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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
26/62

「店長権限」


 翌日エンジ達四人は学校をサボって四日堂を開いていた。

 定位置のソファーに座ったエンジの隣には動けるようになった赤いクマの縫いぐるみ姿のミカちゃんがちょこんと座っており、ずっと二人で楽しそうに手遊びをしている。


「結局、意識は表に出て動けるままなんだね」

「一時的なものではなさそうですね」

「良いことなのか、良くないことなのか判断に困るわね」


 そんな二人を観察していた愛梨亜達三人は困惑を隠せなかった。

 なにせ一時的なものだろうし、そうでなくても昨日数年分の浄化が水の泡になったせいで、また瘴気が増えて意識など保っていられないだろうと思っていたからだ。

 しかしその予想に反して瘴気の増加は微々たるものだし、ミカちゃんの意識は保たれている。三人が不思議に思うのも無理はなかった。


「エンジチャン、テンチョウサンナノ?」

「そうだよ」

「スゴイネ!」


 エンジ達二人は遊びながらも話をしていて、今はこの四日堂について話をしているようだった。ミカちゃんが質問するといちいち自慢げに答えるエンジに、愛梨亜達三人はまた適当な見栄を張ってしまわないかとハラハラしている。なにせエンジには梓に見栄で嘘をついたという前科があったからだ。

 聞いていると誰が店長かなど、エンジと三人で多少認識が食い違っている事があったが、特に重要な部分ではないため概ね問題なく説明が終わった。

 ちなみに実質的な店長は杏里沙で書類上の店長は本人は全く知らないが、エンジの母である燕だったりする。


 四日堂を開いたはいいが今日はいつもと違い、いつまで経っても客が誰も訪れない。

 営利目的で開いている店ではないので宣伝などしていないが、昼前のこの時間まで客が一人も来ないということはとても珍しい。いつもは宣伝してないのだから、来ないなら来ないで別に構わないというスタンスで営業している四人なのだが、今日は宣伝不足という理由で客が来ないのではなく、なにか違う理由だなと感じていた。

 とはいえ理由を調べるという面倒なことなどするつもりがない怠惰な店員達は、各々好きに勝手に遊んだり、寛いでいたりしていた。


「長老衆のこと、どうする?」

「実害が出た以上、対処しないといけないわね」

「とはいえ、今のわたしたちの状態じゃ、居所を捕捉するのも難しいですし……」


 カウンター席に座りスマホでニュースを流し読みしていた有夏がぽつりとそう言うと、カウンター内にある簡易椅子に座ってエンジ達を見ていた愛梨亜が有夏に向き直り言った。愛梨亜の意見を聞いて、久し振りに本格的に銀食器を磨いていた杏里沙は少し困った様子だ。


「そもそも何でアイツらミカちゃん欲しがったんだろ? アイツらにとって別に価値がある訳でもないでしょ?」


 有夏には先日四日堂を訪れた自分達の依頼人やエンジ自身にとっては重要ではあるが、長老衆という人間達にとっては、瘴気に侵された人間の魂を封じているものという以外に価値も利用法も無いはずのクマの縫いぐるみを欲した理由がわからなかった。


「さあね。エンジに対する嫌がらせ以外の理由は無いんじゃないかしら。それか誰かに頼まれたか……」

「あの八巻君が使ったっていう石の出どころも気になりますね」


 杏里沙は昨日から八巻の言っていた願いが叶う石というものが引っ掛かっていた。そのような機能を持つ物など、今まで過ごしたことのある多くの世界で存在しない代物だったからだ。噂話や物語ならば存在するが、実際に実物がある世界は数える程しか無かった。


「あー、あの石は多分異世界の奴だね」

「異世界のですか?」

「そういや、杏里沙には話してなかったかな?」


 有夏は自分の推測を聞いた杏里沙の反応を見て、先日、四日堂であった話を杏里沙に共有し忘れていたことに気がつく。有夏が愛梨亜の方を見て確認すると、愛梨亜も首を振って話していなかったことを肯定する。

