表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
54/62

「適材適所」


 屋敷を後にしたエンジ達は時蔵が運転する車の後部座席に三人で座る。車内で梓と柊が時蔵と到着後の打ち合わせをしている間、エンジは隣に座る柊越しに、窓から外を覗いていた。


 既に日は落ちきっているが、街灯と建物が放つ明かりが煌々と照っており、夜であるにも関わらず暗さは全くない。

 しかし、そろそろ夜中の時間帯へと足を踏み入れようとしているが故に、港方面から来る車は徐々に少なくなっていき、向かう車も彼女達の乗るもの以外にないのだった。


 そうして車に揺られること約三十分、遠くにぼんやりと音橋港の出す光が見えてくる。


「姐さん方、そろそろ港に着きやすぜ」

「現場は港の中だよな?」

「へぇ。ウチの倉庫の中でも海の側に面してるヤツでさぁ」

「では時蔵さん、そこまでお願いしますね」

「わかりやした」


 港が見えてくると時蔵から声がかけられ、柊と梓が彼とやり取りをしている内に車は港の敷地内へと入る。

 そのまま全く人気(ひとけ)のない港を進み、幾つもの建物が並ぶ区画へと到着した。

 奥には外灯の光を反射する夜の海。そこまで伸びる幅広い道路に面して、三角屋根の建物が十数戸建っている。

 その規模に見合った広さを持つ区画の入り口で車が止まった。この倉庫群の内の一つが今回の依頼の現場だ。


「ここ?」

「へい。ここ一帯の倉庫はウチが所有してるんですが、その中でもあそこに大きく3って書いてあるのが見えやすか? あれが今回の現場になりやす」

「かなり大きい倉庫ですね」


 全ての倉庫を見渡せる位置に停車した車内で、エンジが問いかけると、運転席に座った時蔵が一つの倉庫に指を指して答える。

 両開きの大きな扉の上には、白い塗料で大きく3の数字が描かれていた。どうやら1から3までの番号が振られている倉庫は、特別大きいようだ。

 その大きさに梓が感嘆を溢していると、時蔵が自慢げに笑う。


「ここの港じゃ一番の容量がありやすから。あれの賃料がウチのシノギの稼ぎ頭でさぁ」

「それじゃあ何とかしねえとな。それで、アンタは待ってるんだよな?」


 三人が喋っている間、自身とエンジのシートベルトを外しながら会話を聞いていた柊が、車のドアを開けながら時蔵に確認をする。


「へい、この車を駐車場に置いて待ってやす。情けねぇ話、こういった事は手前では不得意でして。どうやっても穏便には出来ねぇで、姐さん方の足手まといにしかならねぇんでさぁ……」

「適材適所」

「ありがとうごぜぇやす、エンジの姐さん。ですが手前、ただ暴れるだけなら得意なんで、必要なら呼んでくだせい!」

「…………考えとく」

「へい! では、仕事の方、お願いいたしやす」


 一瞬、悔しげに顔を歪めた彼は、力なく自嘲するが、エンジの一言によって途端に意気を取り戻し、調子の良いことを言ってきた。

 そんな時蔵に対して、車から降りた三人娘は一様に苦笑いをし、代表してエンジが答える。すると彼は厳つい微笑みを返して、一言だけ言って車を停めにいった。


 残された三人は現場の倉庫へ向かいながら最終確認をする。


「いいかエンジ、先ずはアタシが先頭で中に入る。そこで余程の想定外がなければ、後は好きにしな。勿論、無茶しない程度にだけどな」

「わかった」

「アタシらは基本見てるだけだけど、アタシか梓が少しでも負担が大きすぎるって判断したら介入するから、そんときは悪いが従ってくれよ?」

「……わかった」

「ホントにわかったか? 土壇場でゴネんなよ?」

「………………うん」

「んだよその間はよぉ……。不安だな……」


 柊による手筈の説明に一つ一つ頷き返すエンジ。しかし、あまりに淡々としたその反応に、柊は不安を覚え、苦い顔をした。そんな二人に梓がおずおずと話しかける。


「あの……エンジさん。さっき言おうか迷ったんですけど……」

「なに、梓?」

「その右手に乗せてるクマの縫いぐるみは、車に置いておかなくて良かったんですか?」 

「え? うん。ミカちゃんはお友達だから」


 その問いかけにキョトンとしたエンジは、何を言ってるんだろうという顔をして梓を見ると、至極当然といった雰囲気で答える。


「えっ? いや、あの、そんなに大切なら尚更――」

「あ~、梓。その縫いぐるみは気にしないでいい。いざとなればアタシが預かるから」

「そっ、それならいいんだけど……」

「いいから行くぞ、二人とも」


 エンジの雰囲気に、梓は自分が何かおかしい事を言っただろうかと思い、狼狽えながらも続けようとすると、柊が遮ってそう言った。


 彼女は渋々納得をした梓と、特に何も言わないエンジを促して倉庫へ辿り着くと、時蔵から予め預かっていた鍵を使い、人が出入りするために設置されている普通の大きさの扉を開ける。

