「店によく来る」
今回の依頼者は四日堂の近くを面会の場所に指定した。店から出た三人と一体は面会までまだ時間もある事から、徒歩でそこへと向かうこととする。多少人通りのある道を通るため、ミカちゃんはぬいぐるみの振りをして動かない。
道中、柊は自身の横をゆっくりと歩くエンジの方を向き、明るく話しかけた。
「改めて久し振りだな、エンジ。実家はどうだった?」
「みんな元気だった。でも忙しいらしい」
「へぇ~? エンジのとこの寺、忙しくなるくらい参拝者が来てんのか。まあ、あの猫耳が付いた仏像は珍しいもんな」
「あの仏様、最近ちょっとSNSで話題になってますよ」
柊とはエンジを挟んで逆隣を歩いていた梓も会話に入り、SNSを見せようとスマホの操作をする。しかし、その前にエンジは首を横に振った。
「違う。祓い屋の方」
「あぁ、そういや確かに何か最近バタバタしてる感じだな」
「今日も受け付けで前より時間かかったもんね」
エンジの言葉に柊と梓は互いの顔を見合せ、納得の色を見せる。
「幹部一人いなくなって、てんてこ舞い」
「お前らに八巻を押し付けたっていう、あの若いヤツか。血相変えて逃げるように出張に出たって聞いたぞ?」
「そうらしい」
「一応出張なら問題になることはないんじゃないですか? 引き継ぎはしてるでしょうし」
「依頼者からの依頼受注手続き勝手に変えてたから、困ってるって」
「なんですかそれ……? 監査する人は居なかったんですかね?」
「依頼の掲示も滞ってたみたい」
「最近依頼減ってたのはアイツのせいなのかよ!」
「みんな頭を抱えてるらしい」
「だろうな!」
祓い屋組織内の世間話をしながら三人は依頼者の元までのんびりと歩いて行く。
依頼者との面会に指定されている場所は四日堂からそう遠くはない住宅街の一画だった。店を出るのは少々遅れてしまったが、元々柊がエンジの体のことを鑑み、かなり余裕をもって予定を組んでいた為、面会自体には遅れることはない。
目的地に近付くに連れて見えて来たのは、大きな敷地を長く囲む瓦の載った漆喰の塀。それに沿ってしばらく進むと大きな木戸の付いた数奇屋門があった。門には何も書かれていない大きな板材の表札が掛かっている。それだけなら特に問題は無いのだが、その周囲で立ち話をしている柄の悪そうな男達のせいで、おおよそマトモな施設とは思えなかった。
談笑していた男達の内、人相のあまりよろしくない一人の男が門へと近付いて来た三人に気付くと、目付きを鋭くして彼女たちを睨み付ける。しかし、すぐにハッとした表情に変わりエンジ目掛けて駆け寄って来た。
柊と梓は急な事に驚きつつもエンジを守る為、素早く彼女の前に出て男の制止を試みる。
「おいお前! そこで止まれ!」
「ちょっとアナタ! 何の用ですか!」
「エンジの姐さん、ご無沙汰してやす!!」
「おい!って……えっ……?」
目の前までやって来た男は先ほどとは打って変わって笑顔を作ると、立ち塞がる柊と梓には目もくれず、二人の陰に隠されたエンジに対して勢い良く頭を下げた。
目の前で起こった一連の事態に困惑し、間の抜けた声を漏らして呆けている二人の間を掻き分けてニュッと顔を覗かせたエンジは、男に向かって声をかけた。
「こんばんわ。みんな元気?」
エンジの挨拶を受けた男はバッと頭を上げ、満面の笑みで答える。
「へい! まだ死んだヤツはいやせんぜ!」
「それは……? 良かった」
男の返答に少し違和感を覚え、頭に疑問符を浮かべ首を捻るが、威勢の良い返答に押されてしまいエンジは流された。そのように穏やかに会話をする彼女に怪訝な表情の柊が顔を寄せ、小声で耳打ちする。
「エンジ、知り合いなのか?」
「店によく来る」
「お客さんでしたか……」
