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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
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「ひっ、久しぶり、梓」

何か書けたので投稿


 エンジの帰省から帰ってきた翌日、六限までみっちりと全ての期末試験の解説が授業で行われ、それが終わると、ついに世の学生達が首を長くして待ち望む夏休みまで、残すところあと三日となる。


 帰りのホームルームでは担任から休み中の課題が配布され、教科ごとに違う課題の量に生徒達は一喜一憂していた。

 生徒達はホームルーム中にも関わらず、各々自由に動き回り友人達と課題の分担や予定などを話し合っているが、課題を配布するのに忙しい担任はとやかく注意はしない。

 そんな喧騒の中、エンジ達は八巻を交えてこの後の予定を話していた。


「じゃあ、いつも通り俺は一旦帰ってから四日堂まで行けばいいんだね?」

「そうです。もしエンジの準備に時間がかかって、八巻君が先に来てしまったら私に連絡してください」

「あたしらが行くまで鍵開けないから、中には入れないからね?」

「わかってる。というか開けてるって言われたら、注意してるとこだよ」

「たとえ鍵を開けていたとしても、(うち)に空き巣に入るような愚か者はいないわね」

「入ったら大変」

「……それは皆がだよね?」

「違う」

「えっと……じゃあ空き巣が?」

「そう。空き巣が」

「…………そっかぁ~、空き巣がかぁ~」


 具体的にどうなるとエンジは言わなかったが、その声色には決して冗談とは思えない重みがあり、愛梨亜達も至極当然と言った面持ちであった。

 八巻は天井を見上げて、うっかり空き巣が入ってしまったら、そいつはどんな目に会うのかと想像して遠い目をする。少なくとも(ただ)では済まない事だけは確かだった。





 いつもより長かったホームルームも終わり、学校から帰るとエンジ達はいそいそと仕事の準備に取り掛かる。

 内側は前回の仕事で着た装備をそのままに、羽織だけが白を基調として紅白の梅の花が刺繍されている振り袖に変わり、帯を締めず上に羽織っている。色合いやら何やらがお正月のようにおめでたいナリになっているが、四人ともその季節外れの格好を全く気にする様子はない。


コレッテ(これって)オショウガツニ(お正月に)キルンジャナイノ(着るんじゃないの)?」

「そうですけど、この着物は装備としても優秀なんです」

「一年に一回着るか着ないかだと勿体ない代物だからね」

「これは儀礼用の物でもないし、丁度いい機会だから虫干しも兼ねて着て行って貰うわ」


 付き添っていたミカちゃんの疑問に杏里沙達は軽く答えた。彼女等は特に何でもない物のように扱っているが、当然のようにこれもまた神霊紙で織られた逸品である。

 その価値を知る者からすれば、決して虫干しを兼ねてなどという雑な理由で着ていい代物ではなかった。


 なお、ご存知の通り神霊紙とは傷つく事も汚れる事も、ましてや虫が食うなんて事はあり得ない物なので虫干しなど必要ではない。故に、何やら(もっと)もらしい事を言っていても、これをエンジに着せた理由は愛梨亜たち三人のただの趣味である。


 そうしてエンジに装備を着せた彼女達は、腕で額を拭う仕草をして満足そうに頷き、部屋を後にして一階の四日堂まで降りていく。

 四人は内扉から店内に入ると、エンジはミカちゃんを右腕に載せて自分の定位置のソファーに座り、杏里沙はキッチン周りの準備、愛梨亜は店内やテーブルなどの掃除、有夏が店の前の道の掃き掃除を始める。


 有夏が箒を片手にゴミを掃き集めていると、八巻が出勤してきた。


「お疲れ様です。海野さん、今日もヨロシク」

「あれ、もう来たの? 八巻、早かったね。何かあったの?」

「えっ? いや、別にいつも通りの時間だけど……?」

「うん? そうだっけ?」


 挨拶してきた八巻に対して不思議そうな顔でそう質問する有夏に、彼は若干戸惑いながら答えた。それを聞いてもなお、有夏は不思議そうに首を傾げて自身の腕に身に付けた腕時計に目をやる。


「本当だ……。じゃあ、柊が遅れてんのか」

「五塔杢さん、まだ来てないの?」

「そうだよ。八巻より早く来る予定だったから、急いでエンジの準備したんだから」

「そうなんだ。何かあったのかな?」

「さあ? まあ、そのうち来るでしょ。八巻は中に入って準備しなよ」


 首を捻りつつも気にしないことにしたのか、有夏が軽い雰囲気で八巻に店には入るよう促す。彼は少し気になりつつも素直に従い、店内に入り挨拶とバイトの準備を始めた。


 しばらくして開店準備が整い、後は店を開けるだけという段になっても、まだ柊はやってこない。

 彼女へSNSで連絡を入れたあと、皆でカウンターの周りに集まって返信を待つ。連絡すら返ってこなければどうするか話し合っていると、有夏のスマホに「すまん」と一言だけの返信が返ってきた。

 それを見てどうしたのかと事情を聞こうと返信を書いている最中に、店の扉が開かれカランカランとベルが鳴った。


「エンジさん! お久しぶりです!」

「ひっ、久しぶり、梓」

「今日は柊の代わりに私が依頼を選んで来ました! エンジさんにあんな簡単な依頼だなんて柊ったらどうかしてます!」

「えっ?」

「あと、私もご一緒しますね!」

「えっ!?」


 扉を開き入ってきたのは笑顔の梓と、その後ろでばつの悪そうな顔をして肩を落としている柊だった。

 梓は一人ソファーに座っていたエンジを見つけると駆け寄っていき、目を輝かせながら捲し立てる。エンジといえば彼女のその勢いに押されて目を白黒とさせていた。


「ちょっと柊、これどういう事?」

「あたしが依頼選んでるの梓に見られてよぉ。そんな簡単なのじゃエンジは満足しねぇって言い張って、勝手に依頼選んじまったんだ」

「……エンジの事漏らした訳じゃないの?」

「そんな訳ないだろ……。一緒に仕事するとしか言ってねぇよ。なぁ有夏、エンジは梓に何言ったんだ? 完全に誤解してんぞ?」


 若干眉間に皺を寄せ、入り口付近に一人佇む柊へ急いで近付くと、小声で問いただす有夏。

 対する柊は、疲れて淀んだ雰囲気をその身に纏わせながら事情を説明する。

 それを聞いた有夏は疑念や憤りなどどこかに吹き飛んで、非常に申し訳なさそうな顔をした。


「……あたしの仕事を自分の手柄って言って、見栄張ったみたい」

「マジか……。完全に自業自得じゃねぇかよ、エンジぃ……」

「なんかごめんね、柊……」

「いやまぁ、あたしはいいんだけどよ。あ~今日の依頼どうすっかなぁ……」


 有夏が謝ると柊は苦笑いしながら手を振って気にしていないとアピールする。


 しかし、梓の勢いに押されてたじたじになっているエンジと、慌ててカウンターから出て二人の仲裁に入ろうとしている杏里沙と愛梨亜の方を見ると、片手で後頭部を掻きながら困ったようにそうボヤいたのだった。

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