 そして三人は顔を見合わせて頷くと、柊を先頭にして、エンジ、梓の順で中に入っていく。


 倉庫の中は真っ暗で何も見えない。先頭で入った柊は、近くの壁にあると聞いていた照明のスイッチを手探りで探し、見つけるとすぐに照明をつけた。


「前情報の通りで、随分と散らかってんなぁオイ」

「最後に起こったポルターガイストから手付かずのままらしいから仕方ないよ」


 入り口手前から順番に照明がつき、周囲が明るくなると、倉庫内の惨状がはっきりと見えてきた。

 資料に載っていた画像の通り、荷物の段ボールは散乱しており、一部は中身が飛び出している物もある。ほんのりと薄く埃の積もったそこは、足の踏み場もないとまではいかなくとも、それに近い状態であり、唯一の救いは腐って臭うような物品がそもそも倉庫内になかった事だけだった。


「エンジ、特に問題は無さそうだから好きにやんな」

「わかった」


 足を踏み入れてからずっと周囲を観察していた柊が、今のところ想定外の危険はないと判断してエンジに声をかける。

 すると彼女は頷いてから散乱している物の隙間に足を入れ、ふらふらしながら進んで行く。今にも転びそうなその余りの危なっかしさに梓が慌てて止めに入った。


「ああっ、エンジさん! ちょっと待って下さい!」

「なに? 梓」

「もう行きたい場所の目星はついてるんですか?」

「……? うん、だいたい」

「そうですか……。じゃあ、私が歩きやすいように先に少し片付けますから、行きたい方向を指示してください。このくらいは手伝っても良いよね、柊?」

「あー。まあ、そんくらいなら組合も報告の時に、エンジの成果じゃねぇとか難癖つけないだろ、きっと」

「なら、片付けよう。エンジさん、こっちでいいんですか?」


 エンジが進行方向を指し示すと、梓は床に散らばっている物を大まかに横へよけはじめる。見ていた柊も手伝って、進む上で障害となり、一人では持てないような重さの段ボールも協力して退かしていく。

 エンジもただ指示するだけではなく、片手で持てる程度の小物を片付けながら進んでいった。


 あっちだのこっちだの言うエンジの指示に従い、ボスッと散乱した段ボールを置く音を立てながら奥の方向へと進んでいくと、ちょうど倉庫の中央辺りで異変が起こりはじめる。


「なにか空気が重くなってきましたね……」

「………………」

「当たりに近づいてるってことだろ。……とりあえず梓、動ける広さを確保するのにコイツをどかすから、そっち持て」


 異変を察知した梓は警戒の度合いを深め、二人に話しかけながら周囲を見回す。

 エンジは動きを止めて、無言でただ一点を見つめる。その視線の先には段ボールの山が崩れており、他者には彼女がその山の向こうに何を視ているのかをうかがい知ることが出来ない。

 柊がそんなエンジを横目にしつつ、先ずは何が起きても対応して動くことのできる広さの確保をしようとする。

 梓へ指示を出してから、指にいつも自身が使う霊札を挟んで持ち、目の前にある大きめの段ボールに手をかけると、ほとんど力を掛けずとも持ち上がってしまった。


「……っ! こりゃあ、始まったか!?」

「エンジさんっ! 私の側を離れないで下さいね!」

「…………うん」


 

 柊が段ボールを放り投げ、梓と共にエンジの側によると、周囲にあった荷物の山はふわりふわりと独りでに浮き上がり移動し始める。

 そして、徐々に動きの速度が上がっていき、ぐるぐると円を描くように飛び交い始め、暴風を伴ってさながら竜巻のような様相を呈していく。


 柊と梓がその飛び交う荷物に巻き込まれないように、霊札や装備を用いて対処をしている間、エンジはじっと立ち止まり一点を見つめたまま動くことはなかったのであった。

体調崩すわ、なかなか書けないわ、指を怪我してやる気出ないわと結構散々ですが、書けた分だけでも更新しようという試みです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