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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
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「……開けてみればわかる」


 柊が怒気を収め、場が落ち着いたところでエンジは再び移動を開始する。目的地などの説明はやはり為されないが、今度は二人を置き去りにする気はないようで、普通の速度で歩きながら手招きをしていた。


「さてと、待たせちゃいけねぇし返事を――」

「その前に一つだけ良いですか?」

「あん? いいけどよ、立て込んでるんだ。手短に頼むぜ?」


 二人がちゃんと付いてくるのを確認した不良坊主(エンジ)が、先ほどの会話の最中に受け取っていた思念からの回答に答えるようエンジに促そうと独り言を言っていると、それを遮って梓が話しかけた。

 歩きながら振り返れば、渋い顔をした梓が目に入り、不良坊主(エンジ)はニヤケ面をしながらも面倒だといった雰囲気を隠さずに願いを聞き入れる。


 すると、そんな不良坊主(エンジ)に対して梓も不信感を隠す事なく言った。


「アナタ、誰なんですか?」


 問われた不良坊主(エンジ)はやはり面倒臭そうにしながら口を開く。


「……あーっとだな」

「エンジさんはそんな話し方も笑い方もしません。何より人を挑発して悪びれないような人ではないです」

「うぃっひっひっひ! ヒデェ言われようだ。そんな人聞きの悪い事言うもんじゃねぇよ?」

「知りません。それでアナタは誰で、エンジさんをどうしたんですか? 答えて下さい」


 徐々に詰問に近くなっていく梓の問いかけに、何が楽しいのか、笑いながら飄々とはぐらかす。しかし、問答に長い時間を取られたくなかったようで、詳しいことは後でと前置きしてから一言。


「俺の名()エンジだ。以上!」


 憎たらしいほど爽やかな笑みでそれだけ言うと、さっさと前を向いて独り言を言い始めた。


「何なのもう……」

「もう気にすんな梓。悪いモンが取り憑いた訳でもないんだし、後で説明してくれんだろうさ。アタシは諦めた」

「……柊」


 まともに答える気がない事が分かりゲンナリとする梓を、苦笑いをした柊が励ます。その柊の反応に悪いモノではないらしいと納得した梓は、とりあえず様子見をすることに決め、ため息を溢しながらエンジの後をついて行った。








「俺の名もエンジだ。以上!」


 そう宣言して一方的に話を打ち切った不良坊主(エンジ)は、裏で話の最中に思念とやり取りをしていた今生のエンジへ内容を尋ねる。


「さて、オレよ。俺が嬢ちゃんらの相手してる間の話はどうなったんだ?」

「…………『アメリと暮らした部屋に帰って約束を守らないといけないの』って言ってた」

「おっ……おう。急に思念に乗っ取られたのかと思うほど声色似せられんだな。どうなってんだこの体は?」

「さあ? 何となくできた」


 急にエンジの口から全く別人の、それこそ思念から感じる声に非常に酷似した声が飛び出したことに不良坊主(エンジ)は面食らう。どこからそんな声が出てきているのか疑問に思うが、エンジにもわからない以上、答えは出なかった。


「まあいい。何か言ってやったんだろ? どうだったんだ?」

「…………約束ってなに? って聞いた」

「はぁ~、約束ねぇ。基本救われねぇヤツだなこりゃ。で、(やっこ)さんの御回答は?」

「……回答待ち」

「……さいで」


 気を取り直して状況説明を求めるが口の重いエンジ。話を聞いた不良坊主(エンジ)も生前の経験から大まかな事情を察し、うんざりとした表情をする。双方共に、録な結果にならないだろうという予感がしていたのだった。


 そうこうしている間も不良坊主(エンジ)は歩みを進めていたため、とうとうこの倉庫に入った時から視えていた妖気を発しているモノの前に辿り着いた。

 不意に黙って後ろに付いてきていた柊が声をかける。


「エンジ。コレか?」

「……そう。わかる?」

「ここまで来れば流石にな……。コレが見えた時にコイツかと思ったが、やっぱりか」


 その柊の指先が指すモノを見てエンジが頷く。

 そこにはかなり年季の入った60センチ程の小さな木製キャビネットがあった。その周囲にはキャビネットを包んでいたのであろう梱包材の破片や近場にあったであろう荷物が散乱していたが、全体的にどす黒くなっている豪華な木彫りの装飾を施されたキャビネットだけは何ともない。