 困惑気味に二人を見る杏里沙に愛梨亜が先日あった事を説明し始めた。


「この前、四日堂を開いた日にエンジと杏里沙が引き上げた後、依頼人のあの人が来たのはわかってるわよね?」

「依頼人って、この世界の管理者のあの人ですよね。ちょっとくたびれたOLみたいな雰囲気の」


 杏里沙がエンジと一緒に戻っていった後の事をどれだけ把握しているか確認すると、少し辛辣な答えが返ってきた。

 確かにそんな雰囲気ではあるけど……と思いながら愛梨亜は微妙な顔をして続ける。


「そうよ。あの人が言ってたのよ。この世界に異世界の神が不正に干渉したって」

「何か色々と取られたって言ってたね。向こうの上司の管理者にクレーム入れて返してもらったらしいけど」

「ああ、もしかして八巻君もそれですか」

「だろうね。最近って言ってたし、アレが休学してたのも最近でしょ? しかも、向こうの世界がどうこうって言ってたし」


 この世界の管理者である依頼人から聞いた話を杏里沙に教えると、杏里沙も今回の件の元凶はその神にあると察したようで食器を磨いていた手を止め、心底迷惑そうにする。


「今までの経験から言えば、そんな勝手なことをする神が上司の言うことに素直に従うわけないわ」

「何かまたやらかすだろうね」

「それで長老衆に接触したかも知れないと言うわけですか……迷惑ですね」


 自分達がこの世界の現地人として暮らしている今は、管理者に報告して抗議してもらうしか対処のしようがない事に三人はため息をつく。

 ミカちゃんの事もあり厄介ごとがどんどん積み上がっていくが、破壊神の封印に力のほとんどを割いている現状では出来ることは少ないのだった。


「今は長老衆もその神についても様子見するしかないわね。ああ、あとミカちゃんもね」

「せめてもうちょっと封印が楽になればねぇ」

「仕方ないですよ。今までと同じく力を上手く遣り繰りしていくしかありません」


 そうして三人は力の配分を見直し、エンジはミカちゃんと抱き合ってソファーで寝ていると入り口のベルが鳴った。




 扉を開いて入って来たのはエンジの母である燕と彼女に連れられてきた八巻だった。寝ているエンジ達はともかく、三人の機嫌が一気に悪くなり、そんな三人を見て八巻も萎縮する。

 非常に悪い空気の中、燕が挨拶をする。


「こんにちは。昨日は大変だったみたいね」

「いらっしゃいとは言えないわね。分かってるなら何故連れてきたのよ?」

「この子に関してちょっと問題がね……」


 いつもなら、すぐにエンジの所へすっとんで行きそうな燕がそうせずに、真剣かつ不満げな様子で八巻を見て言う。


「何かあったんですか?」

「私もだけど、燕尼が襲われたのを知って、いろんな所がお怒りなの。特に怒っているのが茶蛇巳様と悪魔の連中よ」

「茶蛇巳さんは分かりますけど、魔の方達もなんですか?」

「ええ。珍しく組合に接触してきたそうよ。例外規定者に危害を加えた犯人を殺すからしばらく騒がしくなるが許せ、とか言って」

「それ、多分向こうは犯人分かってないよね」

「そうみたい。疑いのある者を手当たり次第に殺すとか物騒なこと言い出したから、慌てて止めたそうよ」


 くたびれた雰囲気の燕と憔悴した八巻を取り合えずカウンター席に座らせ事情を聞いていくと、三人が思っていたよりも思いのほか面倒な事態になっているようだった。


「止めたって、よくあの人らを止められたね」

「そのとき対応したのが組合の若い幹部で、言い訳に犯人は燕尼の庇護下にあるから手を出されると困るって言ったらしいのよ」

「……それは馬鹿にしてるのかしら?」

「というか、そんなの嘘だってすぐバレるでしょ」


 怒りを滲ませる燕の説明に愛梨亜は静かに怒り、有夏は呆れる。杏里沙が八巻を見れば、彼は黙ったまま途方に暮れたような表情をしていた。


「それがね、この子に貴女達の封印が施されてて見逃された上に、何か手書きのノートを渡してたっていうウチの監視記録があったせいで変に納得されちゃって」

「……愛梨亜……まさかテスト対策のあれ……」

「あ、愛梨亜……大丈夫ですか……?」

「………………もういや……」

「愛梨亜!? しっかりして下さい!」


 続く燕の説明を聞いた有夏と杏里沙が恐る恐る愛梨亜の方を窺うと、愛梨亜は疲れきった顔で椅子にもたれ掛かり遠くを見て儚くなっていた。慌てて杏里沙が愛梨亜を揺するが反応はなかった。


