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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
32/62

「ただいま」


 仕事を終えたあと、何のかんの理由をつけては寄り道をしていくエンジとミカちゃんに若干キレつつも柊は根気よく付き合い、三人は行きの倍の時間をかけて四日堂まで帰ってきた。

 すでに周りのビルの光は消えていて、薄暗い路地の中そこだけが浮き上がるように照らされているドアを開くと、中には珍しく全席が埋まり、来ている客全員でバイトをいびり倒している光景があった。

 

 そのバイトである八巻は、絶え間なく続く注文とキャンセルの嵐に揉まれ、不慣れ故に注文を間違えれば客から怒声を浴びせられ、謝る間もなくすぐに他の客の注文を取りに行けとその客に命令される。そこにいる客の全員が結託しているため、延々とそのループに晒された八巻は精神的にもうボロボロで、異世界に落ちた初期の頃を思い出していた。


 愛梨亜と杏里沙といえば有夏を送り出したあと、その煽りを受けて延々と料理を作り続ける羽目になり、客の暴走を止める暇がない。仮に暇があったとしても決して止める事は無かったであろうが。

 今日集まった客は皆、エンジを攻撃した八巻に対する鬱憤を晴らしに来た者達であり、コレを止めると次は暴力に訴える事になるであろう。今は一応、自分達の保護下ということになっていて、襲われても抵抗する手段の無い八巻の安全のためにも止めるわけにはいかなかった。


 決して八巻に対していい気味だとか思っているわけではないのだ。


 そんな混沌とした店内に仕事を終えた三人が入ってきた。


「ただいま」

「おう、愛梨亜、有夏、杏里沙。無事に終わったぞ!」


 そう言った二人とエンジの肩に乗って人形の振りをしているミカちゃんが入ってくると、店内から次々におかえり、や、よく頑張った! などと(ねぎら)いの言葉が飛んで来る。客は皆さっきまでの事をすっぱり忘れたかのように機嫌良く迎え入れた。

 

「おかえり。その様子だと上手くいったみたいだね」

「楽勝だった」

「あら、そうなの? 柊に迷惑はかけなかったのかしら?」

「かけてない」

「それなら良いです。頑張りましたね、エンジ」


 二人より先に帰ってきていた有夏が近づき、素知らぬように振る舞って迎え入れると、愛梨亜と杏里沙も料理の手を止めてカウンター内から出てくる。


「柊もありがとうね。大変だったでしょ?」

「まあ、それなりにな。気になることもあるし……」

「それは後で話しましょうか。今は夕飯をご馳走するわ」

「……そうか。そうだな! よろしくたのむ!」

「ということですので、皆さん今日はこれで閉店になりますからオーダーストップでお願いしますね?」


 杏里沙が客達に向けてそう言うと、みな文句一つ言わずに受け入れた。常連の客達にとってはエンジの気分次第で突然営業が終了することなどはザラで、慣れていたのだった。


「……た、助かった……」


 そんな大らかな客達が、残っていた自分の料理を片付けたり、帰り支度を始めて店内がざわつき始めた中、誰にも注目されなくなった八巻が一人安堵し呟いた。


 その後、愛梨亜と杏里沙は残っていたオーダーを全て出し、客達は会計が終わった者からどんどんと店を後にする。その際にみな会計をしている八巻を睨み付けて、一言ボソッっと不満を告げていくのを忘れない。そんな光景をしり目に有夏は空いたカウンター席を片付け、ミカちゃんを預かるとエンジと柊の二人を席に案内した。


「それで柊、実際仕事はどうだったのかしら?」

「……上出来だ。まあ、あたしの想定とは()()()違ったけどな……」

「えっへん」


 二人に出す夕食の調理をしながら愛梨亜が問いかけると、柊は微妙な顔で返答する。その返答を聞いて胸を張ったエンジ。誉められていると一切疑っていないその仕草に、愛梨亜も杏里沙も苦笑した。

 そして柊はそのまま仕事中の出来事を順々に説明していく。しかし、彼女にも理解出来ない事態が起こった場面に差し掛かると途端に口数が少なくなる。柊は有夏に目線をやるが、エンジに隠れて見守っていた事を知られたくない有夏が口を出すことは無かった。

 その代わりに杏里沙が助け船を出す。


「真樺駅は多かったですか、エンジ?」

「ううん。そんなに」

「無事に行けたのかしら? はい、スープよ」

「うん。いただきます」

「……三人ともアレについて何か知ってんのか?」


 スープに口をつけながら事も無げに肯定するエンジを横目に、柊は己の疑問を三人にぶつける。


「まあそうね。はい、スープよ」

「ありゃあ一体何だ? 何したらあんな薄い瘴気から怨霊もどきが出てくんだよ?」


 愛梨亜からスープを受け取りつつ、柊は彼女を睨み問いかける。その様子は真剣そのものだった。スープを作り終え、手の空いた愛梨亜は、ふうとため息をつくと柊に向き直る。


「常々思っているのだけれど、薄い瘴気だからって問題がないわけないじゃない」

「……どういうことだよ」

「濃い薄いじゃなく、あること自体が問題なのよ。誰も彼もそこが分かっていないわね」


 愛梨亜が呆れの感情を滲ませながら嘆き、柊が戸惑っていると、肉の焼き加減を見ながら杏里沙が説明する。


「瘴気があるということは、それを発する何かがあるということです。そして、その何かが起こす問題の大きさは、私たちから見れば濃度には全く関係ないんですよ」

「……は?」

「話を聞くに、今日エンジが捕まえた怨霊もどきは吸い込んで溜め込むタイプね。こういうのは限界が来ると突然暴れだすのよ」

「おい待て! そんなの聞いたこともねェぞ!」


 畳み掛けるように話される聞いたこともない話についていけなくなった柊が立ち上がって叫ぶが、二人は全く配慮することもなく説明を続ける。


「つまり瘴気があるところには必ず何か原因となる核があって、それはあなた達みたいな実力者でも気付けない、より深く、ずれた所にあるのよ」

「エンジも私たちもそれを見ることが出来ますし、干渉もできるんです」


 何気なく明かされた四人の能力に柊が絶句していると、ずっと黙っていた有夏が軽い雰囲気で柊の肩に手を掛け優しく座らせると話に入ってきた。

 

「まぁ、あんまりやんないけどねー。メンドイし、普通はそこまで問題にはならないし」

「そういった訳で、皆さんがいつも祓っているのは表にまで影響が出てきた厄介なモノがほとんどですね」

「それが本当ならなんで周知しないんだよ!?」

「言ったところでさ、知覚できないんだから無駄でしょ?」

「なっ……!」


 笑顔の有夏は極めてドライにそう言うと、二人もそれに同意する。

 その物言いには思うところはあれど、冷静に考えれば全くその通りで、そもそも知覚できないものをどうこうする事など出来ない。そう自分を納得させた柊は、カッと熱くなった感情をグッとこらえてため息と一緒に吐き出した。


「はぁ~。例えそうだとしてもよぉ~。……まぁいい。いや、決して良くはないが仕方ねぇ。で、結局今回エンジは何したんだ?」

「うぇ? ふぁい(なに)?」


 気持ちを切り替えた柊が、隣で普通の倍の量はあるスープを一心不乱に啜っているエンジを横目に改めて三人に問いかける。一方その視線に気付いたエンジだが、食事に集中するあまり話を聞いていなかったためスプーンを口に咥えたまま頭にはてなを浮かべていた。


エフェクターを自作してたりしたら、こんなに時間が経ってた。


驚き!

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