「そうですか……じゃあ動きやすい服で……」


 そういって杏里沙は考えながらクローゼットの中をごそごそと漁っていく。しばらくすると目当てのものを発見してエンジの前へと出す。


「これはどうですか?これなら涼しくて動きやすいですよ」

「それがいい」


 出されたワンピースを見てエンジは即答する。


「……もうちょっと悩んでもいいんですよ?」

「杏里沙は凝ると長くなる」

「そ、それはそうですけど……」

「あと、いつも最初に出すのが一番良い」

「そ、それもそうですけど……えへへ」


 即答され少し不満そうに問いかける杏里沙だったが、エンジの指摘にしょぼんとし続く言葉に嬉しそうにする。

 そうして気分が良くなったところで、二人は着替え出す。エンジは杏里沙に手伝って貰いながらだ。


「シャツは洗濯するので籠に入れに行きますよ」

「わかった」


 着替え終わった二人は部屋を出て五階へと行き、入り口近くにある洗濯籠にシャツを入れリビングへと行く。リビングからは肉の焼けるいい匂いが漂っている。 


「いい匂い」

「お夕飯、思ったより早くできそうですね」

「待ち遠しい」


 その香りにエンジは待ちきれないといった面持ちでキッチンへと向かい、杏里沙もそれに付いてくる。

 キッチンでは有夏がひたすらにハンバーグのタネを作り愛梨亜がそれを焼いていた。


「できてる?」

「見ての通り、いっぱい作ってるよ!タネはこれで最後で、愛梨亜が焼いてるから後は焼き終われば出来上がり」

「じゃあ、お皿を出して、ここにあるサラダなど持っていきますね」

「エンジは座って待っててよ」


 そう言って杏里沙は食卓に出来た料理を持っていき、有夏に言われたエンジは椅子に座ってキッチンの方を見て待っている。

 しばらくして料理の音が止むと、三人もキッチンから出てきて共に食卓を囲んだ。エンジの前には大きなハンバーグが五枚も重なっており、彼女はもう待ちきれないといったようにそわそわとしていた。


「じゃあ、食べましょうか」


 全員が席に着いたのを確認した愛梨亜が号令をかけ、みな口々にいただきますと言って夕食を食べ始めたのだった。


 夕食のあと、協力し後片付けまで終えた四人はリビングのソファーに座りくつろいでいた。


「そうだエンジ、今日のお昼のときアレに話しかけちゃったでしょ」

「……? うん」

「ダメじゃん。せっかく認識阻害かけてたのにあれで少し弱くなって違和感持たれたよ」

「そうですね、彼が動揺してたのがまるわかりでした」


 突然、有夏が思い出したようにエンジに昼休みの行動を軽く注意し、杏里沙も同意する。


「エンジ、私たちの今の認識阻害の力は昔と違って、掛けられている対象が自分から相手に認識されるような行動を取ると、力が弱まるのを忘れてないわよね?」

「忘れてない」


 愛梨亜が聞くとエンジは深く頷きながら答える、その自信ありげなその様子に愛梨亜は項垂れながら続けて問いかける。


「じゃあ、何で話かけちゃったのよ……」

「うっかりしてた」

「うっかりって……。もうしょうがないんだから」

「ほんと気を付けてよね。今のエンジは強くないんだから」

「ごめん、気を付ける」


 エンジの回答にがっくりとして、すぐに気を取り直したのか愛梨亜が苦笑して言う。有夏はエンジを気遣ったような心配そうな顔でエンジにまた注意し、その表情を見たエンジはシュンとして素直に謝る。


