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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジとお仕事
29/62

「……わかった」


 放課後になり四人は一度家に帰る八巻と別れて自宅であるビルに帰ってきていた。

 祓い屋の仕事は基本的に夜に行われることが多く、今回も例に漏れず夜からの仕事だった。現場までは柊と一緒に行くことになっていて、彼女はここまで迎えに来てくれる約束になっている。

 まだ迎えまでは時間があるとはいえ開店準備をしていては間に合わないので、四人は帰ると同時に自宅ビルの四階にある衣装室に直行する。衣装室の扉を開けるとそこには相変わらず大量の衣服を納めたクローゼットの森があり、四人はその奥へと進んでいく。奥には厳重に閉ざされた扉があり、愛梨亜はその扉についている鍵穴にポケットから取り出した鍵を入れ開けた。


 扉の中は6畳程の部屋になっており、窓は無く正面の壁には剣や槍、果ては銃などの多種多様な武器が掛けられ、左右にある棚にはそれぞれ仕事用の衣装や護符、アクセサリーなどが綺麗に整理され納められていた。


「さあ準備を始めましょうか」

「エンジ着替えるからこっちに来てね」

「……わかった」


 そう言って気合いを入れて装備を選び出す愛梨亜と棚からエンジの仕事用の服を取り出して、部屋の隅にある更衣スペースへとエンジを連れていく有夏。ここに来てやっと覚悟が決まったエンジが有夏と共に更衣スペースへと入って有夏に着替えを手伝って貰う。


「ミカちゃんはわたしとこっちに居ましょうね」

「ウン。ココ、スゴイネ。ホンモノ?」


 エンジから離れたミカちゃんを杏里沙が抱え、抱えられたミカちゃんは杏里沙の腕の中から部屋を見回し感嘆する。特に壁に掛けられた武器類に興味を引かれたようで、杏里沙に本物かどうかを聞いてきた。


「ええ、本物です。大半が依頼で回ってきた元は善くないものが憑いていた妖刀の類いですが、わたし達が祓って確保したものですね」

「モッテテ、ダイジョウブナノ?」

「バレると不味いですけど、認識阻害でバレないようにしているので問題ないですね」

「ワルイコダナー」

「ふふっ、そうかもしれませんね」


 杏里沙がミカちゃんと和やかに話している前を棚を漁っていた愛梨亜が更衣スペースへと行くために横切る。その両脇には多くの荷物が抱えられていた。

 更衣スペースを区切っているカーテンを開き、中に入って行くと入れ替わりで有夏が出てきた。


「サイズは大丈夫でしたか?」

「ぴったりだったよ」

「よかったです。しばらく着ていませんし、もしかしたら合わなくなっているかもしれないと思っていましたから」

「エンジは微妙な顔してたよ。着る前までちっちゃくなってたらどうしようって言ってたけど、着ていったらどんどん無言になっていったからね」

「成長に期待してたんですね……」

「エンジチャン、ゼンゼンカワッテナイヨ?」

「ミカちゃん、それはエンジには言わないでいてあげてくださいね」

「ワカッタ!」


 しばらく更衣スペースからごそごそと音がしていたが、それが止むとカーテンが開かれた。愛梨亜と共に出てきたエンジは赤い袴を履き、半袖の白いシャツを着て、全面に花の刺繍の入った豪華絢爛な羽織を羽織っていた。腰には小さなポーチを巻いており、中には各種の護符が納めれている。羽織の内には収納ポケットが幾つも付いており、愛梨亜が持って来た大量の小物装備はそこに納められていた。


「スゴーイ! カッコイイネ!」

「似合ってますよ、エンジ」

「ありがとう」


 二人の称賛にエンジも満更ではない顔をすると、背中側も見たいというミカちゃんのリクエストに応じてクルリと一回転をすると、ふわりと羽織が靡く。それはまるで天女の羽衣のようで、とても両脇に抱える程の装備が内に秘められているとは思えなかった。


 最後の仕上げに靴底に金の文様が彫られている頑丈なブーツを履いて、エンジの仕事用の装いは完成した。


 エンジの準備が終わると次は四日堂の開店準備に取り掛かる。全員で一階に降り店の中に入ると愛梨亜達三人はそれぞれの持ち場に別れてきぱきと準備を始め、エンジはミカちゃんと一緒に定位置のソファーに腰掛けた。