 話が進まないので有夏は二人を放置して燕に話の続きを促す。


「それで色々言いたいことはあるけど、終わったんなら何でコイツ連れてきたのさ?」

「悪魔はそれで済んだけど、他の土地神やら妖怪連中のところは抑えが効かなかったのよ。悪魔にもああ言った手前、放っておく訳にも行かなくて貴女達の所で保護してもらうことにしたわ。組合が勝手にね」

「あたしらがそれ受ける必要無いよね?」

「私もそう言って抗議したんだけど、強制依頼ってことになったわ」

「……組合は正気なの?」

「それだけこの件に対して切羽詰まっているのよ。それにウチの監視員が侵入できない位の術を使える者を逃したく無いんでしょう。人手不足だし、今回の事を盾にとってあわよくば使うつもりよ」


 昨日からずっと交渉を重ねたであろう、かなり疲れてやさぐれている燕に有夏はそれ以上何も言わなかった。


 確かに組合から見れば八巻は特大の爆弾と化した。あらゆる者達の怒りをかってしまった以上、放置すればどこで八巻を巡る争いが起こるかわからない。しかも、それを手引きしたのが追放したとはいえ元身内の長老衆ともなれば、有り体に言ってこの国の人類存亡の危機と言っても過言ではなかった。

 しかし、組合の初手のミスによって皆の怒りの根本を被害者の自分達に預けてしまえとなるのは酷い話だった。





「んぁ、かあさま……?」

「おはよう、燕尼!」


 奥のソファーから寝起きの声が聞こえ皆がそちらを向くと、寝ぼけ眼のエンジが起き上がって居た。しぱしぱと目を瞬かせ燕の姿を見つけると不思議そうな声を出す。すると、先程まで不機嫌だった燕の機嫌が一気に良くなり席を立ってエンジを抱き締めた。


「何で居る?」

「皆に用事があったのよ」

「用事?」

「あの子のことよ」


 そう言って燕がさっきまでいたカウンター席の方を見ると、釣られてエンジもそちらを見る。そこには憔悴した笑顔を浮かべる八巻が居た。

 皆、エンジがどう反応するかを固唾を飲んで見守る。


「八巻?」

「そうよ、あの子をしばらく預かって欲しいの」

「そう…………なら、バイト」

「え? エンジなに言ってんのさ?」

「店長権限」

「エンジチャン、カッコイイ!」

「えっへん!」


 特に何も気にした様子もなくそう言うと、戸惑う周りをよそに褒め称えるミカちゃんに対して胸を張る。


「八巻」

「えっと、はい」

「バイトよろしく」


 それだけ言うと、ミカちゃんを燕に紹介し始める。燕は愛梨亜達の方を気にしながらもエンジの紹介を笑顔で聞き続けた。


「これは参ったね。どうする愛梨亜、杏里沙?」

「店長権限らしいですから仕方がないですね、愛梨亜?」

「……仕方がないわね」


 そのエンジの様子を見た三人は同時にため息をつくと軽く混乱している八巻の方を向いた。


「八巻。貴方、しばらくはここでバイトよ」

「……いいんですか?」

「良いも悪いも、うちの店長さんが雇っちゃったからね」

「こうなったからには厳しく仕込みますから覚悟してください。あと本当の店長は燕おば様ですから」

「本人知らないけどね」


 困ったように、呆れたようにそう言う三人だが、先程までの刺々しさは消えて、少しだけ八巻を受け入れていた。

 それを感じた八巻は目に涙を浮かべながら


「ありがとうございます。改めて、すみませんでした。一生懸命頑張ります」


 そう言って深々と頭を下げたのだった。

















「ああ、あと愛梨亜と有夏と杏里沙は昇級確定ですって」



「「「……はぁ?」」」

何か変かもしれないけど、とりあえずこんな感じで。


またゆっくり書いていきます。

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