 それだけでも奇っ怪な光景だが、何よりも縄でぐるぐると縛り付けて、両開きの扉が開かないよう厳重に閉じられているのが異様であった。


「随分古そうですけど、中になにが入っているんでしょうか……?」


 現状の原因と思わしき不穏な物を見て、梓が顔をしかめて訝しむ。


「……開けてみればわかる」


 少し間を開けてエンジがそう言い、キャビネットに近付いて縄を解こうと手を掛けた。すると柊がエンジの肩を掴んで止める。


「大丈夫なんだろうな、エンジ?」

「多分。…………だからお願い、柊」


 険しい顔をした柊にそう問われた彼女は、頷いてから再び縄を解こうとする。

 しかし、硬い結び目は片手では上手く解けず、しばらくガサゴソと縄を弄った所で動きを止めた。その様子を柊はジト目で見ながら手を出さない。

 そしてエンジは酷く恥ずかしそうに柊から顔を背け、か細く小さい声で代わりに縄を解くことを頼んだ。


「ここまで来てアタシがやんのかよ! なら最初から置いてくな!」






 至極尤もな事を叫んでから、ぶつくさと文句を言いつつ縄と格闘している柊を梓と見守っていると、エンジへ思念からの返答が返ってきた。



 ――子ども達を見守ることなの。アメリとの大事な最後の約束なの……。



 悲しみに彩られたトーンで伝えられた思念を受け取り、エンジはその内容に苦い顔をする。無意識に右腕に乗せているミカちゃんを撫でると、それまでぬいぐるみに徹していたミカちゃんがほんの少しだけ動き、頭を自身を撫でる手に押し付けた。本当に僅かな動きだったので、横に立っていた梓は違和感を感じつつも、ミカちゃんの事に気付かない。


「こりゃあ、オレだけじゃどうにもならんかもな」

「えっ? 何ですか急に?」

「……杏里沙に頼んでみる」

「あの……エンジさん? 聞いてますか?」

「ごめん。こっちの話」

「はっ、はぁ……?」


 急に独り言を呟き、自身を無視するエンジに困惑を隠せない梓。何か重要な事かと思い、問いただそうとした所で柊が縄を解き終わり、質問が発されることはなかった。


「解けたぞ、エンジ! 後は任せて良いんだな?」

「うん。ありがと柊」


 一仕事終えて振り返った柊が話しかけ、一歩引いた場所に下がる。エンジは礼を言いつつキャビネットの前に立ち、扉の取っ手に手を掛けた。



「わかった。きっと帰してあげる」



 意志を言葉に乗せながらそう言うと、エンジは扉を開く。

 キィという木材が軋む音と共に埃を舞わせながら開かれた扉の奥には、綺麗に手入れをされた古い人形が収められていた。

 エンジの背後から覗き込んだ柊と梓は、驚きにハッと息を飲んでから言葉を溢す。


「……この人形が騒ぎの原因なのか?」

「そう。多分盗まれた子」

「キャビネットはかなり古そうなのに、この人形の方は保存状態がとても良さそうですね。詳しくはないですけど、コレクターからすれば喉から手が出るほど欲しいんじゃないですか?」


 古めかしいデザインのドレスを着た人形。磁器で作られた体を持ち、艶やかな髪ととてもリアルだが美しい顔立ちには傷や曇り一つない。その表情は柔和な微笑みを浮かべており、古い人形にありがちな不気味さなど一切なく、見る者に『手に持って愛でたい』という欲求を抱かせる。

 かつての時代にそぐわない現代的な美しさと、少女のような可憐さを併せ持つこの人形は、成る程確かに盗まれるに値するのだろうと三人に思わせる存在である。

 だが、まるで封印でもするかのように固く巻き付けられた縄と色褪せ怨念が染み込んだかのように黒くなっているキャビネットとの対比によって、この人形の異質さが浮き彫りとなっていたのだった。

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