「祓い屋の仕事、代わりに行って!」
翌日、登校したエンジは朝から机にべったりともたれ掛かり不貞腐れていた。
頬を膨らませ机の上の拳を強く握りしめ全身で不満を表している。
昨日は一緒に本部に行かずエンジ達の自宅で燕に面倒を見てもらっていたミカちゃんは、そんなエンジにオロオロとしながらも小さなクマの手でエンジの手を握ったり、頬を撫でたりと甲斐甲斐しく慰めていた。
愛梨亜達三人といえば、そんな二人の事を気にしながらもエンジと柊が受けた依頼につけて行かせる装備について真剣に検討を重ねている。
三人の鬼気迫る空気にクラスの誰も声をかけられないでいると、ちょうど登校してきた八巻がその空気を読まずに挨拶をする。
「四人ともおはよう。先日はありがとう」
「あぁ? ああ、なんだ八巻か……」
「おはよう八巻。悪いのだけど少し黙ってて貰えるかしら」
「おはようございます八巻君。すみませんが今取り込み中ですから、用事なら後にして貰えますか?」
「あっ、はい。わかりました。すみません……」
声をかけられた愛梨亜達は鋭い目付きで声がした方を睨み付け、相手が八巻だと分かるとぞんざいな対応をした。
三人の気迫に気圧され、一歩後ずさりしながら謝る八巻。そんな八巻の勇気があるのか、ただ空気が読めないだけなのかわからない行動を見ていたクラスメイト達が、自分達にはとてもできないと讃え一目置いた。
そんなイヤな讃え方をされた八巻は内心少しクラスメイトに引きながらエンジに事情を聞く。
「慈円寺さんも三人もどうしたの? もしかして俺のせいで何かあった?」
「あった言えばあった」
「マジか。本当にゴメン慈円寺さん。俺になんかできることある?」
「……仕事代わって」
「え?」
「祓い屋の仕事、代わりに行って!」
「えっと……それはどうなんだろう……」
近づくとエンジも何か不機嫌そうな事に気づき何か問題があったのかと八巻が尋ねると、エンジが珍しくキレ気味にそう叫んだ。もちろん貧弱なエンジが叫んでもそう大した声量ではなかったが、その必死さは伝わった。
八巻も自分のせいらしいので変われるなら変わってあげたい所だが、祓い屋の仕事という点で今の自分には不可能だと察する。結果答えをはぐらかすように愛梨亜達三人の反応を窺う事になった。
「エンジ、自分で仕事をこなさないと昇級出来ないのよ? そうじゃなければ私達が代わってるわ」
「うぅ~」
「わたしたちも心底心配ですけど、こうなっては仕方がないんです」
「でもぉ~」
「柊も付き合ってくれるから頑張ろう? ね?」
「……うん」
隣でエンジの叫びを聞いた愛梨亜達が、もう何度もしたやり取りでエンジを慰める。
三人と離れて仕事を受けることが決まってから既に何度もしたやり取りだが、すぐにまたぐずりだすので今後もこのやり取りをする回数は増えていくと思われる。
そしてチャイムが鳴り朝のホームルームが始まった。
時は過ぎて昼休みになりエンジ達四人は集まって昼食をとっていた。朝から休み時間になる度に検討を重ねていたエンジに持たせる装備も決まり、愛梨亜達の空気も幾分か穏やかになっている。エンジは依然として膨れていたが。
そんな四人に八巻はお礼と何があったのかを聞くために話しかけた。
「海野さん、陸井さん、空見さん、慈円寺さん改めて先日はありがとう。お陰で一応普通に生活できる事になったよ」
「あー、なら店でこき使うから覚悟して」
「エンジに深く感謝することね。私達だけなら見捨てていたわ」
「もちろん。感謝してるし、それ以上に申し訳ないとも思ってるんだ。だから俺にできることがあれば何でも言って欲しい」
「じゃあ代わって」
「もう、自分でやらないとって何回も言ってるじゃないですか、エンジ」
八巻の言葉にすかさず代わって欲しいと不機嫌そうに言うエンジを杏里沙が嗜めた。なおも不機嫌なエンジはミカちゃんに慰められながらモソモソ食事をとっている。
「朝もそう言われたけど、そんなにイヤなの?」
「そう」
「俺はあのクソばばあから聞いたくらいしか知らないんだけど、そもそも祓い屋の仕事ってなにするんだ?」
不機嫌なエンジの短い回答に困った八巻が、そもそもの疑問を愛梨亜達に聞く。その質問に三人は顔を見合わせた。
「百舌からはどう聞いたのかしら?」
「たしか怨霊と妖怪退治だって言ってたな」
「まあ間違っては無いね。間違っては」
「どういうこと?」
「昔はやっていたらしいんですが、今はそういうことはほぼやってません。今の祓い屋の主な仕事はちょっと厄介な除霊とか色んな依頼者の御用聞きとかですね」
「怨霊なんて今の時代そんなに出ないし、妖怪とは協定があるから向こうから依頼されない限り勝手に手は出さないんだよ」
「人だろうが妖怪だろうが狂暴なのを退治していったから今はみんな穏やかで、そうそうそんな事は無いわ」
八巻が百舌から聞いた話は色々な勢力との和平や協力協定が行われる前の大分古い仕事内容であり、今からすれば時代遅れもいいところだった。三人は八巻の回答から長老衆の時代錯誤の度合いを察してげんなりとする。
そもそも彼女らが長老衆という地位についた時にはもう既に今の仕事内容に変わっていたので、追放されても尚、争い事しか考えていない長老衆の救えなさがより際立った。
「なんか想像してたのと大分違うんだね。でもそれじゃあ何で慈円寺さんはこんなに不機嫌なの?」
「もう受けないって思ってたのに……」
「エンジはあたし達以外と組むの初めてだからね」
「今回の事は必要だったとはいえ私達が勝手に決めたようなものだから拗ねているのよ」
「うぅ~」
図星を突かれたエンジは唸りながら愛梨亜を睨むが、当の愛梨亜は素知らぬ顔で昼食を食べている。ちなみにエンジの睨みに迫力は全く無いので仔猫の威嚇程度のものでしかなかった。
「ほらエンジこれあげますから機嫌を直して下さい」
「うぅ~、…………あむ……」
「あと、今日からしばらくはお店開きますから、バイトの八巻君もそのつもりでいてください」
「わかった。頑張るよ!」
見かねた杏里沙が自分の食べていたデザートのプリンをエンジにあーんと食べさせてやり、最初はそれを見ないようにしていたエンジもプリンの香りに釣られて葛藤しながらも食べた。
プリンを食べるとエンジがふにゃっと笑顔になり、それを全員に生暖かく見守られたことに気づくとハッとしてまた不機嫌な顔でそっぽを向く。しかし、足は機嫌が良さそうに振られており感情を隠しきれていないのだった。
そんなエンジを笑顔で見ていた杏里沙が、思い出したように八巻に連絡事項を伝える。
店を開くのは彼を庇護下に置きバイトとして雇ったと怒れる方々に通知し先日の事態を鎮静化させたため、実際に八巻を働かせることでその実績を作らなくてはならなくなったせいだった。
それを燕から聞いていた八巻は勢い巻いて返事をし、愛梨亜達三人は彼に待ち受けるであろう客からの苦難を予想して今日は忙しくなりそうだと内心で苦笑いをする。
そうして話をしている内に昼休みが終わり、午後の授業が始まるのだった。




