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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
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「まってて~」

本日全ての授業が終わり放課後のチャイムが鳴った。


「じゃあ私とエンジは委員会に行ってくるわ。さあ、エンジ起きて、委員会に行くわよ」


 そう言って愛梨亜は五限目の途中からゆらゆらと頭が揺れ始め、少しして机に突っ伏し、そのまま放課後の今まで眠っていたエンジの肩を揺すり、起きるように声をかける。すると、うにゃうにゃと何かを言いながら彼女がゆっくり目を開き周りを見回したあと、焦点の合わない目で愛梨亜の顔を見つめる。

 そんな彼女を見た愛梨亜は仕方ないと呟き、エンジを抱き上げた。


「このまま行ってくるわ。終わったら連絡するから、二人は好きにしながら待っていて」

「まってて~」


 愛梨亜が二人にそう言うと、エンジもふにゃふにゃとそう言い、そのまま教室を出ていく。

 そんな彼女達のことを笑って見送りながら、有夏は杏里沙に問いかける。


「さて。じゃあ、あたしらはここで待ってますかね。それでいいでしょ?」

「そうですね。帰りにスーパーで何を買って帰るかでも決めましょう」


 すると隣の八巻が声を掛けて来た。


「海野さん、陸井さん、今日はありがとうございました。お陰で助かりました」

「いいよ、気にしないで。お隣さんなんだし助け合い精神ってやつだよ」

「そうですよ。今後も何か困った事があったら聞いて下さい」

「ありがとう、そのときはそうさせてもらいます」


 二人は笑顔でそう答える。


「じゃあ俺はもう帰るので、あのお二人にもよろしくお願いします」

「わかりました。さようなら」

「じゃあねー、また来週」

「はい。お二人ともさようなら。また来週」


 八巻が笑顔で彼女らと挨拶を交わすと、彼は教室を出ていった。彼が十分に教室から離れ、気配を感じなくなると有夏が杏里沙に言った。


「で、アレの事どう思う?」

「確実なことは言えませんが、要警戒といったところですね。一緒に購買に行った時も警戒はされていましたが特に何もなかったです。あと、昼休みの時に恐らく認識阻害が弱まりましたね」

「あれはエンジが答えちゃったからね、仕方ないよ」

「エンジにはよく言っておかないといけませんね」


 そう言ってため息を吐く杏里沙、それを苦笑で見ている有夏。二人は目を見合わせるとクスリと笑い、話題の彼女の事を思う。


「もう少し、しっかりして欲しいところです」

「ダメだよ。前からああだったじゃない」

「それは……そうなんですけど」

「それに浄化が終れば、エンジの負担も減るから」

「あと少しですね」

「なにも無ければね」


 少ししんみりとしながら話をしている間に、教室内には二人以外の生徒は誰もいなくなっていた。


 教室を出てからしばらくするとエンジの目も覚め、二人は手を繋いで委員会のある場所を目指し歩いていく。道中の廊下は部活や帰宅する生徒が多く行き交っているが、相当に目立つ容姿をした二人に意識を向ける者はいない。

 そうして目的の図書室へと近付くにつれ人気もまばらになっていく。


「今日は何かな?」

「さあ? わからないわ。でも、二人を待たせているのだから、早く済む話ならいいわね」


 話をしながら本日委員会につき利用できませんと書かれた札の掛かった図書室のドアを開けると、数人の生徒と教員がいた。


「失礼します。遅くなりまして、申し訳ありません」

「ありません」


 二人はそう言って会釈をしながら部屋へと入る。


「こんにちは空見さん、慈円寺さん。まだ全員揃っていないので大丈夫よ」


 そう言って先輩の図書委員長はにこやかに挨拶をする。


「そうなんですか、よかったです。それで今日は何があるんですか?」


 愛梨亜は彼女にホッとしましたという表情を見せ、次いで気になっていた事を聞いた。


「詳しくはみんなが揃ってからだけど、本の貸し出しのルールが変わるのでその話をするの」

「ルール変わるの?」

「ええ。最近返却期間が短いって苦情が増えてね、その対策なの」

「本好き増えた?」

「そうだったら良いんだけど」


 質問したエンジに複雑そうな表情をしながら図書委員長はそう答える。


「違うの?」

「わからないのよ。全部意見箱に投書してあったから誰が書いたのかわからないの。それも普通のときの何倍も多くね」

「いたずらという事はないんでしょうか?」

「いつもは多くても二枚くらいの意見書が何枚も入っていたのよ。私も見たけど、全部手書きで筆跡も文章も違ったの。意見書は匿名でも有効だし、本の延滞も少しだけどあることにはあった。それに意見の内容は特に変な意見でもないから、一応、先生がルールを変える事にしたのよ」


 そう言って彼女は、先に図書室にいた生徒と話をしている教員の方を見る。釣られた二人もそちらに視線を向けた。


「不思議な話ですね。そもそも図書室の利用者はそんなに多く無かったと思いますが」

「そうね。先生もそこが変だと言っていたけど、いたずらとも言いきれない以上そうした方が良いと言っていたわ。確かに返却期間が延びるだけで、そこまで大きな変更ではないしね」


 図書委員長は仕方なさそうにそう言う。しかし、少しの違和感のせいで納得はしていないようだった。


「仕事は変わらない?」

「ええ。仕事内容自体は変わらないわ、変わるのは返却期間だけ」

「よかった」

「慈円寺さんは頑張って働いているから、そこは気になるわよね」


 彼女はエンジにそう言って近付くと、膝を屈めて笑顔でエンジの頭を撫でる。撫でられたエンジもニコニコと嬉しそうに目を細める。それを愛梨亜がにこやかに見ていると、気づけば図書室には図書委員の生徒が続々と入ってきていた。しばらくして全員が集まり手近な席に着くと、教員が会議の始まりを告げる。

 そうして話される内容は先ほど聞いた話であり、他の委員から異議も出なかったため、その後は手順の確認とこまごまとした連絡だけで、すぐに図書委員会の集まりは終わったのだった。

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