配信名 フウちゃんのゲーム部屋
エンジの実家がある山の頂きにある寺、慈円寺には、本堂に名物となっている猫耳のついた仏の座像がある。
全くもってふざけているとしか言い様のない見た目をしている仏像ではあるが、一応有名な仏師が彫ったという言い伝えがあり、日中はこの珍しい仏像目当ての観光客がちらほらとやってくる観光スポットとなっている。
皆が寝静まった深夜二時過ぎ。日中とはうって変わって、誰もいなくなり静かになった筈の本堂の奥から、小さく騒がしい声が聞こえてくる。
まるで隠れるようにひっそりと佇む奥院には青白い明かりが灯っており、障子には時折ゆらゆらと大きな猫の耳の影が揺れていた。声はそこから聞こえてきているようだ。
「くっそっ! 当たらん! 何なんじゃコヤツ! 憎たらしい動きをしおってからにィ!」
中を覗けば、万年床となった布団の上に胡座をかいて、床の上に直置きされた無駄にカラフルに光るパソコンへ接続されたモニターを睨み付けながら喚いている猫耳の少女が一人。どうやらゲームをしているようだった。
「弾が当たらんっ! こんなことあるかぁ!? クソっ! 嘘じゃろこんなの!!」
画面には銃を持ったキャラクターが敵を倒そうと健気に弾丸を発射しているが、その弾丸が巧みに避ける敵に当たることはなく、少女の不満が貯まっていく。
「おっ! ようやった! 皆、好機じゃ! 撃て撃て!!」
一人避け続ける敵に横合いから撃たれた仲間の弾丸が当たり隙をつくる。そのチャンスに少女は歓声を上げ、仲間に攻撃を促した。
遂に捉えられたその敵は、仲間の総攻撃によって撃破され、猫耳の少女のチームはその試合の勝者となった。
「やった! やったぞ! ちゃんぴおんじゃあ! ようやったぞ皆の衆!」
「最後の横からの一撃が決め手だったね」
「そうじゃの、あれは見事だった! あれのお陰でヤツに隙が出来たからのぅ」
「フウちゃんも上手かったじゃん」
「うへへ! 誉めても何もでやせん……ぞ……?」
勝った興奮で気分良く画面に向かって話しかけている少女は、後ろから掛けられた声に調子良く答えていくが、この奥院には自分一人しか居ない事を思いだし、顔を青くしながらゆっくりと振り向く。
「や! 勝利おめでと、フ・ウ・ちゃん!」
「ひ、ひあぁぁぁ~!!! ナツちゃんっっ!!?」
それからしばらくして落ち着いたこの部屋の主である風猫は、有夏が居ることに気付いていたのにも関わらず何も教えてこなかった視聴者達に対して一頻り怒ったあと、配信を終了した。
「全くアヤツらときたら、我が慌てふためくのを見て楽しむとか、罸でも当ててやろうかのう……」
「そんだけ皆に愛されてんるんだよ、フウちゃんは」
配信を終えたあとも風猫はムスムスと視聴者に対しての不満を吐き出していた。できるかどうか分からないような物騒な事を口走る彼女に、有夏は悪びれもせずに風猫の配信者名を呼びながら話しかける。
ちなみに有夏達もたまにゲストとして配信に参加しており、配信内で有夏自身はナツという名前で呼ばれていた。
「もう! 有夏様もですぞ! イタズラが過ぎます」
「ごめんごめん。あんなに驚くとは思わなくてさ」
「あんなに完璧に気配を絶って後ろに居られたら、儂とて驚きます」
「そう? じゃあ今度はもうちょっと手加減するね」
「出るなら普通に出てくだされ。もう今日は視聴者のウケが良かったのでいいですが……。と、ところで、庵と飛燕の様子はどうですかのぅ?」
ケラケラと笑い、飄々とした態度の有夏に、まあ何か放送事故があっても視聴者の記憶消せばいいかと諦めた風猫は、もじもじと指を弄りながら双子の事を聞いた。
「昼間は癇癪起こしてたけど、今は落ち着いててエンジに引っ付いて寝てるよ」
「そうですか! なれば良いのです」
有夏が現状を伝えると、風猫はパッと顔を輝かせ、安心したように胸を撫で下ろす。
「風猫も気付いてたんなら、止めに行けば良かったじゃん」
「いやぁ~、幾ら我でも流石に家族の事に首を突っ込むのも憚られましてな。ましてや幸庵らの気持ちも、庵達の気持ちも理解できますからのう」
有夏にそう突っつかれながらも、悩ましいといった表情でウンウンと唸る風猫。心情としては庵に肩入れしたくとも、長い時を生きた神だか仏だかもどきの妖怪は、こちら側の世界の危険を知りすぎていた。
同時に、なればこそ庵と番となって双子を護らねばという若干邪な思いも抱く。
「幸庵さん達、双子に色々と伝え忘れてたらしいよ?」
「……それは、あやつらが悪いですな」
流石にそれは擁護できなかった風猫は、真顔で幸庵達を非難するのだった。
「そういえば、今更ながら有夏様はどういったご用件で? 儂の配信に出たかった訳ではないのでしょう?」
それからしばらく雑談を続けて気を取り直すと、有夏に用向きを尋ねた。
「まあちょっとね。風猫に聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと?」
真剣な顔でそう言った有夏を訝しみ、眉に皺を寄せながらも風猫は聞く体勢をとる。
有夏は少し顔を曇らせながら彼女にこう尋ねた。
「うん。宍枌山についてちょっとね……」
風猫はその名を聞き、盛大に顔をしかめたのだった。
恐らく今年の投稿はこれで最後だと思います。
異様に筆が進んだら違うかもしれませんが、今のところはそうです。
あと、なんとなく章を追加してみました。
ただ使ってみたかっただけです。
来年も適度にやっていこうと思います。




