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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
59/62

星使い/五塔杢柊 4

今回、途中で視点が変わります。分かりにくかったらすみません。


 エンジは取り払った眼帯を丁寧に懐に納めると、風で乱れていた横髪を左手でかきあげる。そして星の浮かぶ瞳で怪物を眺めながら柊と梓に話しかけた。


「あなたたち、良ければ手伝って貰えるかしら?」

「あ、ああ……いいけどよ」

「あなた一体……。いえ、なにをすれば、その……いいですか?」


 気配からして全くの別人としか思えないエンジに対して、二人は緊急時だからと聞きたい事を飲み込む。

 そんな二人の態度に星使い(エンジ)は、かわいい娘を愛でる母親のような微笑みを浮かべた。


「少しの間でいいから、飛んで来るモノの対処をお願い。あなたたちなら出来るでしょう?」

「……おう、廃材くらいなら大丈夫だ」

「さっきの魔力弾は今の装備じゃ難しいですけど……」


 自分の右腕を掴んでいる手を優しく放させながら頼みを言う彼女に、柊と梓は少し躊躇いながらも了承する。それに満足したように頷いてから、星使い(エンジ)は自信を滲ませて言った。


「あれはもう撃たせないから気にしなくていいわ。じゃあ、()()()()()()()()が効いてる内に終わらせましょうか」



 意味深な事を言い終わるや否や、懐から一枚の札を出し力を込めて火を灯す。揺らめく炎が細い煙を立ち上らせて夜空へと昇って行き、その様子を星使い(エンジ)は右目を通して見つめる。

 そのまま独特の歩法で、ゆったりと円を描くステップを踏みながら言葉(いのり)を紡いでいく。




「夜空の星には力がある。それは世界が違おうとも変わらない」




 最初は確認。己れの術を世界に馴染ませる為の儀式。

 決して炎は絶やさない。




「極光の星を結び上げ、陰なる星を纏わせる」



 右目で光輝く一等星たちを捉えながら、歩法を使い、舞い祈る。

 その瞳は見えない星も写し出し、立ち上る煙で星々を繋ぐ。



「欲する幻想を描き出し、欲さぬ現実を塗り潰す」



 瞳の中で繋いだ煙は星々の力を帯び、絡み合って図形を描き出す。

 祈りは尚も続いていく。



「そして()は書き変わる」



 複雑な図形が完成に近づくにつれ、夢と(うつつ)が混ざり合う。

 舞いは決して止まらない。



「望まぬ濁りを打ち捨てて、澄んだ己を取り戻せ」



 星使い(エンジ)の視界に極大の図形が描かれて、世界が望み通りに書き変わる。

 舞いも祈りも終わりを告げた。



「此れ即ち、事象星図なり」



 星使い(エンジ)が立ち止まり札に(とも)した炎を消し去ると、描いた図形が現実へと転写される。

 そして夜空に現れた星の図形が(まばゆ)く光り、術を発動した。




        ◇◇◇




 あたしはエンジに変わって、飛んで来る廃材を梓と捌きながら、何が起こっているのか理解しようと必死だった。


 エンジが霊札から火を焚いて、聞いたこともない呪文を唱え始めたら結界が機能しなくなった。これを見越していたから、あたしたちに廃材の対処を頼んだんだろう。それはわかる。


 そう、それはわかるんだ。だけど、これは何だ?


 詠唱が進むにつれて、空間が歪んで波打っていく。そこら中の空間が捻れては戻りを繰り返して、形を変えているみたいだ。

 重力もおかしくなってんのか、ある場所を通ると急に失速してあたしらまで届かない廃材も出てきた。それに加えて、妙に現実感が無い。


 やがて風景がどんどんと夜空に置き換わってく。それにつれて周囲の音も聞こえなくなって、エンジから発される以外の全ての音が消えた。

 怪物も流石にヤバいと思ったのかは知らねぇが、口の前にさっきの魔方陣を出して攻撃しようとしてる。今も廃材攻撃を防いでるあたしらには、それを止めることが出来ねぇ。あたしは音にならない叫びを上げながら次の一手を考えてたが、一向に怪物の魔方陣に魔力は集まらなかった。


 気付けば飛んで来る廃材も無くなって、あたしらの霊札もウンともスンともいわなくなってる。

 周囲は完全に夜空へ置き換わってて、突然そんな空間に放り出されたあたしらも怪物も身動きが取れなくなってた。

 世界にエンジの声だけが響き渡ってる。

 まるで白昼夢の中にいるみたいだ。


 これに比べりゃあ、さっきの人形のポルターガイストなんて、子供の遊びみたいなもんだって感じる。


 そんな中、エンジはずっと空を見上げながら呪文を唱えて、小さく円を描くように歩いてた。右足の悪さを感じさせないような流麗な動きで舞い、足元に蒼く光る線を引いて世界に足跡(そくせき)を残していく。


