「果てはいけない」
短いですが、とりあえず。
一通りのお説教が終わり、エンジ達は場所を母屋の居間に移す。
そこでは離れに姿を見せる事のなかった幸庵が待っていて全員を出迎える。
少し疲れた様子の彼は車を停めたあと、慈円寺家から聞こえてくる騒音に何事かと様子を見に来たご近所さんへの事情説明をしていて、納得して貰う頃には事態は収まっていた。
この時の説明によって、飛燕と庵はそれからしばらくの間、ご近所の方々からやんちゃ坊主を見るような生暖かい目を向けられる事となり、非常に恥ずかしい思いをする羽目になった。
この経験により、二人は二度と暴れるまいと強く誓い、コンプレックスもほんの少しだけ改善し、成長することとなる。
そんな未来の話は兎も角、現在の二人は居間から見える中庭でエンジ、有夏と楽しそうに遊んでおり、両親と愛梨亜、杏里沙はそれを窓越しに眺めながら話をしていた。
「いくよぉ、庵! ほいっ!」
「うわぁぁぁ~い!!」
「……昔より高い」
「庵~! 着地ミスらないでよ~?」
有夏に両手を掴まれた庵がハンマー投げのようにグルグルと振り回され、何周かした後に上空に向かって放り投げられる。
二階建ての屋根よりも少しだけ高く投げられた彼を、左手で庇を作りながら眺めるエンジと、驚くでもなく当然のような顔で呑気に声を掛けている飛燕。
常人なら間違いなく怪我をしているところだが、当の庵といえば、非常に楽しそうな歓声を上げながら空中を舞い、着地体制を整えて怪我ひとつせず着地する。
その際に大した音も立てない様子はまるで猫か何かのようだった。
「有夏お姉ちゃん! 次っ! 次、私ね!」
「はいはい、任せんしゃい。何回でも空の果てまで飛ばしてあげるよ」
「果てはいけない」
「物の例えだよ、エンジ。ホントにそこまではしないって」
「よかった」
三人が庵の着地を見届けると、次は飛燕が自分の番だとせがんでくる。
有夏が軽口を言いながら飛燕の手を掴んで準備していると、軽口を真に受けたエンジが首を振りながら、手で宥めるような動作してツッコミを入れた。
彼女は有夏が本当にそれを実行できるだけの力を持っている事を知っているためツッコんだのだが、勿論冗談であるので有夏は反論する。
それを聞いてホッと胸を撫で下ろしているエンジに、有夏は苦笑いをしながら「信用ないなぁ」と溢して飛燕を庵と同じ要領で振り回し、投げ飛ばしたのだった。
先程から何回も繰り返されているこの行動は、驚いたことに彼女らの定番の遊びであり、投げ飛ばされた時の高度こそ違えども、幼少期からずっとされているものであった。
年齢と共に徐々に上がっていく高度に、最初は両親も危険視しこの遊びを咎めていたのだが、止めたところで結局有夏達は双子に強くせがまれると拒めずにやってしまい、また加減が絶妙なお陰か特に怪我もしないため、徐々に注意するのを諦め、今では何かしらの術を使うことも無く遊べるように適応、成長した身体能力に感心しながら眺めるに至っている。
そんな軽く常軌を逸した光景にも、それを誰も止めないという事実にも、エンジの右腕の上に乗せられたミカちゃんは驚き、同時に引いて身を固くしていたが、完璧に縫いぐるみの振りをしていた彼女の内心に気付く者はいなかった。
それからも何回か順番に飛ばされるのを繰り返し、双子が空中遊泳を十分に満足した所でその遊びは終了することとなる。
自身は参加せずに一部始終をずっと見守っていたエンジは、双子から抱き付かれ歩きにくそうにしながら、先んじて有夏が開けていてくれた窓から両親達の居る居間へと帰っていく。
冷房の効いた居間にて、にこやかに会話をしている愛梨亜達と両親の間のテーブルには先日のテストの結果が並べられており、四人のテストの出来について報告していたようだった。
「あら、もう良いのかしら?」
居間に入って来た一行に愛梨亜が声をかける。
「うん、もう大満足だよ! 愛梨亜お姉ちゃん!」
「久し振りだったから楽しかったよ、愛梨亜姉さん」
興奮した様子の飛燕が抱きついていたエンジに一言断ってから愛梨亜の元へ駆けて行き、楽しそうに抱きつきながら答え、スキンシップを図る。
対象的に庵はエンジを放しはしたものの、駆けて行くことはせずに落ち着いたら様子で、自身が感じた楽しさを伝えてくる。
「そう。なら有夏が頑張った甲斐があるわね」
じゃれついてくる大型犬のようになっている飛燕の頭を優しく撫でながら、愛梨亜は有夏へと話を向ける。
「昔より大きくなったから、加減は少しだけ楽になったね。エンジに比べて良く成長してくれたよ」
「……有夏がいじめる」
「まあまあ、エンジも大きくなってますからね。…………ほんの少しですけど」
「杏里沙……むぅ」
有夏と杏里沙にからかわれてエンジは少しだけむくれるが、それは決して怒っている訳ではなく、いつもの軽いじゃれあいだった。
しかし、むくれた彼女を見た飛燕が血相を変えてエンジに飛び付いてきた。
「エンジお姉ちゃん! エンジお姉ちゃんはね、ちっさいのが良いんだよ! このスッポリ収まるサイズ感がカワイイのっ!」
「そ、それに喫茶店もやってるなんて、僕らよりよっぽど大人だよ! エンジ姉さんは身長よりも、よっぽど大きな存在さ!」
彼女は後ろから覆い被さるようにエンジを腕の中に抱え込むと、勢いに任せて抱き締めながらフォローのような何かを発した。
その飛燕のフォローにもなっていないフォローに慌てた庵も、自身が小さな姉の尊敬できる所を大仰なまでに誉め称え、エンジが本当に怒り出す前に必死に煙に撒こうとする。
「飛燕、庵……。お姉ちゃん嬉しい」
庵の努力の甲斐あってか、エンジは飛燕の若干失礼なフォローにも気付かずに感極まったように喜び、つま先立ちになって精一杯背伸びをしながら、下げてもらった二人の頭を順々に撫で回す。
そうして撫で回された双子は、相好をだらしなく崩しながらニヘニヘと笑う。その笑顔は、決して外ではお見せすることの出来ないような、非常に気色の悪い笑みだ。
しかも体をくねくねと捩らせているのが、気持ち悪さに拍車をかけている。
相変わらずエンジの右腕に乗っけられていたミカちゃんは、その光景を近くで目の当たりにしてしまい、小さな頃にあった時は可愛らしかった二人の余りの変化に眩暈がする気分だった。
例によって誰にも気付かれることはなかったのだが……。
ついには姉へと抱きついてエヘエヘとだらしなく笑っている双子に、居間にいる全員がうわぁ……と顔を引きつらせる中、エンジだけが全く何も気にすることもなく双子の事を甘やかし続けたのだった。
最近体調があまりよくないことが多いので、今回はこれだけです。
続きはぼちぼちやっていこうと思います。