柊の問いかけにエンジが答えると、逆側にいつの間にか同じく顔を寄せ、話を聞いていた梓が男を見ながら理解を示した。無論柊、梓、双方とも男に対する警戒は解いていないのだが。
エンジはそんな双子を男に紹介する。
「こっちが柊、こっちが梓。よろしく」
「へぇ! お二方、お初にお目にかかりやす。手前、葉廻不動産に勤めさせてもらってやす、時蔵と申しやす。以後、お見知りおき下せえ」
「あっ、ああ、五塔杢柊だ。……よろしく」
「……五塔杢梓です。よろしくお願いいたします」
エンジに紹介された二人は、男の古めかしいヤクザのような挨拶に戸惑いながらも自己紹介をした。
時蔵と名乗った男は五塔杢の名を聞いて一瞬ピクリと反応したが、特に何も言うことはなく改めて頭を下げ、礼をする。
「それでエンジの姐さん方は、今日はどんな要件でこちらに?」
「……お仕事」
「……? そうでしたか! すぐ確認取りやすんで、申し訳ないですがこちらで少々お待ち下せえ」
次いで頭を上げると、時蔵はエンジに用向きを尋ねる。
尋ねられたエンジといえば、若干不服そうに顔を歪めながら答え、それを見た彼はかなり不思議そうにしながらも三人を門前へと案内した。
「エンジさん、どうかしたんですか?」
「……別に」
「さてはエンジ、ここにまで来て仕事やんの嫌んなってスネてんのか?」
「…………違うし」
「図星なんですね……」
「……違うし……!」
同じくエンジの態度を不思議に思った梓が彼女に尋ねるが、エンジは顔を背けるばかり。
その反応にピンときた柊がからかい混じりで指摘すると、少しだけ黙ったあとムスッとして答える。その様子を見た梓も察して少しだけ呆れると、エンジはムキになって否定するのだがそれを信じるものは誰も居なかった。
そうして男が門前で屯しながら様子を伺っていた数人の部下のうち一人を伝令に向かわせ、自身はエンジ達との会話を続ける。
厳つい男達に囲まれた為、柊と梓は警戒を怠る事は無かったが、エンジにとっては皆お客さまとして店に来てよく会話も交わす知り合いなので自然に過ごしている。
しかも、顔と口調に似合わず時蔵という男は善良で、かつ話術にも長けていたので、世間話をしつつ時折エンジ達の笑いを誘い、柊と梓ともすぐに打ち解けていた。
そうこうしている内に確認に向かった部下が戻ってきて、時蔵に耳打ちをする。一つ頷いた彼はエンジ達に向き直る。
「確認が取れやした。親父が待っておりやすので、ご案内しやす」
そう言って扉を開き、先に門を潜った。柊はそれに続いて門を潜りながら小さくぼやく。
「さっきから思ってたけどよぉ、いちいち言葉遣いがヤクザ者なんだよなぁ」
「いつも通り」
「そういう柊も人の事は言えないと思うよ」
「うるせぇよ、梓」
梓から遠回しにチンピラみたいな口調だと言われた柊は、仏頂面をして小声で不貞腐れた。
門を潜った三人は先導をする時蔵に従い、石灯籠などの頑丈そうな置物が置かれている庭を進んで行く。エンジが置物の配置を興味深そうに観察しているのを察した時蔵は、自分の肩越しに彼女を見ながら解説する。
「エンジの姐さん、置物が気になりやすか?」
「うん。何か意図がある?」
「へい。何かあった時に遮蔽物として使えるよう背の高けぇのを選んで、互いに被らないように置いてんですわ」
「ふ~ん。大変」
「ウチも色々ありやすから。備えあれば憂いなしってことでさぁ」
二人のやり取りを見ていた柊と梓は、互いに目配せで「やっぱヤクザじゃね?」とか「一応不動産屋さんだよ、きっと」などと話し合っていた。
そうこうしている内に玄関にたどり着き、履き物を履き替えると、そのまま依頼者の待つ応接間へと案内されたのだった。
ずっと体調不良でしたが、少し良くなったので取り敢えずこれだけ書けました。
続きもなんとなくは考えてはいるので、のんびり書いていこうと思います。