 大方の開店準備が終わった頃、店のドアベルが鳴り五塔杢柊が顔を覗かせた。


「おっす! 迎えに来たぞ! エンジの準備出来てるか?」

「いらっしゃい、柊。準備は出来ているわ」

「柊、今日はお願いしますね」

「おう! 任せとけ杏里沙。簡単な仕事にしといたから心配要らねぇよ」


 迎えに来た柊と愛梨亜と杏里沙の二人が話している間に、有夏がミカちゃんを預かりながらエンジを連れてくる。


「お待たせ、柊。何か問題があったら絶対に呼んで。飛んでくから」

「だから簡単なの受けたって…………おい、有夏、このエンジの装備……」

「何かあったら困るからね。出来ることは全部したよ」

「いや、やりすぎだろ! なんだこの生地、まさか神霊紙か!?」

「今着てるのは全部そうだよ。ちょっとした(つて)で手に入れた奴で作ったんだ」

「バカかよ! どんなツテがありゃ、こんなにデカイ神霊紙の生地が手に入るんだよ! 家でも難しいぞ!? こんなの簡単な仕事に気軽に使えるモンじゃねぇだろ!」


 有夏に連れられて来たエンジの完全武装を見た柊は目を見開いて驚き、激しく動揺する。そんな柊にキョトンとしたエンジに慌てて近づくと、羽織の端を手に取り、じっと生地を見つめて有夏に問う。有夏の肯定に激しく突っ込みながらも羽織を持つその手付きはとても慎重だった。


 霊紙は霊木と呼ばれる特別な力を持つ木の枝から作られる紙で、特徴としては頑丈で火に強く、水に濡れず、瘴気や邪気といった悪いものを祓い浄めるというというものがあり、紐などに紙片を括り付け結界としたりするものである。

 通常は専門の修行を積んだ人間の職人が作るのだが、人ではなく神が力を込めながら作った霊紙は神霊紙と呼ばれ、ただの霊紙とは比べ物にならない程の効果がある。このため手に入れた者はまず手放すことは無く、ほぼ世に出回る事はない。たとえ何らかの事情で出たとして、それが切手サイズの神霊紙だったとしてもとんでもない額で取引される。

 

 エンジの着ている服はそんな神霊紙を細かく割いて糸状にし、それを織り上げた生地を使って縫われたもので、仮に取引に出したとしたら国一つ差し出しても釣り合いが取れないであろう代物だった。決して低い階級で受けられる仕事に着ていくような装備ではない。


「有夏が言ったように、先日みたいに何かあると困るのよ。ただでさえトラブル体質なのだから用心に越したことはないわ」

「コレ着てた方がトラブルに会いそうなモンだがな……」


 エンジは今着ている服の価値がわからないのかずっとキョトンとしていて、柊が何に驚いているのか理解していなかった。エンジからすれば知り合いから貰った物で仕立てた服という物でしかなく、羽織のデザインが派手で恥ずかしいなという感想しかない。たとえ市場での価値を知ってもその感想は変わらないだろう。

 柊は若干震えながら羽織から手を放すと、愛梨亜がこの装備をエンジに着せた理由を話す。その理由を聞いてもなお、柊には余りに過剰に見えて別の問題が起きそうだと思った。


「まあ、過剰過ぎるとはいえ、準備も出来てるならそろそろ行くぞ?」

「わかった」

「二人とも気を付けてくださいね」

「柊、今日は帰って来るまでお店を開いておくから、帰ったら何か食べさせてあげるわ」

「もちろん奢りだよ」

「マジか! ならさっさと終わらせて来るわ。行くぞ、エンジ!」

「行ってくる」


 愛梨亜達三人の反応から今から何を言っても装備を着替えさせる事はないなと悟った柊は、一旦その事を脇に置いて仕事に出ることにした。行こうと声をかけるとエンジも気合いを入れて頷いたのを見て出口へと向かう。

 そんな二人に愛梨亜達が言葉かけ、その内容に気を良くした柊がエンジの背を押して店を出ていった。


 二人が出ていってしばらくすると、八巻がバイトにやって来た。


「お疲れ様です。今日からバイトよろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いしますね、八巻君」

「こっちで着替えなさい。服を用意してあるから」

「わかりました。……あれ? 慈円寺さんは居ないの?」

「もう仕事に出たよ。今日の営業時間はエンジが帰って来るまでだから覚悟してね?」

「その、慈円寺さんはいつ帰って来るの?」

「さぁ? わかんないね」

「マジか…………」


 挨拶をしながら入って来た八巻を店の奥の物置に案内し、そこで制服に着替えるように言う。バイトをすることが決まってから急遽用意したので、制服は市販の安物の給仕服だった。腰に巻く黒いエプロンには白いマジックで『お手を触れないで下さい エンジ』と大きく殴り書きされている。

 制服がそんな事になっているとは露とも知らない八巻は、店内にエンジの姿が無いことに気づき有夏に問いかけた。すると有夏はエンジがもう出た事とこれから長丁場になるであろうという事を告げた。


 八巻は終電に間に合わなければどうしようなどと考えていたが、三人は直ぐにそんな事を気にしていられなくなるだろうと予想していた。なにせ今日来る客はもれなく八巻をいびり倒すだろうからだ。直接手を出せないフラストレーションをここで発散しようと、多くの者がやって来る事が手に取るようわかる。

 そんな未来を知らず呑気に着替えている八巻の受難の時間がもうすぐ始まろうとしていた。

ゆっくり書いてはいますが、しばらくはこんなペースかもしれません。

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