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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
35/62

帰り道にて 2

 八巻と二人してさめざめと涙を流す柊を宥めつつ、軽く事情を聞いた有夏は苦悩することとなった。


「柊、それ本当なの?」

「厄介事を頼もうってのに、嘘なんかつかねぇよ……」


 甲斐甲斐しく二人に宥められ、平常心を取り戻しつつある柊が、申し訳なさそうにしながらも有夏の問いにしっかりと答える。

 柊が落ち着いた事に安心した八巻が有夏の方を伺えば、彼女は眉間に皺を寄せ難しい顔をして唸っていた。


 無理もないなと八巻は思う。僅かな時間だけだが、端から見ていても二人の仲は良さそうに見える。

 基本的に有夏は他人に対してフレンドリーだが、決して深くは関わらないようにしているようだった。こんなに丁寧に相手の話を聞いて事情を考慮するのは、八巻の知る限りではエンジに対してくらいだ。

 そんな彼女がこんなにも悩んでいるというだけで、その仲が伺えるというものだった。

 有夏は出来ればお願いを聞きたいのだろうが、その内容が問題だった。


「……とりあえず、あたし一人で判断できる話じゃないよ」

「わかってる。無理言ってることも、エンジじゃなくて有夏に頼むのが筋違いだってのもわかってる……けどよ!」

「柊。一応エンジに話はするけど……正直、あたしは受けさせたくない」


 硬い表情のまま、すまなそうにそう言った有夏に柊は取り繕った笑顔で、それもわかってるとそう言った。


 それ以降、彼女達は一言も喋ることはなく、八巻が促したことで三人は移動を再開する。軽く事情を聞いただけでも、どちらの心情も理解できてしまった八巻が非常にいたたまれない思いをする中、一行は駅へと着いた。


「有夏、あたしの頼みは駄目で元々なんだ。それに今はまだヤバい状態じゃない。だからそんな顔すんなよ。あたしのせいとは言え、友達にそんな渋い顔して欲しくねぇんだ」

「……わかったよ」

「なに、エンジの事は言いふらさねぇし、手伝いはちゃんとやる。約束だからな!」

「ありがと、柊。お願いね?」


 歩いている間に完全に気を取り直したらしい柊が、いまだ難しい顔をしていた有夏へいつもの調子で話しかけると、一旦棚上げすることに決めたらしい有夏も笑顔を見せる。その二人の様子に八巻もホッと胸を撫で下ろした。

 

「任せな! で、次は今度の日曜でいいか?」

「あぁ、ゴメン! その日は駄目なんだ」

「何かあんのか?」

「ちょっとほったらかしにしてた慈円寺の家に行かないとマズイんだよねー」


 そう言って気まずそうにする有夏に柊はくすくすと笑うと、じゃあまた連絡くれよと言って、改札の奥へと消えていった。去って行った彼女を見送るとその場に残った二人は話はじめる。


「となると、その日は俺のバイトも休みってことだよね?」

「そうなる。あと、八巻」

「な、何でしょう?」

「名前呼んだだけで、そうビビんなよ。……居てくれて助かった。ありがとう」


 有夏が礼を言うと八巻はとても驚いたような顔をして一歩後ずさった。そのリアクションを受けて有夏は不服そうに言う。


「……なにさ、その反応?」

「いや俺、海野さんに嫌われてると思ってたから、そんな事でお礼を言われるなんて意外で……」

「完全に許してはないけど、それとこれとは話が別。ありがたいと思った事にはちゃんとお礼は言うさ。柊と二人きりだったら、きっと際限無くエスカレートしてた」

「一人でおろおろしてただけだけどね……」

「それが良かったんだ。八巻の情けない所を見て、あたしも柊もほんの少し冷静になったし」

「情けないって……」


 その言葉でまた情けない顔をしながら項垂れて、肩をガクッと下げた八巻に、有夏は優しい笑みを浮かべた後、バシッと音をたてて背中を叩いた。ビックリした八巻が飛び上がると有夏は声を上げて笑う。


「いきなり酷いなぁ!」

「アハハッ! そんなに驚くとは思わなかった。でも、そこまで痛くはなかっただろ?」

「まあ、そうだけどさぁ!」


 抗議の声をあげた八巻を軽くいなして有夏は笑った。


 ひとしきり笑うと話は柊の事へと移っていく。


「それにしても、五塔杢さんの話には驚いた。俺の中の常識がまた一個壊されたよ」

「……正直あたしは今のエンジに浄化をさせたくないね」

「慈円寺さんの負担の事を考えればわかるよ。というか、俺が無駄に慈円寺さんの力を使わせちゃったせいでもあるんだよね?」

「わかってんじゃん。本当は今日の浄化も負担を考えたら止めて欲しかったくらいさ。他にも色々理由はあるけど、そのくらい八巻のやらかしは影響がデカイんだ」


 冗談めかしながらも、恐らく浄化時の負担以外にもこれから徐々に表面化してくるであろう大小様々な問題を思い、有夏は苦笑いを浮かべ、八巻は顔を曇らせる。


「……慈円寺さんにも五塔杢さんにも申し訳がたたないよ」

「そうやって反省してるだけマシさ。世の中には長老衆っていう反省も償いもしない輩がいるからね」

「あの婆さんとだけは比べられたくないわ。……俺にできることはない?」


 フォローを受けて苦笑いを浮かべた後、八巻は真剣な表情で自分にできることを尋ねたが、有夏は首を横に振って否定した。


「八巻に瘴気を浄化する方法がない限りはないね」

「それは俺には無理だ。向こうでも穢れはかなり特殊な人じゃないとどうにもできなかったから……」

「あたしとしては、どうにかできるヤツが少しでもいる事に驚くね。この世界には表向きいないって事になってるから、普通は封じて滅するんだよ。実際、浄化できるのエンジだけだし」

「でも、五塔杢さん達はそうしなかった」

「助ける手段を探す苦労も、見つけた希望に賭ける気持ちも痛い程分かるんだ。友達だし、何よりあたしらも同じようなもんだからね。でも、それでもあたしは……」


 八巻はそう言って再び苦しそうな表情で苦悩し、思考の渦へと沈み込もうとしていた有夏の左肩に手を置き、彼女の注意を引くと極力お気楽な雰囲気で言った。


「とりあえず、陸井さんと空見さんに相談してから悩んだらいいと思うよ?」

「そんな事はわかってる! 当然だろ!」

「ならよかったよ」


 有夏は不満そうにそう言うと肩に置かれた手を払う。八巻はそのまま両手を上げて降参を示すと明るく笑いながら有夏から離れた。そんな風におどけつつも不器用に励ましてきた八巻を呆れたように見て、有夏はため息を吐いて気持ちを入れ替える。


「あたしらが言うまでエンジに漏らさないでよ?」

「大丈夫! 俺、これでも口は硬い方なんだ。ちょっとやそっとじゃ口は割らない自信しかないね!」

「フラグ立てんな!」


 そうして二人は笑いあうと別れの挨拶をしてそのまま各々の帰路へとついたのだった。

恥ずかしながら最近気が付いたんですが、誤字報告が来ていました。ありがとうございます。




あと、厄介事の内容をひっぱってるのは、まだ内容をあんまり考えてないからです。これから考えます。

こんな感じで適当かつ行き当たりばったりで不定期な更新ですが、細々と続けていこうかと思います。

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