 そして最初の位置に戻って光の円を閉じた。


 同じくして呪文を唱え終えたエンジが霊札の火を消すと、突然何もなかった遥か上空に薄く光る幾何学的な球体が現れる。

 幾つもの図形が立体的に編まれて形を作っている巨大な球体は、それぞれの図形に意味があるみたいで、端から輝きを増して次々と連鎖してく。


「いたずらの時間は終わりよ。もう十分楽しんだでしょう?」


 図形全てが光輝くと、そう言ってエンジが優しく怪物に笑いかけた。

 瞬間、球体が強く明滅して術が起動する。次に明滅をやめてバカみたいに光輝いた球体から、極光の柱が怪物へと降り注いだ。


 そしてあたしは思った。



 エンジ……怪物じゃなくて、お前がビーム打つんかい……。



 目の前の圧倒的な光景に現実逃避をしながら、そんなしょうもない感想を頭に浮かべてると、怪物は空間をも揺るがす程の光の奔流に飲み込まれて、みるみる内にその溶けてブヨブヨの体を消し去られていく。

 だってのに怪物は逃げるでもなく、暴れるでもなく、光の中でただ大人しく立ち尽くしている。



 あたしは降り注ぐ極光を心底恐ろしいと感じると同時に、この光景をただただ美しいと思っちまった。

 


 やがて怪物が綺麗さっぱり消滅すると、球体からの光も止んだ。

 怪物はすでに影も形もない。でも、そこに何かがいる。姿かたちも見えないが、気配だけがある。


「さあ、あなたを縛るモノは全て消え去ったわ。もう自分の居場所に帰りなさいな」


 音の無い夜空でエンジが何かに向けてそう言った。なにかもわからない存在が、エンジに向けて手を振っている気配がわかる。

 それ以外は全く何もわからないんだが……。


 そのまま存在の気配が煙のように消え去ると、術も解除されて一瞬で空間が元に戻った。急に周囲の音が聞こえるようになって、夜空は上空だけのものに戻ったし、景色はさっきまでの倉庫街の前だ。

 振り返れば停めてあった車も無事で、倉庫の間に隠れてた時蔵のおっさんも顔を覗かせて様子を伺ってる。


 元に戻った世界は何事も無かったように正常で、エンジの目の前のクレーターと散乱した廃材だけがさっきの怪物の存在を物語ってた。


 そして遅れて夢から覚めたように現実感が戻ってきた。



        ◇◇◇



 怪物を消し去って術を解除したエンジは、自分の懐を探りつつ独り()つ。


「それにしても、よく妖精をあんなになるまで改造したわね。誰がやったのかは知らないけれど悪趣味だわ」


 術の影響を受けて(ほう)けていた柊と梓は、エンジの独り言を聞いて気を取り直した。次いで柊が気だるそうに問いかける。


「あれが妖精……? 妖精ってあの妖精か?」

「あのって言われても、あなたがどの妖精を指して言っているか知らないけれど、この国からずっと西の方にいる者ね。精霊に近い無邪気な(ほう)よ」


 柊に答えながら懐にしまった眼帯を取り出したエンジは、片手で眼帯を身に付けようと四苦八苦していた。

 そんな彼女に梓がおずおずと話しかける。


「あの……無邪気じゃない方の妖精って?」

「他の世界の子どもを(たぶら)かして戦わせる奴らよ。妖精を名乗ってるけれど、概ねろくなヤツじゃないわ。あなたたちも、出会っても利用されないように気を付けなさいね?」

「えぇ……? いや……はい、気を付けます……」


 梓は話をしながらエンジから眼帯を受けとり、注意の内容に困惑しながらも彼女の右目に眼帯を巻いていく。

 眼帯がつけられるとエンジは梓と柊に向き直りお礼を言う。そして、こう続けた。


「全部終わったようだし、早く逃げましょ? こういうのはさっさと撤収するに限るのだから」

「そうですね。騒ぎが大きくなる前にここを離れましょう」

「……まあ、色々聞きたいこともある。車の中でゆっくり聞かせて貰うからな」


 提案に二人が同意し車へと歩きだそうとしたが、提案した当のエンジが動かない。何事かと首を捻る二人に彼女はニコッと笑いかけた。


「説明して上げたいのはやまやまだけど、この体が休眠を欲してるのよ。だからあなたたち、わたし(この子)を家まで連れて帰ってくださる?」

「はっ?」

「じゃあ、頼んだわよ?」

「……っ、エンジさん!? …………ねっ、寝てる」


 そう一方的に頼んだエンジがそのまま前のめりで倒れそうになった所を、梓が慌てて抱き抱える。

 急性の病気や怪我かと心配した二人が容態を確認するため顔を覗き込むと、エンジは既にすやすやと寝息を立てていたのだった。

書き貯めた分は今回で終わりです。

以後はまたちまちまと書いていき、書けたら更新します。

つまり不定期更新と言うことですね。

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