「エンジもわかってくれたみたいですし、次から私たちも注意すると言うことで良いでしょう?」


 杏里沙が皆の顔を見回しながらそう言うと、皆は頷いて返した。

 空気を仕切り直すように愛梨亜が質問する。


「そういえば杏里沙、彼と購買にいった時はどんな様子だったのかしら?」

「特に警戒されていた事を除けば普通でしたね、警戒は隠そうとしてましたけど」


 杏里沙が自身の所感を答える。


「電車での視線はどうかしら?」

「わかんないよね。あの時は認識阻害をそんなに強くしてなかったし」

「ありえないという事は無くはないのでしょうけれど、だからと言ってどうとも言い難いですね。あったとしても、ただ感覚が鋭いだけかもしれませんし」


 三人は何とも言い難いといった表情をした。気を取り直して愛梨亜が纏める。


「そう。では、今のところ直ぐに対処すべき大きな問題は無しといったところかしら」

「そうだね、暫く探って問題なければ放置でいいんじゃない」

「そうですね。何もしてこなければ、良いお隣さまということでいいんじゃないですか?」


 三人の中で今朝からのちょっとした問題の対処の方向性が纏まり、それをエンジに確認する。


「エンジもそれで良いかしら?」

「良いと思う」


 いつの間にか有夏に頭を撫でられていた彼女は、気持ち良さそうに目を細めつつそう答えた。



 リビングで四人の話は続く。


「明日と明後日は休みですけど、どうしましょうか」

「明日は久しぶりにお店開く?」

「かあさま」

「そうね、お店より先におば様に顔を見せに行きましょうか。呼んでいたと言うことは、いきなり行っても問題は無いでしょう」

「明後日はおば様の話次第ってとこ?」

「どんな用事か分かりませんし、予定は空けておいた方が良いかもしれません」

「そう方がよいでしょうね」

「かあさま、きっと寂しいだけ」

「……そんな理由で呼ぶほど、暇がある人ではないのではないかしら?」



 そうして明日の予定を決めて夜も更けてきた頃、ふあぁとエンジがあくびをしたのを合図に四人はリビングを出る。そして衣装室に行きバスタオルやパジャマなどの着替えをもって風呂場に向かった。

 四人がお風呂から上がるとパジャマに着替え寝室へと向かう。部屋は通路と五つの部屋に仕切られており、それぞれ四つが各個人の部屋で、残りの大きく仕切られた通路の奥の部屋が四人の寝室となっている。


「今日は有夏がエンジの隣ね」

「エンジこっちこっち!」

「……う…………いく」


 寝室にはベッドが四つ隣にくっ付け合って置いてあり、その真ん中にいる有夏が半分寝ているエンジを呼び寄せる。


「ミカちゃんは枕元に置いておきますね」

「……うん」


 杏里沙がエンジが左手に持っていたクマの縫いぐるみを受けとり、枕元にそっと置きエンジを挟んで有夏とは反対側に横になる。それを見た愛梨亜は一言声をかけ部屋の電気を消し、有夏の隣へと行き横になる。


「それじゃあ皆、寝ましょうか」

「……エンジもう寝てます」

「きっと、朝から色々あったから限界だったんだね。もうグッスリだよ」


 ベッドの上にあがるなり、直ぐにグッスリと寝てしまったエンジを見ながら有夏は少し複雑そうな顔をする。そして愛梨亜がクマの縫いぐるみを見て言う。


「やはりエンジの負担は大きいわね」

「浄化が終われば少しは負担も減りますよ」

「もう少しだね」

「ええ、やっとね」

「皆も救われて、エンジも報われますね」


 そう言って杏里沙はエンジを慈しむ様に撫で、有夏は抱き締める。


「浄化が無事に終わることを祈りましょう」

「祈るって誰にさ?」

「さあ? 神様かしら」

「ナイスジョーク」


 愛梨亜の言葉に有夏はエンジを起こさないように静かに笑った。


「もう冗談を言ってないで寝ますよ、明日は慈円寺家に行くんですからね」

「わかってるわ。二人ともおやすみなさい」

「おやすみ」

「おやすみなさい」


 そうして暫くすると寝室には四人分の寝息が聞こえてくるのだった。


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